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【ゴブリンマン】~40代フリーランスが異世界でゴブリンになったら、人助けポイント稼がないと人間に戻れなくなった件~  作者: 広瀬
第二章 ゴブリンマン活躍編

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第六十五話 冒険者の心得

シルケと洋市たちとの商談がまとまると、シルケは他の職員に指示を出す前に、洋市たちに確認した。


「これから冒険者が保有するギルドカードをお持ちします。今回は三千万メルでお売りいただける、とのことですが、カードに入金する金額はどのようになさいますか?」


「「?」」


洋市と亜希は、どういう意味合いで聞かれているのか分からず、その様子を見たマンナがサポートに入る。


「ヨウイチさんとアキちゃんの分、二枚がもらえるってことだから、どちらかのカードに三千万メル入れるのか、折半するのか、それとも金額を指定するのかを聞いてるのよ」


ああなるほど、と洋市は納得し、亜希に提案する。


「まずないとは思いますが、紛失のリスクもありますから、今回は折半でどうですか?」


亜希も異存はない。


「はい、本当は全額預けたいくらいですけど……やっぱり()()()の方がいいですよね」


亜希としては、自分が戦闘能力を持たないに等しいことから、洋市に預かってもらう方が気は楽だった。

しかし、自分自身も現代日本ではアプリで口座を預かる身のため、洋市の意見を受け入れたのだった。


二人の意見を聞いたシルケが、そばにいたギルド職員に対して、カード発行手続きをするよう指示した。


「では、そちらにかけて少しお待ちください」


そう言ってシルケも部屋を出たため、部屋には洋市、亜希、マンナ、ガッタ、トゥイの五名が残る。

誰も声を発しない静かな時間が流れる中、ふと洋市は、ギルド職員であるトゥイがここを離れていないのに疑問を持った。


「トゥイさんはいいんですか?お仕事がまだ残っているのでは?」


「えっとね、誤解を恐れず言えば、今僕がここにいるのは護衛兼見張り、ってとこかな。一応、カウンター奥に冒険者を通すときは、職員が同行するのがルールだからね。ま、これから仕事は待ってるんだけどね……」


