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【ゴブリンマン】~40代フリーランスが異世界でゴブリンになったら、人助けポイント稼がないと人間に戻れなくなった件~  作者: 広瀬
第二章 ゴブリンマン活躍編

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第六十四話 夢見心地と証拠隠滅

昨日同様、祈りに向かうノア、彼女を護衛するセミーンの二人を砦に残し、洋市、亜希、ガッタ、マンナ、トゥイの五名は再びハンスルの街へと向かう。


怪物と化した翔が魔石化した、漆黒の魔石がいくらで売れそうなのか確認するためだ。


「勤務お疲れ様です。また何かあったらよろしくお願いします」


平野側の入口で、洋市は見送りに来てくれたライ、スフェンと挨拶を交わす。

結局、昨日は夜勤を代わってもらい、報告書の下書きを作成した後はぐっすり眠れたらしい。


「スフェンは事務仕事もできるからな」


相棒のライは、スフェンの意外な特技をつぶやく。


「昔ちょっとやってただけだ。辺境開拓軍を志望してから結構経つし、専門家には負けるさ」


そう謙遜するスフェンに、洋市は好感を抱いた。




ハンスルへの移動につき、今回は亜希のワープ能力を温存することとなった。

バンパイアワイバーン討伐で獲得した魔石を、パーティーの資金源として換金するためだ。


洋市はゴブリンの姿に変身し、数珠つなぎで全員が手をつないだ状態で、スキル【隠形】で全員の姿を消そうとした。

しかし、斥侯のスキルを持つ人間が他に二人いることもあって、亜希だけをおぶって姿を消すことになった。


トゥイも【隠形】を持っていたため、ガッタが付かず離れずトゥイに接触しながら移動することで、魔物との遭遇率を下げる。

マンナは【隠密】を使い、洋市、トゥイの陰に隠れる形で移動する。


『斥侯三人って、めちゃくちゃアンバランスなパーティーなんだけど、全然不安がないわね……』


マンナは心の中でそうつぶやき、二人の移動スピードに合わせる。


草の茂みや木立の影などを活用し、静かに素早く寄り道しながら街道を進む。

体感で三時間が経過したところで、一行は再びハンスルの入口門前に辿り着き、いったん洋市がゴブリンへの変身を解いてから入場した。




ハンスルの冒険者ギルドは、一見特に変化はなく、いつもの日常が展開されているようだった。

しかし、一階にあるテーブルコーナーで話し込んでいる冒険者たちのひそひそ話を、洋市たちは耳聡く拾ってしまった。



「聞いたか?バンパイアワイバーンが出たらしいぞ」


「近くか?」


「街道で遭遇した奴がいたらしい。落とした肉がすでに出回ってるって噂だ」


「あん?ちょっと待て、ダンジョンモンスターってことか?」


「森の巣穴から飛んできた個体じゃないのかもな、でも本当ならダンジョンはそう遠くないぞ」


「おいおい、楽しみが増えたな!」


「ああ、ギルドの通達があるまで滞在した方がいいかもしれん」



噂を耳にしたトゥイは、自分たちとの戦闘中、逃げたワイバーンがどこかで討伐されているのだと気付いた。


『おっ、こりゃあ早めに発見者を公表しないとね』


トゥイは、魔石の査定が片付いてから、ギルド上層部に発見パーティーがアサンの水源であると報告する算段をつけた。

とりあえず、当初の目的を果たすべく、マンナ、トゥイは受付カウンターに進捗を確認する。


持込み済みの魔石につき、査定進捗を確認すると、受付係から「査定係長がお待ちです」との報告。

五名はそのまま、カウンターの奥の部屋へと向かった。




応接室のような部屋で立待していたのは、緑縁の眼鏡をかけ、理知的かつエキセントリックな雰囲気を漂わせる男性であった。

トゥイが気さくに挨拶する。


「すーいません、シルケさん、お手間かけちゃって」


シルケはクールに、いかにもお役所仕事をする事務官といった感じで、隙なく対応する。


「いえ、お待ちしておりました、早速ですがトゥイさん、あの魔石は一体どこで?」


査定係として審美眼を磨いてきた、シルケの鋭い視線がトゥイを捉えた。

その冷徹な視線を見た洋市は、自分の正体を気取られないか不安になった。


もちろん、トゥイは元斥侯として、不必要なことは発言しない。


「今回の試験対象であるヨウイチ、アキ二名が、死闘の森で採取を行っていた際に発見したものと聞いています」


「……採取?どなたかとご一緒だったんですか?」


シルケは、危険な魔物が跋扈する危険地帯で、採取活動ができるのかどうか疑念を抱いた。

トゥイがその疑念を汲んだように回答する。


「まだ国交通商局から通達が来てませんが、通称『命の泉』の巫女の件、御存じですか?」


「いいえ」


「アサンの水源・ノアが神託……というか精託を授かり、泉近くに祠を建立しました。そこで眷属に祈りを捧げたところ、森の魔物の弱体化傾向が見られています」


