第七十九話‐② アンデッドテーマパーク
長くなったため、第七十九話を二話に分割しました。
「うわぁ……テーマパークみたいだ……」
洋市の目の前には、地下空間にもかかわらず夜空があった。
星空の下には、人間の営みがかつてあったであろう、街の遺跡のような景色が広がっている。
ご丁寧に照明なども再現されており、セミーンの魔道具で灯りをともさなくても、ゴブリンの夜目であれば難なく周囲の様子を把握できる。
しかし、崩れた壁は修理された跡もなく、石でできたベンチは真っ二つになっている。
夜空の美しさと廃墟のコントラスト。
いよいよこの世界が『アルトヤ界』であると再認識する洋市であった。
街中を歩くが、人の気配は感じない。
皮膚のピリピリ感もなく、命の危険もなさそうだ。
しかし、何か酸っぱい臭いがする。
たくあんのような、悪く表現すれば生ごみのような、強烈な酸味を帯びた腐臭である。
「アンデッド出る!」
ノアが叫ぶと、家らしき建物の影から、目に仄暗い光をたたえた骨と皮だけの人間が出てきた。
即座にセミーンが半身離れ、ノアはその間から火魔法を放つ。
魔法の火は一気にその骨と皮を焼き始め、その光につられるように、人型、犬型の骨たちが襲い掛かる!
ガッタは直ちに自分を強化し、骨の群れに飛び掛かり、一見乱雑に剣を振り回す。
しかしその剣には焔がまとわれ、ほどなくして骨たちはバラバラになり、眼の光を失った。
「ヨウイチさん!アンデッドは俺とノアで叩く!セミーンと一緒にノアを守ってくれ!」
次々と登場するアンデッドたちは、動きは遅くとも数で圧倒しようと詰め寄る。
ガッタは最前線で焔をふるい、次々と骨と皮を切り刻む。
ノアは短い詠唱の後、火を空に花火のように放ち、それらがアンデッドたちに降り注ぐ。
たちまち燃え上がったモンスターは、焦げた跡を残すこともなく、魔石と素材に変化していった。
ノアのそばに近寄ってきた蛇のようなモンスターは、洋市がスキル【風刃】で対処。
毒を織り交ぜながら刃を放ち、危なげなく数匹の命を奪った。
マンナはソニックブームを継続して鞭から放ち、ノアの近くに敵を近寄らせない。
歩道の奥から振動と足音。
皮膚が腐ったかのような、亀のような個体がゆっくりと迫る。
セミーンは斧と盾を構え、ノアや他のメンバーと歩調を合わせながら、亀の体当たりに備える。
やがて、いななきとともに亀が口を開ける。
「ブレス!!」
ノアがセミーンを炎の膜で包む。
炎をまとったセミーンは迷わず亀のそばに移動する。
ダンジョンの異物に発射されるはずだった亀の吐息は、炎の膜に遮られた。
伸びきった首にセミーンの斧が振り下ろされるが、一度では叩き切れない。
そこにガッタが迅速に飛び出し、傷跡に追撃を加える。
首を失った亀は、魔石と甲羅の一部を残して消えた。
「へえ、甲羅残していきやがった」
「使い捨ての盾ぐらいにしかならねぇよ。アンデッドの強度だからな」
ガッタが珍しがるが、セミーンは持ち帰るのに消極的だ。
周囲が落ち着いたことで、洋市は甲羅の価値が少し気になりセミーンに聞いてみる。
「もし価値が少しでもあるなら、私が持ち帰っても構いませんか?」
「ん?ああ、別にいいぞ。ただなあ、アンデッド素材は耐久性も弱いし呪いがあるかもしれないしで、持ち帰るかどうかは判断に迷うところだなあ」
「の、呪いですか……?」
「いやまあ、身に着けてしばらくしてから発動するのが普通だから、マジックバッグに入れる分には問題ないぞ」
セミーンによると、あの亀のようなモンスターは『デッドリーシルフィタートル』といい、アンデッドでなければ手ごわいらしい。
アンデッドでない場合は『シルフィタートル』となり、風属性・水属性を帯びた甲羅は良い防具の材料になるのだとか。
しかし、デッドリーシルフィタートルの甲羅が呪われていると、どういう影響が出るかは未知数だという。
