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【ゴブリンマン】~40代フリーランスが異世界でゴブリンになったら、人助けポイント稼がないと人間に戻れなくなった件~  作者: 広瀬
第二章 ゴブリンマン活躍編

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第六十六話 臭いのは無理

宿で一泊して英気を養ったあと、三千万メル、一人頭で千五百万メルという大金を獲得した洋市と亜希は、アルトヤ界における本格的な活動の準備を始めた。


差し当たって、亜希のスマホにインストールされている『アルトヤ界観光ガイド』のファストトラベル機能を不自由なく使えるよう、一定量の魔石を確保したいと二人は考えた。


そのためには、冒険者として安全に仕事ができる準備が必要だ。

そして今、洋市と亜希はマンナとガッタに連れられて、武器防具、道具類を揃えるための買い物をしている。


最初は防具屋。


ガッタは常連らしく、洋市、亜希のボディサイズを店員に手早く測らせた後、オーダーメイドの軽鎧をあつらえるよう手配した。


「素材はあるらしいけど、仕立てには七日かかるってよ。まあ二人分だから辛抱してくれ」


洋市は、それでも一週間で済むのかと感心した。


「いえ、むしろ早めに仕立てていただけるようでありがとうございます。ただ、当面の防具をどうしようかとは思うのですが」


マンナが含み笑いで、店内の端を顎で指す。


「ちなみに、ああいうのもあるのよ」


どうやら、この店にはレンタル防具コーナーがあるようだ。


「スキーウェアのレンタルみたいなことかな?」


洋市と亜希はさっそくモノを見ようとするが、近づいた途端に激臭が鼻をつく。


「グハァッ!」


のけぞる洋市。

亜希もあからさまに嫌な顔をしている。


「なんか……汗だけの臭いじゃない……血とか……ワキガとか……」


ガッタは苦笑いで事情を説明する。


「そうなるよなぁ。そいつは冒険中に亡くなった冒険者の遺品を修繕したり、高価な素材の防具を使い回したりしてるもんだから、洗ってもなかなか臭いは取れないらしいぜ」


話を聞いて、亜希はさらに顔をしかめた。


「無理!洋市さん無理!これは無理です!」


首をブンブンと横に激しく振る亜希。

洋市も同じ気持ちだったため、とりあえずレンタルは控え、予約金を支払うことになった。


「支払いはどうするんですか?」


洋市の質問にマンナが説明する。


「冒険者カードに残高があるでしょ?これを見せて、ツケ払いをするの。一緒にやってみましょうか」


そう言って、マンナは洋市をカウンターへ連れていく。


「こちらの男性とお嬢さんが、それぞれのカードで支払います」


「かしこまりました。では、こちらにサインをお願いします」


店員が、複写できる用紙を持ってきて、購入予定の防具名と値段を書く。

防具の名前は『ハードレザーメイル(+ミスリル)』となっており、素材をもとにした名前なのかと洋市は思った。


洋市と亜希は、それぞれ購入した分の用紙に、自分の名前をサインする。

ただ、亜希はこの世界の文字が分からないので、洋市が亜希の了承のもと代筆する。


次に、それぞれのギルドカードを、用紙の左下にある紋章にかざす。

すると、日本でいう「ハンコ」のように、ヨウイチ、アキの名前が不思議な文字で印字された。


その後、複写された“お客様控え”は、洋市、亜希それぞれに手渡された。


「その用紙は冒険者ギルドに見せるから、なくさないようにしてね。この契約をした時点で、買い物は成立してるんだけど、残高がいくらあるのか覚えていないと借金になっちゃうから」


「えっ!?ヤバい、ちゃんと残高確認しないと!」


亜希は、過去に見たクレジットカード破産のドキュメント動画を思い出した。

つい使い過ぎないように気を引き締める。


「残高の更新はギルドで?」


洋市が、カードの情報更新、つまりは日本の銀行でいう記帳について尋ねる。


「そう。こまめに更新すれば、まず借金になることはないから大丈夫よ」


心配を隠し切れない洋市と亜希に、マンナはウインクしてアドバイスした。



次に向かったのは武器屋。

洋市はやる気だったが、亜希はどうにも気が乗らない。


当然ながら、ごく一般的な日本女性は、日常的に武器を使う習慣などない。

剣道や薙刀に明るい女子ならともかく、亜希が持っていたのはテニスラケットだ。


「アキちゃん、とりあえず持ってみろよ」


ガッタがアキの体格から、使い勝手の良さそうなサイズ感の槍を手渡す。

一応、こんな感じかと突いたり振ったりしてみるが、どうにもしっくりこない様子だ。


「うーん……槍ってどう使えばいいんですかね?重いし、取り回しも面倒そうだし」


苦労している様子を見たマンナが、壁に掛けられていた武器を手に取った。


「こんなのはどう?」


――パァァン!!


