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【ゴブリンマン】~40代フリーランスが異世界でゴブリンになったら、人助けポイント稼がないと人間に戻れなくなった件~  作者: 広瀬
第二章 ゴブリンマン活躍編

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第六十七話 金銭感覚と特殊技能

防具の予約と武器の購入を終えた洋市たちは、次に回るお店を決めようとしていた。


「次は道具屋ですね」


目で道具屋らしい看板を探そうとする洋市に対して、ガッタが忠告する。


「待った、ヨウイチさん。その前に『マジックバッグ』を買わないとダメだ。ポーション買っても入らねえぞ」


「あ、なるほど」


ガッタの提案に従う形で、四人はマジックバッグの専門店へと向かった。

もっとも、説明を受けていなかったとしても、洋市と亜希は店の存在に気付いたかもしれない。


マジックバッグ取扱店は、一般的な道具屋とは違い、さながら日本の空港に入っている高級ブランド店のような、どこか洗練された雰囲気を醸し出していた。


並んでいる商品は、それぞれに意匠が施されており、柄・大きさも多種多様である。

中には、おそらく女性向けと思われる、可愛らしいポシェットサイズのものも見られる。


マンナがマジックバッグのニーズについて説明する。


「マジックバッグは冒険者だけじゃなくて、この国では富裕層も購入するの。レゾルグ王国は王制で、戦争と魔王戦で貴族制ではなくなったけど、資産を相続した元貴族は一般的に富裕層よ」


お店に入ると、やはり高級ブランド店を連想させるように、美しい女性店員が四人を迎える。


「いらっしゃいませ。本日はプル・メランにお越しいただき、誠にありがとうございます。どのようなバッグをお考えですか?」


無駄のない、率直な営業トークに食らってしまった洋市と、無駄金を使うまいと少し気を張った様子の亜希。

ガッタとマンナはさすがに慣れたもので、マンナが希望を端的に伝える。


「こちらの男性には筒型の大きめのものを、女性には……ポシェットと肩掛けタイプを見繕ってもらえますか?」


「かしこまりました」


女性店員はすぐに裏手に回り、他のスタッフから在庫を持ってきてもらうと、店舗内のガラステーブルにバッグを並べる。


「どうぞ、お手にとってご覧ください」


そう言うと、店員はテーブル横に待機する。

洋市が目でマンナに『触ってもいい?』と聞くと、マンナは頷いて『どうぞ』と返す。


目の前にあるリュックは、見た目こそ20~25リットル程度の普通のリュックである。

しかし、武器防具やポーションなど、幅広い品物を入れることができる。


かぶせ・蓋部分に該当する箇所は、チャックではなく差込錠式になっており、ゴツゴツした金具をひねってロックを解除するタイプとなっている。

開けて中身を見ると、その中は一見底が見えているが、妙に距離が遠く感じる。


後ろからガッタが説明する。


「中に荷物を入れると、ちっちゃい荷物がたくさん並んでいるように見えるんだ。取り出したいものを念じて取れば簡単に取れるから大丈夫だ」


ガッタによると、武器防具はもちろん、ポーション瓶だけなら数百本以上も入り、重さは現在のリュックと変わらないという。

どこか無骨なデザインも洋市は気に入った。


「いくらですか?」


洋市が店員に尋ねる。


「二百五十万メルとなっております」


品物に自信があるのか、言い訳がましい説明を一切せず、店員は値段だけを伝えた。

そこに洋市は痺れてしまった。


「私はこれを買いたいと思います」


えっ?と驚くマンナ。

すかさず店員は飛び切りの笑顔を作る。


「ありがとうございます!では、さっそくご用意しますね」


そう言って、そそくさとバッグを持ち出し、値札を取り外すなどの作業を始める。

マンナがコソっと耳打ちする。


「ヨウイチさん、値切りしても良かったのよ。マジックバッグは高価だから」


マンナのアドバイスに対して、洋市は自分なりの、美学に近い根拠を伝えた。


「私もフリーランスとしてスキルを売っている立場ですから、値切りが売り手のモチベーションを削ぐのは分かるつもりです。定価で購入すればアフターサービスも受けやすいでしょうから」


