第七十九話 ダンジョンアタック
バンパイアワイバーンの巣穴は、切り立った岩肌のやや高い位置に、ポッカリと口を開けていた。
以前のようなダンジョンブレイクを想定して、周囲を警戒するマンナとガッタだったが、外から魔物らしき存在が出入りしているような形跡はない。
ノアは左手をかざして日光を避けつつ、自分の目でもダンジョン入口の状況を確認する。
「こーれは……外に溢れ出すリスクはなさそうか。じゃあ予定通り、ダンジョンアタック決行!」
リーダーのノアが号令を出すと、兵士たちはダンジョン周囲に陣取り警戒を開始する。
その様子を確認してから、ノアは地面から見た巣穴の高さを目視で測り、短く詠唱する。
すると、地面がモコモコと盛り上がり、階段状に形成されて巣穴に届いた。
即席の足場の完成である。
『すごいな、魔法は本当に便利だ』
洋市が感心して足場を見ていると、ガッタが特に悪気もなさそうに足場を作った理由を説明する。
「俺とかマンナはロープで登れるんだけど、セミーンは重装備だし、ノアは身体そんなに鍛えてなくて自力じゃ登れないから階段……」
「悪かったわね!これでも街の女どもに比べたら力こぶあるんだから!」
ガッタの声が聞こえ、大声で開き直るノア。
「い……いや、そういう意味じゃなくてよ……」
慌てるガッタの様子を見て、マンナがフォローする。
「リーダーはパーティーの頭脳になってくれればそれでいいの。詠唱すら満足にできないザル頭の誰かさんとは違ってね」
「おい!そこまで言うこと……」
「い、いや、そこで喧嘩してどうすんのよ!」
今度はノアがあたふたするのを見て、マンナはペロッと舌を出し、ガッタもため息をついてセミーンの後ろに回った。
長い付き合いで、マンナもガッタも、直情的なノアを落ち着ける方法を知っていた。
そんな様子をセミーンは冷静に観察しつつ、最前線で戦えるよう武器と盾を構えた。
ノアが階段の位置からパーティーのもとへ戻ってきたのを見て、マンナと洋市もノアの後ろにつく。
セミーン、ガッタ、ノア、マンナ、洋市の順番で縦に並ぶと、ノアがダンジョン内での陣形について説明する。
「ヨウイチ、ダンジョンの中が広くなったら、前後左右に広がる『十字』の陣形をとるけど、入口から少し歩いたところまでは狭いと思うから、基本的にはこの一列の隊列を継続するから。後方の警戒はよろしくね」
「分かりました」
マンナからの説明と指示を受けて、洋市はいよいよ異世界でのパーティーバトルだと気合を入れた。
セミーンがランタン型の魔道具を使って周囲を照らし、パーティーは通路を慎重に奥へと進んでいく。
次第に周囲の空間が開けてきて、天井も心なしか高くなってきた頃、洋市は神秘的な風景に出会った。
「これは……鍾乳洞か?」
洋市の目には、地球で見るところの鍾乳洞のような光景が広がっていた。
垂れ下がったつらら石には、まるで星の光のような淡い輝き。
光のない洞窟の中に、優しい光がわずかに点滅しながらぽつり、ぽつりと灯っている様子は、プラネタリウムを連想させた。
「綺麗に見える?ヨウイチさん。これはダンジョン内に生息している虫が光ってるのよ。どんな虫かは興味ないから知らないけど……ね」
マンナによると、ダンジョンにもモンスター以外の生物は生息していて、中には虫や爬虫類のような生き物はモンスターの餌として招き入れられていることもあるという。
地球のヒカリゴケとは違う、異世界ならではの生き物の生態系について、さながら社会科見学の感覚で興味深く周囲を見渡していた。
やがて十分な広さのある空間まで到達した後、パーティーは直ちに十字の陣形へと移行する。
その時──
「接敵!左から来る!」
マンナの鋭い声が響き、直後、闇の中からコウモリのような姿をしたモンスターが飛び出してきた!
「おらっ!!」
マンナは手元に用意していた黒革の鞭を振るう。
パアァァン!とソニックブームを放ちつつ、コウモリの翼を捉えて地面に叩き落とす!
すかさずセミーンが斧で首を刎ね、息の根を止めた。
血が飛び散ることはなく、淡い光とともにコウモリは翼と小さな魔石に変わった。
セミーンは慣れた手つきで魔石と素材を回収し、自分が背負っているマジックバッグへと放り込んだ。
何か手伝おうと思い、洋市はセミーンに声をかける。
「背負いましょうか?私のバッグで」
「気にすんなヨウイチ、多分な、複数匹がバーッとまとめて出てくるのは、もう少し奥に行ってからだと思うぞ。今はそんなに気ぃ張るな。ダンジョンはこれからだ」
少し肩に力が入っている様子の洋市を見て、セミーンが気負いをほぐそうとする。
洋市もその意図を汲み、少し深呼吸して元の位置に戻る。
その後も、一行は散発的に現れるコウモリや、小動物型のモンスターを静かに素早く退治しながら、ダンジョンの奥へと進んでいく。
やがて、左右に立派な石柱のようなものが築かれている、幅広い下り階段が現れた。
マンナが洋市を連れて下の様子を窺う。
「これは下階への階段なんだけど、一応、斥侯は階段周囲に罠がないかどうか確認しておくの」
洋市が質問する。
「例えばどのような?」
「第一層ではまずないんだけど、階段周辺に落とし穴があったり、特定の段を踏むとモンスターが出現したりするのが多いわね」
「性格悪いですね」
洋市が素直な感想を言うと、マンナはふふっ、と笑った。
「まあ、ダンジョン自体が生き物っていう説もあるくらいだから。ちなみにここにはないわ。落とし穴なら大抵、分かりやすく地面の色が周囲と違うし。モンスター出現の罠は、段差が少し緩くなっていたり、逆に急になったりするポイントは注意ね。ここは大丈夫」
確認を終えた後、一行は隊列を崩さず階段を下っていく。
階段は踊り場式で何度か折り返されており、石造りながら団地やホテルの非常階段のように続き、底へ底へと一行を導いていく。
数回踊り場を過ぎた後、次の階層に着いた洋市たちの目の前には、おそらくかつて街だったものがあった。
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