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☆第二章本編完結済/120話突破☆【ゴブリンマン】~魔王にゴブリンにされた40代限界フリーランスは、訳ありガールズバー嬢と異世界を往復して人生をやり直す~  作者: 広瀬
第二章 ゴブリンマン活躍編

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第七十五話 作戦開始とコミュニケーション

※字下げを実行しました。

 死闘の森の砦、森側の入口には、総勢九名の手練れとその他一名が集まっていた。


 アサンの水源メンバー四名。

 砦で勤務する防衛兵五名。

 そして異世界転生者の洋市だ。


 バルカスとの話し合いの結果、今回は夜のうちに中間地点である『命の泉』へと向かい、翌日からダンジョンアタック、つまりダンジョン内に入ってモンスターをできる限り狩る方針を固めた。

 そして、防衛兵はダンジョン外に出たモンスターを狩るための準備をする。


 しかし、洋市の目から見ると、冒険者であるアサンの水源メンバーに比べて、防衛兵は装備がそれほど入念でないように感じられた。


 この点を疑問に思った洋市が、誰にともなく質問すると、セミーンが防衛兵の内情を小声で話す。


「ヨウイチ、防衛兵はな、ダンジョンの中には入れねえんだ」


「……何か理由が?」


「今回向かうダンジョンはよ、まだ国の方で“ダンジョン確定”じゃねえのさ。だから国とギルドが取り決めてる補償契約の対象外なんだ」


 ダンジョン内でケガをしたり、致命的な毒を食らったりしても、国からお金が出ない。

 つまり、治療費は自腹になるということらしい。


 洋市はその背景に興味を持った。


「わざわざ対象外にしたのは……?」


「国から通達が出なきゃあ兵士の独断って判断される。ダンジョンってのは、基本的にお偉いさんが認定しないと公的には認められないから、言い方は雑だが趣味で入った奴に補償なんか付けられねえ、ってことさ」


 例えば、仕事で登山をするなら登山者向けの保険に加入しなければならない、といったイメージだろうか。

 このあたりは少し複雑なようで、過去の事件について説明する。


「昔の話だが、一部の強い兵士が国に内緒でダンジョンを独占したって事件があったんだ。小規模だから偵察がてら魔物を退治してた、って言えばバレねえって思ってたらしいんだが、結局見積りが甘くてブレイクしたから、近くの村が丸ごと消えたんだ」


 この事件に関係していた兵士たちは捕まり、全員が斬首刑という結末を迎えたとのこと。

 もっとも、そうでもしなければ、遺族や近隣に住む住人が納得しないだろう。


 異世界とはいえ、兵士たちは組織に属する公務員的労働者である。

 したがって、ルールにのっとって仕事をしなければ、国から裁かれることになるのだ。


「どの世界でも、悪いことはできないものですね」


「ふふ、そっちにも似たような話がありそうだな。まあそんなわけでよ、今回は防衛兵に俺たちの討ち漏らしを仕留めてもらうってことだ。内部には五人で入るぜ。準備はいいな?」


 セミーンは不敵に笑い、洋市の闘志を鼓舞しようとする。

 洋市は、それを信頼の証と理解し、口角を上げて応える。




「男同士で暑苦しいのうらやましいわー」




 突然、二人の間にノアの顔が割り込み、洋市に質問を投げかける。


「ところでヨウイチ、ダンジョンアタックってしたことないよね?」


 洋市は素直に答える。


「はい。初めてです。何ならダンジョンについても内部は全く分かっていません」


「いやじゃあなんでそんな手練れ感出してんの?」


 ノアはセミーンと分かり合っているかのように語り合う洋市を見て、どうしてそんなに余裕があるのか不思議に思って質問した。

 しかし、洋市はそれを『油断を指摘された』ものと理解し、ノアに謝った。


「すみません、油断と言われればそれまでです。少し気分が高揚していました」


「あ、いや、内部の状況は私たちも分かんないし、別に責めてるわけじゃないよ?純粋に気になっただけ。基本的な事項だけでも押さえとく?」


 ノアは出発前の時間を使って、簡単にレクチャーしようかと思っていた。

 そこでマンナが声をかける。


「ヨウイチさんなら大丈夫だと思う。事前に説明したら頭が混乱するだろうし、実際に中を見てから説明した方が覚えもいいでしょ。斥侯としては私が色々サポートするから安心して」


 マンナがついてくれるなら安心だと、洋市は胸をなでおろした。


 洋市たち五名のコミュニケーションが一通り済んだところで、この作戦のリーダーであるノアが、兵士も含めた参加者全員に方針を伝える。



「えー、それでは今回の作戦について説明します。本日はこれより仮称“命の泉”にて前泊。翌朝に暫定ダンジョンへ向けて移動を開始します。国交通商局への報告書にもあった通り、遭遇する魔物は弱体化傾向にあり、命の泉付近での魔物遭遇率は大幅に減少しています。したがって天幕または避難壕による休憩をはさみ、翌日の午前八時より移動を開始します。その後アサンの水源はダンジョンアタック、防衛兵の皆さんには討ち漏らしの討伐をお願いします。ダンジョン内での活動は臨機で。その他質問があれば随時受け付けます。よろしくお願いします」