普段の飄々(ひょうひょう)とした雰囲気の中に、さりげなく事務方の面倒さを混ぜ込んで、トゥイは洋市の疑問に答えた。

洋市にとっては、トゥイも共闘した仲間の一人のように感じていたが、マンナとガッタはそういうわけでもないようだ。


「ヨウイチさんは、パーティー外メンバーとの共闘経験がないからあれだけど、これからは内部(ウチ)外部(ヨソ)の関係の違いについても勉強しないとダメかもな」


「まあいいじゃない、ガッタ。その辺は()()()()分かってくるから」


洋市と亜希は首をかしげたが、質問しようとする前に、シルケが職員と一緒に戻ってきた。

職員の手には、金属で作られたお盆があり、その上に二枚のギルドカードがある。


「どうぞ、お受け取りください。そちらから見て左側がヨウイチ様、右側がアキ様のものです」


洋市と亜希は、それぞれのカード表面に目を通す。

洋市が、右下の白黒画面のような板を見ると、しっかりと『15,000,000』という数値が刻まれている。


亜希はスマホを介していないと金額が分からないので、洋市が亜希のカードにもさりげなく目を通し、金額が一緒であることを確認した。

小声で亜希に伝える。


「大丈夫です、二人とも一千五百万メルが入金されているようです」


表情には出さず静かに頷きつつ、内心ほっと胸をなでおろす亜希であったが、翻訳のためリュック上部のポケットに入れているスマホがブルっと短くバイブしたのに気付いた。

新機能かもしれない、と亜希の直感が働く。


「これでDクラスからスタートだ、晴れて冒険者の仲間入りだな!」


ガッタが白い歯を見せて洋市たちに笑いかける。

しかし、洋市と亜希には現実感がなく、お金をこの世界でどう使うべきなのかも、あまりよく分かっていなかった。




シルケたちに挨拶を済ませ、一行は再び冒険者ギルド一階のロビーに戻ってきた。

トゥイはこれから上階で上席への報告と事務作業があるということで、ここでお別れとなる。


「じゃあ、ここでお別れだね!ヨウイチくん、色々と話せて楽しかったよ。アキちゃんとは……そんなに話してなかったけど、二人とも元気に冒険者してね!」


「今回はありがとうございました。また何かありましたらよろしくお願いいたします」


洋市が挨拶するのと同時に、亜希もぺこりとトゥイに一礼する。

トゥイはひらひらと手を振って階段を上ろうとしたが、途中、言い忘れたような様子でアドバイスをした。


「そうそう、今君たちは分からないことばかりでしょ?ハンスルにも冒険者養成所があるから、そこで新人向け有料講座を受けることをおすすめするよ」


そう言って、トゥイは上階へと向かった。

様子を見ていたマンナとガッタは、トゥイの姿が見えなくなってから、前回と同じ宿を予約しようと二人を連れ出した。




宿の予約をマンナが済ませようとした際、洋市は「自分たちもお金を出した方がよいのでは?」と提案した。

しかし、いきなりお金が引き出せるわけではないし、ギルド経由のツケ払いルールも知らないだろうから、と、頑なに支払いを拒否された。


「ヨウイチさんたちは忘れてるかもしれないけど、あなたたちはパーティーの命の恩人だし、アサンの水源の評判を上げてくれた存在でもあるの。そんな人からお金なんて受け取れるわけないでしょ」


その原因を作った張本人であるという自覚もあった分、洋市と亜希は申し訳なかったが、異世界転移者という立場もあり厚意に甘んじることとなった。

ガッタがマンナの発言を補足する。


「俺たちがジルファ……様?を前にしても生き延びられたのはヨウイチさんのおかげだ。んで、ノアが巫女として評価されればパーティー全体の評判も上がる。多分、死闘の森の魔物弱体化が認められれば国・ギルドから報酬も出るだろうな」


そんなでかい話になっているとはつゆ知らず、洋市と亜希は恐縮した。

その様子を察したマンナが、だから気にしないで、と一言添えた後、四人は前回と同じ間取りの部屋に入った。




「ご飯まで時間があるから、少し冒険者の心得について話しましょうか」


そう言って、マンナがお金の使い方について説明を始める。


「二人は『千五百万メル』って聞いて、どう感じた?」


「「高いと思いました」」


洋市と亜希は、二人ともシンクロしたように同じ意見を述べる。

マンナは母のような表情を浮かべつつ、残酷な現実を伝えた。


「確かに、いきなりもらうには高額な金額よね。でもね、Dクラスからスタートする冒険者の場合、初期費用としてそれなりの装備やアイテムなんかを揃える必要があるから、最初は結構な勢いで減っていくと考えておいた方がいいわ」


「ええっ!?」


亜希が露骨に残念そうな声を上げる。


「はははは!そうだよなあ!千五百万メルなんて、普通に過ごせば三年、質素に暮らせば五年はまったり暮らせるしな」


ガッタが亜希の反応に理解を示す。

洋市は、具体的な金額について確認が必要だと考えた。


「マンナさんの見立てて構わないのですが、どのくらいの出費が想定されますか?」


「そうねえ、ヨウイチさんはスカウトだから重戦士みたいに重たい鎧はいらないし、アキちゃんも似たようなもんだから、軽くて強度の強い装備が必要。となると、かえって重装備より値段が高くなるかもしれない」


一呼吸おいてマンナは頭の中で計算を始め、概算額を伝える。


「Dクラスからスタート……二人でざっと六百万メル弱は飛んでいくわね」


「「!!」」


愕然とする洋市たちに、マンナがフォローを入れる。


「多分、死闘の森の魔物はこれから弱くなるから、竜革レベルの強度は求められないと思う。それでも、ハードレザークラスの革鎧がないと、身を守るのに不安ね」


「そ……それに一人頭三百万メルが飛んでいく……と」


違う違う、とガッタが洋市の計算を修正する。


「鎧自体はオーダーメイド品を買うことになるけど、鎧だけじゃない。冒険者として最低限必要な装備を一通り揃える必要があるんだよ」


そう言って、ガッタは冒険者必需品セットをあげていく。


「最優先で揃えるのは、さっきマンナが言ってた革鎧。スカウトやサポートメンバーは盾を持たないから、オーダーメイドの着る防具一式って考えてくれ。ハードレザーがベースになってるが、胸とか急所にちょびっとミスリル使ってるやつが理想だな。ハンスルなら……これが上下で一人分、大体百五十万メル、だから合計三百万メルか」


引き続き、ガッタは必要なものをあげていく。


「武器は……ヨウイチさん素手で戦うから要らねえかなぁ。でもやっぱり、Dクラス以上の魔物とやり合うなら、アキちゃんは槍くらいあった方がいいぜ。硬さと鋭さを兼ね備えた黒鉄製で二十万メル。で、ヨウイチさんはショートソードか解体にも使えるナイフ系かな。スキルや魔法を使うんだったら魔鉱石が混じった質の良い武器なんかを見積もると、大体六十万メル。合計八十万メル」