「も……もち? あふ? よく分からないけど、納得しているなら大丈夫そうね」


洋市の異様な信念を感じ取って、マンナは引いた。

ただ、亜希は魔道具らしき板の翻訳機能がなければコミュニケーションが成立しないため、亜希のバッグはマンナが交渉した。


こうして、洋市は二百五十万メルのリュックを購入。

亜希は五十万メルの、A4紙が入りそうなサイズ感のポシェットタイプを選んだ。


小さめのサイズを見繕った理由について、マンナが亜希に説明する。


「こういうデザインは、富裕層の貴女向けに作られているものがほとんどだけど、ダンジョン探索でポーションや道具だけを入れるのに便利だったりするの」


将来的なダンジョンアタックを見越して、亜希が無理なく持ち歩けるサイズ感のものを選んでくれたことに、亜希は心から感謝した。


「嬉しい!ありがとうございます!私一人じゃ何を選べばいいか分からないから、本当に助かりました!」


久しぶりに心からの感謝をもらい、頬がぽっと紅を帯びるマンナ。

その横で、大盤振る舞いをした二人に対して、どこか皮肉げな笑いを見せるガッタ。


「すげえよ、一気に二つもマジックバッグ買うパーティーなんてそうそういねえ。三百万メルのお買い上げってわけだ。これでヨウイチさん、アキちゃんはお得意様認定だな」


そこで、洋市と亜希はふと冷静になる。




日本円換算で、1メル=1円で考えた場合……。


──自分たちはこの店でバッグに【三百万円】を使っている!




日本では絶対にありえないお金の使い方をしていることに、今更ながら顔が青ざめる二人。


さすがにガッタがフォローに入る。


「だ、大丈夫だ、今だけだから、今だけ!ある程度初期装備が揃ったら、あとは整備や買い増し、補充くらいだ!」


マンナも含み笑いで、冒険者のリアルを語る。


「これも冒険者の現実よ。しっかり使ってしっかり稼ぐ。それができて一人前だから」



洋市と亜希は、高鳴る胸のドキドキを深呼吸で抑えてから、店員から使い方のレクチャーを受ける。


「マジックバッグは亜空間設計となってはおりますが、無限に物が入るわけではありません。容量を超えると、一気に重みを感じるように設計されています」


店員が続ける。


「重さを感じる瞬間は、非常に分かりやすいとは思います。しかし、力自慢のお客様の場合、重くなったことに気付かず目一杯詰め込んでしまい、バッグの底が抜けることもございます」


もっとも、バッグの底が抜けると、たくさんの荷物が外界に放り出されるわけではないらしい。

理論上、中の荷物は亜空間へと放り出され、二度と取り出せなくなるとのこと。


実際に、満杯以上の状態を再現したモデルケースを持たせてもらう。


「うぐっ……ちょっと、これ、洋市さん、重たい!」


亜希が購入したポシェットサイズと同じだが、持ち上げるのも一苦労といった感じだ。

洋市も、腰が抜けそうになり背負うのを止めた。


その様子を見た店員が、もう一つ重要な点を伝える。


「初めてマジックバッグをお持ちになるお客様は、誤って生き物をバッグ内に入れようとされる場合がございます。しかし、こちらはできない術式となっております。魔物は必ず解体するなどして、生命の営みを絶った状態であると確認してから収納をお願いします」