 話を聞いていた全員が「了解!」と返す。


 よどみなく説明するノアの姿に洋市は感動した。

 どちらかというと、ノアに関しては挙動不審な姿を見ることが多かったため、プロフェッショナルな一面を垣間見て人物評を見直した。


 そんな洋市の様子を横目で見ていたマンナは満足そうである。

 ガッタは待ちきれない、といった感じで、セミーンと一緒にさっそく隊列を組もうとして、自分たちのもとへ戻って来たノアに質問する。


「なあノア、ヨウイチさんはどこにするんだ?」


 ああそれな、という顔をして、ノアが軽く案を出す。


「今日は一応、斥侯見習いって感じでお願いしようかな。マンナと同じポジションにいて欲しいかも」


 洋市は方針を理解した上で、自分のポジションを確認する。


「隊列の後ろですか?」


「そだね。私が中心で、前方がセミーン、右斜め横にガッタ、左斜め横にマンナってのが基本なんだけど、今回は前後左右で十字にする?」


 マンナが頷く。


「そうしましょう。ヨウイチさんにはメンバー全員の動きも見て欲しいから、今回はノアの後ろを守ってくれる?」


 分かりました、と洋市は返したが、ノアを守れるのかどうかについては不安があった。

 表情を読んだマンナが洋市の肩を叩く。


「大丈夫よ、守るといっても、四六時中一緒にいるわけじゃないから。私が討ち漏らした場面や、明らかにノアが無防備な時に盾になってくれればいいから。もっとも、そうそうそんな場面はないと思うけど」


 ノアが自分の胸を叩く。


「心配ない!いざとなったら私直々にヨウイチを盾に使って防御するから!感謝しなさい!」


「いや普通に逃げてくださいよ」


 無茶ぶりには素直にツッコむ洋市であった。




 道中は、マンナの【隠密】と洋市の【隠形】の恩恵もあって、敵に気取られずゆっくりと進めた。

 防衛兵の中にも【隠密】持ちが配備されており、一行は三時間弱かけて命の泉に辿り着いた。


 仮眠の準備を始める兵士の面々を見て、洋市は大変なものを忘れていることに気が付いた。

 近くにいたマンナに事情を説明する。


「すみませんマンナさん、買い物の日、自分の寝袋などを買っていなくて……」


 気まずそうに相談する洋市に、マンナは一瞬何を聞かれていたのか分からなかったが、すぐに意図を理解して笑いかけた。


「ああ、それは全然心配ないわ。ウチの野営はノア様が土魔法で避難壕を作ってくださるの」


 オホホ、と上品に笑いながら、貴族の真似をしてノアが近づいてくる。


「そうでございますのよ、この私が、わ・た・く・し・がぁ! 皆さんのために作って差し上げてよ。ヨウイチもいらっしゃるから一人分大きくして作って差し上げるわ。よくって?」


 ──これはボケのターン、と洋市は直感する。


「よくってよ」


 洋市は裏声を使って、ノアのトーンに合わせるように返事をした。


「あはははは!何その声!甲高い!」


「ふっ、ふふははは……もう、ヨウイチさんも面白いわね!」


 低く落ち着いた地声が、プライバシーボイスの声質で甲高く聞こえたこともあったのか、二人はお腹を抱えて笑い出した。

 どうやら、洋市は異世界の女子二人の気持ちをつかむことには成功したようだ。


 避難壕の位置取りをしていたガッタは、どうやら洋市が冗談を言ったらしいと気付いてもう一回聞きたいと思ったが、それも冷めるので言わないことにした。

 周囲を警戒していたセミーンは、心の中で『商人ともなれば人心掌握にも長けるか』と真面目なことを考える。


 位置取りが終わったので、ガッタがノアに声をかけると、ノアは詠唱に入る。


「土の精霊よ、夜露に濡れる小さき者どもに、笑いと安らぎをもたらす埴生(はにゅう)の宿をお恵みください。『土壁の家(ホームスイートホーム)!』」


 ノアが詠唱を終えると、ガッタが指定した場所に魔力の光が灯り、たちまち黄土色に輝く土壁が出てきた。

 すぐに入口らしき穴が空き、小さな庇(ひさし)のついた窓もできる。


『すごい……まるでトーチカが住宅用に改装されたようだ』


 魔法という、現代日本では奇跡以外の何物でもない御業に、洋市は思わず両手を組んで祈った。

 その様子を、セミーンはどこか神妙な面持ちで観察していた。


『やっぱりヨウイチは只者じゃねえ。あの魔法が普通じゃないことに気付いてるな』


 本来、土壁の家(ウォールハウス)は、大きさが決まっている魔法である。

 日本でいえば、工事中などに設置する簡易型トイレくらいの大きさにしかならず、用途も倉庫的な役割しか果たせない。


 しかし、ノアはそこに自分のイメージを乗せて詠唱し、家族が仲良く暮らせる家を具体化して土壁の家(ホームスイートホーム)を建てられる。

 これはノアの才能と研鑽の賜物であった。


 もちろん、洋市はそんなことなど知らないので、単に美しいものを見て心洗われた結果、自然と出たジェスチャーに過ぎない。

 しかし、その背景には宗教的教養、もしくは魔術的教養があるとセミーンは判断した。


 一仕事終えたノアは、ふう、と息をついて、それから兵士たちのところへ行く。


「もしよかったら、同じようなものを建てますけど、どうしますか?」


 おお、というざわめきの後、是非お願いしますとの意見を聞いて、ノアはもう一度同じ魔法を発動する。

 こうして、命の泉には、即席の埴生の宿が二つ並んだ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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これからも『ゴブリンマン』をよろしくお願いいたします。

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