私も武器を持つのか!?と困惑する亜希。

ショートソード、ナイフと聞いて男心をくすぐられる洋市。


「次が回復アイテム。将来的には分かんねえけど、ヨウイチさんもアキちゃんも、多分回復魔法が使えないと思う。だから、いざって時にすぐ回復できる中級クラス以上のポーションや、毒素を体内から“消す”タイプの解毒ポーションとかをたくさん常備しとく。これらでざっと五十万メルかな。こいつは二人分換算だ」


「解毒ポーションにも種類があるんですか?」


洋市の疑問に、ガッタが例を出して答える。


「一番いいのは“毒を栄養化する”やつなんだけど、Bクラス以上でないと使わないだろうな。で、比較的安い解毒ポーションは“出す”タイプ。あれ、トゥイさんが話してたノアの件みたいに、体外に排出する必要があるから、用を足している間、誰かに見張ってもらわないとダメなんだよ」


はああ、とため息をつく亜希。

洋市も、自分が用を足しているときに熊に襲われるイメージを抱いて、背中を震わせた。


「一番の金食い虫が『マジックバッグ』だ。討伐部位とか素材とか、そういうものを詰め込むために必要なんだ。俺は魔法について詳しくないけど、意図的に亜空間を作り出して、そこにモノを詰め込めるように加工したものなんだと。最低クラスの容量で百万メル。まあ最初のうちは一個でいいと思うぜ」


うおっ、と洋市は声が出てしまった。

異世界御用達といっても過言ではない、あのアイテムだ。


『仮に買ったとして、日本に持ち帰れるんだろうか』


かつて自分が取り込んだ陰蛇(おにへび)の魔石同様、日本に概念がないアイテムを持ち込めるのかどうかは怖いところだが、よく考えたら魔石だって持ち込めたのだから、と洋市は思い直した。


「それから、野営具と消耗品だな。天幕、寝袋、保存食、水筒、照明魔道具、その他冒険で必要なものをこだわって揃えると、まあ二十万から三十万メルってとこか」


そこにマンナが補足する。


「あとは予備費として三十万メルくらいあるといいわね。宿代とか各種手続きに必要な金額とか、任務失敗時の補償金とか」


一通り説明した後、ガッタはニカッと笑って合計額を伝える。


「な?二人で六百万メル弱、合ってるだろ大体」


「そ、そうですか……」


洋市たちにとって、1メル=1円の世界で考えれば、出費は一人三百万弱。

これは間違いなく高いのだが、物資や流通が日本に比べて十分でないことを考えると、決してぼったくりとは言えないだろう。


そう考えて落ち着きを取り戻した洋市、亜希に、マンナがフォローを入れる。


「大丈夫よ、確かにDクラスは初期投資で結構持ってかれるけど、実入りの大きい依頼はいっぱいあるからね」


マンナの言葉に、洋市と亜希は元気づけられたような、先行きに不安を感じてしまうような気持ちだった。

初期投資後の残額を、二人合わせて二千四百万メルと仮定しても、この調子だと装備が壊れれば修繕や買い替えもあるし、下手にケガをすればポーション代で飛んでいくだろう。


加えて、洋市も亜希も、いったん日本に戻って本業をこなさなければならない立場である。

そのため、本格的な活動は、日本で指名手配にでもならない限り検討するつもりはない。


色々な思惑が心の中を巡った後、亜希は当面の生活を優先したいと考え、マンナ、ガッタ、洋市に自分の気持ちを伝えた。


「マンナさん、ガッタさん、色々教えていただいてありがとうございます。……でも、私は当面、砦周辺で色々勉強しながら活動したいと思います。洋市さんはどうですか?」


洋市は、亜希の意図を多少は理解できたので、亜希に同意した。


「私もその方がいいと思います。魔王が私たちの世界にいる可能性があって、遭難者が出ている以上、日本での動きも見ておいた方がいいでしょうから」


ハンスルの街と砦を行き来しつつ、日本でも生活は続ける。

いわゆる()()()()()()()の実践であった。


「堅実だねえ、でもそのくらいが丁度いいぜ。生きてくことが一番だからな、冒険者は」


ガッタが洋市、亜希の意見を尊重する。


マンナも頷きつつ、内心では『向こうの世界の動向をパーティーが低リスクで把握できる』と確信していた。

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