店員の注意を聞いて、洋市はかつてセミーンが魔物を解体後、素材・魔石をバッグに入れて背負っていたのを思い出した。

こうして無事にマジックバッグを購入した一行は、いよいよ道具屋へと足を運んだ。




道具屋は、日本でいうところのドラッグストアのような雰囲気で、日用品なども棚に並んでいる。

ポーション売り場はワンコーナーが設けられており、赤、青、黄など様々な色の瓶が陳列されている。


キョロキョロが止まらない、観光気分になった二人を見て、ここでもマンナが気を引き締める。


「ほーらぁ!ポーションをまとめ買いするから、こっちよ」


さすがに反省したのか、洋市と亜希は少しシュンとしてマンナについていく。

ガッタは「母ちゃん勘弁……」とからかったところをマンナに小突かれる。


「いらっしゃい。まとめ買いだね。この紙に必要な分を書いてくれ」


冒険者であることを一目で見抜いた髭もじゃの店員は、商品名がリスト化され、右側に個数を記載できる用紙を持ってきた。

やはりこちらも複写になっており、ツケ払いが適用されるようだ。


中級クラスの回復ポーションは、一本二千メル。

毒消しタイプのポーションは、一本五千メル。


今回はガッタのすすめで、回復ポーションを百本、毒消しポーションを四十本購入することになった。

この時点で計四十万メルとなる。


エナジードリンクでもここまで買い込まないだろうと心配になった洋市は、ガッタに必要性を確認した。


「冒険者をやってたら、このくらい普通に飛んでいくんですか?」


「最初のうちは身体が慣れなくて疲れやすいから、ちょっとしたケガから大ケガに発展することもある。何が毒で何が薬かよく分からない時期の採取では、毒に冒されるリスクと隣り合わせだ。用意するに越したことはねぇのさ」


ガッタは、アイテムを常備する他のメリットについても説明する。


「自分がケガしなくったって、他の冒険者はどうか分からねえだろ?もし外部(ヨソ)のパーティーからポーションを求められたら、道具屋の1.5倍の値段で売っていいって取り決めが冒険者ギルド内であるんだよ。もっとも、レートはその時々で違うから、地域によってはふっかける奴もいるらしいけどな」


そうそう、とガッタが付け足す。


「ポーションは生成時に防腐の魔法がかけられてるから、瓶から取り出さない限り悪くならないぜ。何だったかな、ちょっと特殊な魔法体系なんだよな」


「あれよ、毒魔法の応用でしょ」


マンナがフォローする。

それを聞いて心の中で『おや?』と思う洋市。


『俺は確か毒魔法を使える……ってことは、ポーションを飲むことで防腐の魔法をラーニングできたりするんだろうか』


洋市は、新たなビジネスチャンスのヒントを得たような気がした。




その他、洋市たちは次のようなアイテムを購入した。


呪われた時に呪いを払う「厄払いの木札」を十枚、7,000×10=70,000メル

痺れや眠り、気絶といった状態異常に効く「気付け粉袋」を十袋、3,000×10=30,000メル

敵に囲まれた際に目をくらます「煙玉」を十個、2,000×10=20,000メル


これらの消耗品を十個ずつ買い揃え、うち二万メルはおまけしてもらった。

よって、道具屋での買い物は計五十万メルとなった。


「……一つひとつのアイテムが高いので、おまけしてもらって助かりました」


洋市の素直な感想に、マンナが世の中の真理を返す。


「大量買いしてくれる冒険者に、お店は優しいものだからね」


ガッタは、洋市が一つひとつのアイテムの高さを気にしている様子を見て、少し補足した。


「木札に解呪の光魔法を込めてるのは神官だし、粉を調合できる薬師は数が限られてるから、その分お金がかかるんだ。効果は保証するぜ」


洋市は、ハンスルで泊まった宿屋の値段が『一人当たり一万五千メル』だったことを思い出し、ハンスルのお店の価格体系について、少し気になった点を考察した。


『宿屋を運営するのには、こう言っては変だが特殊技能が求められない。しかし、冒険者向けの武器防具や道具の製造には特殊技能が必要。その分、価格帯に違いがあるってことかな?』


実際、ポーション類は命にかかわるものだし、命の危機に瀕する機会も冒険者は多いのだろう。

あんまりお金の話ばかりするのも良くないと思い、とりあえず洋市はそういうことで納得した。


そして、残りの野営具や細々とした消耗品に関しては、日本に戻った時にホームセンターなどで探すことにした。




こうして洋市と亜希は、冒険者として最低限の準備を整えることができた。


「よっしゃあ、んじゃ、砦に戻るか!」


ガッタが勢いよく言う。

そこで、洋市は亜希と示し合わせた上で提案する。


「せっかく武器を手に入れたので、帰り道中で魔物を狩りたいと思うのですが、どうでしょうか」


マンナは洋市たちの積極的な姿勢を歓迎した。


「いいじゃない!魔物も弱体化してるだろうし、実戦練習してみたら?私たちがサポートするわ」


内心、自分たちも報酬の種を得られると、ウキウキのマンナであった。

そこで、亜希が気になったことを口にする。


「あの!そういえば、ギルドカードの控え出さなくていいんですか?」


亜希のツッコミに、一同はやり残したことがあるのを思い出して、入口門前からいそいそと冒険者ギルドの建物に戻った。

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