鋭い風切り音、ソニックブームが店内に響く。

斥候、たまに神官や巫女が使用する、本格的な革仕込みの『鞭』である。


「えっ?あっ……ええと……」


夜の街で働く亜希は、現代日本で用いられる場面を想像してしまったのか、少し頬を赤らめた。

その一方、洋市は何世代にもわたり過酷な運命に立ち向かう、とあるバンパイアハンター一族の姿を思い浮かべた。


しかしそれは一瞬のこと。

しなやかに、まるで自分の尾のように鞭を振るうマンナの姿は、新体操選手も拍手を贈る美しさだった。


「……素敵♡」


「……カッコいい」


亜希と洋市は、ベクトルこそ違えど、マンナの美技を堪能していた。


その様子を見ていた店主が声をかける。


「マンナさん、さすがお目が高いですねぇ。そいつはレッドリザードの革をエビルトレントの樹液でコーティングした特注品です。しなりも強度も抜群ですし、慣らさずにすぐ使えますよ」


お値段は三十万メルと、予算から足が出る価格。

しかし、亜希は鞭に魅了された様子である。


「私これ!これにしますから、洋市さん!」


この人は鞭を使ったことがないのか、それとも過去にあったのか。

洋市は二重の意味で不安になり、亜希のタブーに触れないよう言葉を選ぶ。


「ええと……大丈夫なんですか?」


「これから使えるようになりますから!見ててください!」


完全に入れ込んでいる亜希の様子に心配する洋市。

マンナはくすっと笑って、亜希の意思を尊重した。


「大丈夫よヨウイチさん。鞭は冒険者の武器の中では定番だから。力がなくても戦えるし、叩くだけじゃなくて巻き付けることもできるし、使いこなせると意外と強いわよ」


鞭のメリットを伝えた後、マンナは今の自分が鞭を持っていない理由を説明する。


「私が今、鞭をメインで使っていないのは、ダンジョンアタックの機会が少なくなったからなの。ダンジョンでは鞭をロープ代わりに使ったり、狭い場所で天井の敵を素早く叩いたりするのに便利なのね。逆に広い場所だと、鞭より弓とかの方が使い勝手がいいから」


護身用なら十分鞭でいけるはず、と、マンナは亜希を勇気づける。


「簡単な使い方なら、私が教えてあげる。それで本格的に使いこなしたくなったら、冒険者ギルドの有料講座でやってみたら?」


「はい、私、がんばります!!」


こうして、鞭に対して妙に高い熱量を抱いた『鞭使い見習い・亜希』が誕生した。


亜希の武器が決まったところで、今度はガッタが洋市向けの武器を持ってきた。


「最初はショートソードもいいかなと思ったんだけど、ヨウイチさんは素手とかスキルとかで戦うから、いろんな用途に使える武器がいいかなと思ってナイフ持ってきたわ」


そう言って、ガッタはナイフ二本を近くのカウンターに置いた。


『……ナイフとはいっても、これはほとんどマチェットみたいな長さだな』


一本目のナイフは、質実剛健な風合いのマチェットデザインで、つばも備わっている。

長さは概ね50~55cmといったところで、持ち手を除いたブレード部分は40cmほどだろうか。


二本目のナイフは、ダガーナイフのようなデザインで、どこかクナイを連想させる。

刃渡りは30cm弱といったところで、持ち手となる金属部にはロープが巻かれている。


ナイフの状態を見ている洋市に対して、ガッタが説明に入る。


「まず一本目だけど、こいつは魔物と対峙しても叩き切れるくらいの強度がある。黒鉄製で錆びにくく頑丈だ。接近戦向けだが、デカい魔物の解体にも使えて便利だな。植物系の魔物でもイケるぞ」


次に、ガッタが二本目の説明をする。


「この二本目は斥侯向けだな。前衛が注意を向けている間に、後ろから喉元を掻き切るような使い方ができる。でも両刃だから、採取ならスコップみたいに使えるし、魔物解体ではきれいに(さば)けるから便利だぞ」


加えて、二本目の特性についても説明が始まる。


「こいつは魔鉱石が使われてるから、魔力によって硬度を変えたり、特定の属性を付与したりできる。ヨウイチさんはまも……あ、いや、将来的に魔法が使えるようになったとき、便利かもしれないぜ」


丁寧な説明に、洋市は大いに納得した。


「ありがとうございます。購入したいと思います」


洋市は心の中で『二刀流ができる!』と歓喜していたが、その姿を亜希に見せる機会は来るのだろうか。


結局、洋市はこれら二本を購入し、そのお値段は八十万メル。

いったんは買って満足したものの、現代日本での取り扱いには注意が必要になるだろうと覚悟した。


『こっちの世界じゃナイフなんだろうけど、日本でこんなの理由なく持ち歩いたら、銃刀法違反まっしぐらだな……』


こうして、二人揃って予算オーバーとなったものの、武器防具に関しては非常に満足度の高い買い物となった。


次は道具屋だ。

洋市と亜希は、新たなアイテムとの出会いにワクワクしていた。

そしてそのワクワクは、洋市たちの金銭感覚をさらに狂わせるものとなるのだった。

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