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☆第二章本編完結済/120話突破☆【ゴブリンマン】~40代限界フリーランスはゴブリンになっても人間味と仕事が欲しい~  作者: 広瀬
第二章 ゴブリンマン活躍編

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第七十二話 不審死と勘繰り

※字下げを実行しました。

 スペアキーをジッパー付きのポケットにしまった後、亜希は「久しぶりにダラダラしますか」と言い残し、洋市の部屋を後にした。


 二人の信頼関係には、今なお打算がマーブル状に入り混じっているが、その空気感は洋市にとって決して不快なものではなかった。


『さて、作業開始だ』


 洋市は、久しぶりにフリーランスとしてのや(・)る(・)気(・)ス(・)イ(・)ッ(・)チ(・)をONにし、PCの電源を入れた。

 パスワードを入力してロックを解除し、メールチェックを行う。


 大きな問題やクライアントからの催促がないことを確認し、洋市はブラウザを開く。

 トップページからニュースサイトへ移動すると、全国面では予想通り「二条翔」が全国指名手配されているとのニュースがあった。


『この調子だと、事件はこのままお蔵入りになってくれるだろう。だが、被害者の方からすれば怒りが収まらないだろうな』


 仇は取った、と伝えられたら、どんなに楽だろう。

 洋市は自分の罪深さを呪ったが、同時に自分でなければ魔物化した翔にとどめを刺せなかっただろうとも思った。


 次に、情報収集も兼ねて地域面を見ると、須田市では空き巣事件や市役所職員のセクハラといった、言ってしまえば刺激のないニュースばかりが並ぶ。

 一時期ネットを騒がせたであろうゴブリンマンの話題など、もはや空へと飛んで行った風船のようなものだった。


『ネットの住民というのは、本当に今しか見ていないんだな』


 自分自身も、かつては今(・)だ(・)け(・)を(・)追(・)い(・)か(・)け(・)る(・)ブロガー兼ライターであった。

 だからこそ、いざ当事者になると、その薄情さが心を傷つけるのを思い出す。


 せっかく情報収集に時間を割いているのだからと、次はタイムライン型SNS『Talker』の検索欄に、念のため「ゴブリンマン」と打ち込んでみる。

 すると、これまでゴブリンマンに対してネガティブな投稿をしていたアカウントの動きが止まっていた。


 その代わりに、一部のオカルトマニア・都市伝説系のアカウントが、ゴブリンマンの生態や動画の質について議論している。


 ──────────


 @baru_samiko

 須田市の緑の怪人ってどこ行っちゃったの?

 ホントこの国肝心なニュースは追っかけないんだなー


 ──────────


 @anonymous_999

 情弱はいつまでも情弱だな……

 あんなのAI生成に決まってんだろ。


 ──────────


 @occult_post_tick

【考察】須田市の緑ゴブリン、実は「酒呑童子」の子孫説。大江山の地下水脈と須田湖はその昔つながっていた!?