「呪術師とか一部の闇魔法使いなら、解呪もできるし呪いの分析もできる。もしハンスルにトゥイさんがまだいるなら、ひょっとしたら鑑定とかしてもらえるかもな」
何とかお金にはなるだろう。
そう判断した洋市は、生まれて初めて見るアンデッドの素材をマジックバッグに入れる。
大きさからして、一見中に入らなそうに思えるが、甲羅の端っこを内部に入れようとすると、スルスルと甲羅が小さく収縮して入っていく。
現代日本では絶対に見られない不思議現象を目の当たりにして、一瞬洋市は理解できずにいたが、ここは異世界だと気持ちを切り替えた。
「アアァァ……」
「ホオォォ……」
次の階段を目指すべく奥へ向かうと、錆びたような剣を持つ兵士のスケルトンや、杖を持ちボロボロの帽子をかぶる魔術師のようなスケルトンが登場した。
何かを発することはできないようで、不気味な吐息を吐きながら近づいてくる。
「前衛止めて!」
「「おうよ!」」
ノアが詠唱に入っている間、無防備にならないようセミーンとガッタがスケルトンを相手する。
魔術師のようなスケルトンは、詠唱はできないのか、杖で殴りかかろうとする。
『スキル【風刃】!』
【隠形】で姿を消しつつ、ノアのそばに近づくスケルトンを見えない刃で切り刻む。
骨の継ぎ目にあたると身体を崩すことを覚えた洋市は、狙いすまして風刃を打ち続けた。
マンナは引き続きソニックブームで周囲を護りつつ、左手に木札を構える。
自分の周りに敵が近づいたことを確認してから、鞭で集団の中心部に木札を飛ばす。
その際、衝撃で割れた木札が、周囲にまばゆい光をもたらす!
「イイィィ!!」
「アアァァ!!」
スケルトンたちは、何ルーメンになるのかも分からない激しい光が円状に伝播する中で、ことごとくその姿を消し去っていった。
洋市の目が光で眩む中、自分のそばで何か、大きな空気のうねりのようなものを感じた。
ノアが詠唱する。
「火の精霊よ、暗闇の死者の群れから、我らが身を浄火の波濤で祓い清め守り給え!『熱狂』!!」
突如、ノアの周囲から熱風が光線のような光を帯びて吹き荒れる!
それはパーティーが感知できる範囲では、おそらく酷暑下で扇風機から吹いてくる温風のようなものだった。
しかし、アンデッドに届くタイミングで、赤外線ヒーターのような赤みを帯びた熱風に変わった。
ゴオォォォ……という、ガスバーナーで火を噴くような音を鳴らして、熱風は周囲一帯のアンデッドを一気に燃やしていく。
その後、淡い光が辺りに散乱し、魔石と素材に変わっていく。
「まるでパチンコの確変演出みたいだ」
戦いの脅威とその後の幻想的な風景を、独特な表現で言葉にする洋市。
現代日本の娯楽施設を思い浮かべたとき、洋市の頭には、かつて自分の部屋で不安そうに笑っていた女性の顔が浮かんだ。
『亜希さんは大丈夫だろうか』
亜希が持つスマホにインストールされた『アルトヤ界観光ガイド』のようなツールがない洋市は、須田市で寂しい夜を過ごしているかもしれない亜希を心配した。
──────────
「──へくしっ!!」
洋市がダンジョンアタックに勤しんでいる頃。
亜希はすっかり酔いつぶれ、エミと一緒にリビングの床で眠っていた午前十一時半、首筋をなでる冷えた空気で目を覚ました。
「……ぁああ……久しぶりに家でしこたま飲んだぁ……」
身体が火照っていたのか、熟睡中にかけていた毛布を豪快に蹴り飛ばしていたようで、目を覚ましたとき亜希の身体は冷え切っていた。
エミはぐっすり眠っているが、今日は非番のはずなので、ゆっくり寝かせてあげたいと亜希は思った。
「よぅし、シャワー浴びるかぁ」
亜希はできる限り静かに動いて、自分の部屋のチェストから着替えを取り出し、給湯器のスイッチを入れてシャワーを浴び始めた。
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