第八話
陰蛇と冒険者たちが呼んでいた蛇は、洋市、というかゴブリンの爪から出た毒によって倒れた。
しかし、この巨大な亡骸をどう処理すべきなのかは、洋市には分からない。
『あの冒険者たちが戻ってきたら、色々と話が聞けるんだろうけど、それはないだろうな』
もしあったとしても、この姿でまともなトークが成立するわけがない。
洋市はそう考え、まずは自分のステータスを確認してみることにした。
[種族]
ゴブリン(変異種)
[ジョブ]
スカウト(斥候) Lv.20
[体力/魔力]
1,200 / 250
[スキル]
隠密 Lv.8 : 森や洞窟などで風景と同化できる、目視は熱探査能力がない者には難しい
夜目 Lv.3 : 光がまったくない場所でも、周囲の風景を大まかに認識できる
盗取 Lv.1 : 相手に気付かれず、モノやスキルを盗むことができる(確率10%)
毒爪 Lv.5 : 爬虫類に効果的な毒を、自分の爪から出すことができる(致死率50% / 攻撃回数)
マッピング Lv.1 : 過去に自分が行って命名した場所を簡単に確認できる
[変身時間]
958/960 分
[特殊スキル]
勇気の欠片(小): 日本とアルトヤ界を行き来するためのエネルギー(6/6)
スキル解説(弱): 現在自分が取得しているスキルの概要が分かる
[人間味]
70/100 : 比較的人間よりの思考・嗜好
[持ち物]
毒魔法
隠形
[ステ―タス開示状況] 8項目
『これは日本に戻ってからじっくり読みたいな』
新しい情報が増えたことで、洋市は自分が成長していることを理解した反面、このデカい蛇をどうにかするスキルは身に付いていないことも把握した。
そして、ゴブリンとして活動すると、どうやら人間(洋市自身)としての本来の思考や嗜好が失われる可能性があることも、数値からある程度解釈した。
そして、収穫もあった。
爬虫類に対する毒を、あのリス(エビルスクワロル)は持っていたことになる。
ゴブリンは、とりあえず爬虫類ではないので、おそらく毒が効かなかったのだ!
ただ、この毒が他の種に通用するかどうかは、この文面からは分からない。
あくまでも“効果的”なのが爬虫類であって、哺乳類型の魔物にも効くのかもしれない。
逆に考えると、自分が出した毒で死んでいるのだから、この蛇は触っても、何なら食べても大丈夫だ。
そこまで考えて、洋市は自分の爪で蛇を解体できるか試みた。
蛇の鱗や筋肉自体は、爪で簡単に引き裂けた。
しかし、とにかく巨大であるため、マンガのようにバラバラに刻むのは難しい。
とはいえ、まったく収穫がない、ということもなかった。
日本にいるとまず見ることのない、大蛇の内部が夜目スキルによって非常に良く見えたからだ。
『確か、内臓はずっとつながってるんだったよな』
おぼろげな知識を頼りに、洋市は大蛇の内臓を探索していく。
地球にいる蛇たちと身体の構造は多少違うだろうが、確か身体の中ほどに胃があったはず。
爪で裂くまでは袋状だったと思われる部位を見ると、すっからかん。
どうやら空腹だったらしいことは分かる。
『そこに三人もエサが来たわけだから、当然そっちを優先するよな』
まるでダンジョンを進むかのように、洋市は蛇の身体を探検していた。
やがて、心臓と思しき場所に辿り着くと、そこには赤々と光る何かがあった。
夜目のせいで非常に眩しく感じるが、ひょっとしたらまだ大蛇が生きている可能性もあると考え、とりあえずスキル「盗取」を使って盗ってみることにする。
といっても、スキルを意識したところで身体が軽くなることも、手の動きが滑らかになることもなく、その“赤い光”に手を伸ばしただけ。
すると、心臓を破ることなく、洋市の手には赤い石が握られた。
同時に、大蛇の生命の営みが、完全に潰えたような感覚があった。
> 「陰蛇の魔石」を獲得
> スキル「盗取」がLv.3にアップ
『おっ、アナウンスだ』
どうやら、モンスターは魔石を持っているらしい。
問題は、この魔石がどんな効果を持っているかだが……。
『ステータスを見ても分からないな』
レベルアップが必要なのか、それとも現地の誰かに聞いた方がよいのか。
とりあえず、何に使えるか分からないから、持ち帰ることにしようと洋市は考えた。
その後も大蛇の体内を調べたが、結局鱗や肉を持ち帰るのはあきらめた。
財布に加工することもできなければ、料理の仕方も分からないからだ。
『それにしても服が汚れた。もうこのパジャマは着れないな。せめて身体の血だけでも落とそう』
せっかく湖がある。
洋市はそう考え、湖に自分の身体を浸しつつ映しながら、ジャバジャバと頭や身体を洗う。
ゴブリンの身体で清潔感を求める必要があるのかは分からないが、とりあえず血だらけのスプラッター映画状態からは脱却できた。
しかし、人間として当然の、しかしゴブリンとしては違和感がある意識から、パジャマをいったん脱いで、洗って、絞って、着直した。
『風邪はひきたくないからな』
まずは、せっかく手に入れたマッピング機能を使って、日本へ帰ろう。
赤い魔石を握りしめながら、洋市は暗がりと森の緑に隠れながら、“パキラ”という名称のワープポイントへ移動することにした。
ワープしたばかりの頃と違い、洋市の周辺には、あの巨大オオカミから感じた危機感がない。
やはり、身を隠しながら進めていることが、その理由かもしれない。
注意を払いながら歩きつつ、時折マップをチェックして、自分が“パキラ”に近づいているかどうかを確認する。
結果、行程は問題なく進み、洋市は自分が命の危機に瀕した場所へと戻ってきた。
『やっぱりあるな』
さすがに、パキラそのものはワープしてきていなかったが、相変わらず揺らぎは健在だった。
さっそく揺らぎに手を伸ばそうとしたが、なぜかはじかれてしまった。
> 「陰蛇の魔石」は日本へ持込不可
> アルトヤ界にて使用せよ
どうやら、魔石は日本に持ち込めないようだ。
パジャマは着たままでも大丈夫だったので、おそらく魔石というものが特殊というか、日本にはない概念だから持って行けないのかもしれないと洋市は推測した。
しかし、どうやって使用すればよいのか分からないため、とりあえず魔石を強く握ってみる。
すると、洋市の身体は赤い光に包まれ、すぐに収まった。
> 特殊スキル「変化:陰蛇」を獲得
『こうくるのか』
一般的なファンタジー小説の場合、魔石はスキル獲得やその世界での動力源に使用されることを、洋市は知っていた。
しかし、モンスターが魔石を使って何かした、という話はよく知らない。
それゆえ、自身が得た魔石のモンスターに変化できるというのは、若干面白みがあった。
もっとも、そのまま大蛇の姿になれば、日本なら自衛隊に駆逐される未来しか見えないが。
『とりあえず、もう一度手を伸ばしてみよう』
次は問題なく、揺らぎに手を伸ばすことができ、手を引かれた先には見慣れた光景があった。
ただ一人、見慣れぬ人物が正座しているのを除いて。