 ──────────


 最後の方は、どこでどうしてそんな噂になったのか知りたくなるほどだったが、詳細を確認している時間はなさそうだ。


『いつか、本当のゴブリンマンとして真実を暴露してやる……』


 いい加減なことばかり言うアカウント主のところへ行き、一人ひとり蹴り倒したい気持ちを抑え、洋市は将来の夢を鮮明に頭の中で描いた。

 とりあえず、今は目先の収入源を優先する。


 クラウドソーシングサイトを開き、受注しているライティング案件の納期をチェックする。


 現時点では、月曜から水曜までの間に、納品が必要な記事が三本ある。

 加えて、構成案を事前に作成し、確認を待つ案件が二件あり、こちらは金曜まで。


『記事は……今日のうちにバルカスさんから話を聞いてすぐに帰れば、全部火曜日までに納品できるだろうな。で、水曜に構成案の提出をしておけば問題ない』


 洋市は、想定されるスケジュールをデスクダイアリーに書き込んだ。

 あとは、スキル【タブレット】にデータや情報を入力できるかどうか。


『よし、【タブレット】と【キーボード】起動』


 洋市がスキル発動を意識すると、目の前に銀色のタブレット『G-Slate』が表示される。

 その手前には、JIS配列の青白いキーボードがピタリと浮いている。


 さっそくキーボードをたたき、メモ帳機能で簡単にスケジュールを残す。


 それから洋市が自宅のPCに向き直ると、スキルで出てきたタブレット、キーボードは、洋市の意図を汲むようにして左側に移動する。

 さながら、日本で一世を風靡した有名作曲家のように、右手、左手でそれぞれ違うキーボードを操っているかのようだ。


 まずは実験として、自宅のPCでダミーのテキストファイルを作成する。

 次に、それをオンラインストレージである“Gドライブ”に移動する。


『Gドライブにアクセスできるか?』


 タブレットには、製造元であるG社の各種サービスが、一つのアイコンにまとまっていた。

 それをタップし、自分のオンラインストレージにアクセスを試みる。


 すると、自分がスキルで呼び出したタブレットから、ダミーのテキストファイルを確認できた。

 これで理論上は、オンラインストレージを介して、タブレットのローカル環境にファイルをダウンロードできることになる。


『いけた!マジでどうなってんのこれ?とにかく、次はセキュリティの強化だ』


 セキュリティ強化といっても、アルトヤ界にインターネットは存在しないはずなので、いわゆるサイバー攻撃・ウィルス感染といったリスクはゼロに近いだろう。

 しかし、タブレットの画面を誰かに見られたり、魔法を使ってデータを盗み取られたりする可能性はあるかもしれない。


 そこで、洋市は自宅のPCからセキュリティソフトのインストーラをダウンロードし、先ほどと同じ要領でタブレット環境へ移行させた。

 不思議なことに、現代日本では洋市の部屋のwi-fiがつながるらしく、無事タブレットへのインストールが完了した。


 次はいよいよ本番。

 執筆に必要な資料やWebページなどの中から、機密性が薄いものだけを選別する。


 それらは、すべてパスワード付のPDFに変換し、Gドライブを介してタブレットのメモリに詰め込まれた。


『秘密保持契約(NDA)について、亜希さんにも説明した方がいいかもしれない』


 もし自分の部屋のベッドで寝るつもりなら、なぜ机やPCを触れないよう注意したのか、詳細を伝えるべきかもしれないと洋市は思った。




 数十分後、必要な分だけのタスク整理、ファイル移行を完了した洋市。


 しかし、仕事を終えてブラウザを閉じようとしたとき、マウス操作を誤ってしまい、ニュースサイトの『首都圏ページ』のリンクに飛んでしまう。


 画面が切り替わると、不穏な見出しが洋市の目に飛び込んできた。


 ──────────


 東京・新宿の歓楽街、雑居ビルの地下でホスト数名が不審死


 ──────────


 その物騒な内容を、洋市は無視することができず、詳細を読み進めていく。


 どうやら、歓楽街のとあるビルで、連絡が取れずにいた人気ホスト三名の遺体が発見された、という内容らしい。

 発見された時点で、遺体が白骨化していたとのこと。


 しかし、ホスト失踪に関する捜索願が出されたのが数日前だったため、警察では店舗側にも詳しい事情を聞く方針だという。


 ニュースページには動画も貼られており、元ホストのコメンテーターが眉間にしわを寄せてコメントしている。



「風営法改正の影響で客単価は下がっていますから、営業方針を抜本的に変えられないお店で働いている子たちの中には、肉体的・精神的に追い詰められている子もいるのかもしれません」



 だからといって、集団自殺なんかするだろうか。


 ホストを“欲望の権化”だと思っている洋市にとって、ホストと自殺は一番マッチしないワードだと感じていた。

 人気を疎まれて監禁され、そのまま命を落としたと考えた方がしっくりくる。


 同時に、この事件を無視できない、嫌な感覚が身の回りにつきまとっていた。


『遺体の白骨化、ってのもなあ……』


 ホストだった骨たちが、スーツを着ていたかどうかは記事には書かれていない。

 しかし、不審死の原因にアルトヤ界が絡んでいるなら、魔物化の一例としては十分考えられる。


 いや、考えたくはない。

 考えたくはないのだが、ひょっとしたら自分にも大いに関係がある、あ(・)い(・)つ(・)が絡んでいるような気がしてならない。


『……今は、自分のことに集中しよう』


 アルトヤ界からやって来た魔王の力は、もはや須田市だけにとどまらないのかもしれない。

 不安は少しずつ大きくなっているが、まずは自分の身の回りに意識を向けようと気持ちを切り替える。


 ふとデジタル時計を見ると、時刻はすでに午後六時を回っていた。


『いったん砦に行こう』


 洋市はスマホの画面を表示し、メッセージアプリで亜希に連絡を入れた。


『これから砦に向かいます。冷蔵庫にビールがあるので、飲みたかったら飲んでください』


 こうして、装備を“異世界仕様”に整えた洋市は、再びパキラを介してワープした。


 > 勇気の欠片(小)使用 残り(9/15)

高評価、リアクション、誠にありがとうございます。

執筆の励みになっております。

引き続き、ゴブリンマンをよろしくお願いいたします。

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