「……!?」


神託ではなく、精霊からの託宣、すなわち精託を受けたと聞き、イレギュラーケースにシルケは戸惑った。

しかし、にわかには“採取ができるレベルまで弱体化した”というのは信じがたい。


「……まだ十分に理解できておりませんが、そうだったとして、具体的に森の()()()発見されたものですか?」


ギルド職員が聞き込みを行っている案件とはいえ、シルケとしても、不正や詐欺のリスクはできる限り減らしたかったので、追及の手を緩めるつもりはない。


その疑念に食い込み、パズルゲームのピースがはまったような快感を得られる情報を、あえてトゥイは最後に持ってきた。


「死闘の森、山間部にあるバンパイアワイバーンの巣穴を御存じですか?こちらもまだ正式な報告は上がっておりませんが、おそらく巣穴はダンジョン化しています」


「ダン……!?」


「本件は、僕がギルドへの第一報を砦から受け取ったという(てい)で、いったんギルド長に上げようと思います。発見パーティーはアサンの水源です。うまくいけば本日中に公開できるでしょう。すでにダンジョン産のワイバーン肉が市中に出回っているという噂も出ているようです」


出所が分からない魔石というのは、詐欺や盗難のリスクが疑われる。

しかし、ダンジョン産を匂わせるホットな話題の選び方によって、シルケの意識はそちらに引っ張られてしまった。


トゥイからもたらされた情報の重大さに圧倒され、シルケは黒い魔石がダンジョン、もしくはその近辺で採取されたものと()()した。

こうして、トゥイは厳密な採取場所を曖昧にすることに成功した。


「承知いたしました。報告感謝します。──それで、査定価格についてですが」


シルケは姿勢を正し、眼鏡を直して洋市たちの方を向き、金額を伝える。



「魔王戦時代の高級魔石という結果が出ており、希少性の高さ、及び魔力量の大きさから、ギルドとしては暫定価格で『30,000,000(三千万)メル』となりました」



「「……えっ?」」


洋市と亜希は、目を皿のようにして顔を見合わせた。

正確な『円/メル』レートは分からないものの、仮に1メル1円だったとして、三千万というのは宝くじの当選レベルの金額だ。


どこか夢見心地の洋市たちを見て、隣で聞いていたマンナは冷静に切り込む。


「暫定価格ということは、 オークションに掛けた場合、どのくらいになるのかしら?」


「一億メルも十分あり得ます。魔道具販売系の大手商店が、他の魔石系商品と一緒に買い込むことがあれば、もう少し値段は下がるかもしれませんが」


シルケがさらっととんでもない金額を口に出したことで、亜希の目には¥マークが浮かぶ。


「いちお……」


洋市は、はやる気持ちを抑え、冷静に考える。


すぐオークションに出してもらおうとも考えたが、その場合の手数料が気になる。

また、現金化に時間がかかるのであれば、ギルドに売ってしまうのも一手だろう。


「すみません。私はよく分からないのですが、仮にこのまま三千万メルをいただく場合、買い手は冒険者ギルドになるんですか?」


洋市の質問にシルケが答える。


「はい。そのようになります。魔石買取り後、ギルド主催のオークションに売り出して、差額の利益を当ギルド側が得る形です。先ほどの例で言えば、一億メルを得られた場合、七千万メルが当ギルドの粗利ということです」


「では、オークションに売り出した場合は?」


「今回のケースでは、ギルドで鑑定も行っておりますので、売上金の手数料のうち、三~四割をいただく形になると思います。ですから、受取金額を優先するならオークションに出すのも一手ですが、現金化が非常に遅くなります」


マンナがシルケの発言を補足する。


「オークションの開催日がいつになるのか、会場はどこか、買い手からの入金時期はどのくらいになるのかによって、入金時期が変わってくるの。早くて三ヶ月、遅ければ一年後って可能性もある。買い手が支払えなければ魔石が戻って来てやり直し、ってこともあるのね」


うーむ、と洋市は考え込んでしまった。


ここで、マンナが助け舟を出す。


「もし私がヨウイチさんなら、()()()()の場合、ギルドに買い取ってもらって三千万メルを受け取るわね」


洋市が理由を聞いた。


「なぜですか?」


「ふふっ、教えてもいいけど、自分で考えてみたら?ヨウイチさんなら気付くはずよ」


洋市は少し考えて、二つの理由が思い浮かんだ。


「オークションの結果次第では三千万メルを割り込む可能性がある、もしくは私たちはオークションに参加できる資格がない、でしょうか」


「ほぼ正解ね」


マンナが頷きながら答え合わせをする。


「オークション出品時、三千万メルスタートで買い手がつかない可能性はゼロじゃない。それを見越して例えば一千万メルで取引開始にしたら、一千五百万メルが最終買取価格になるかもしれない。魔王戦時代の魔石は確かに魅力的だけど、オークション開催時期のニーズや買い手の都合によって値は変わる」


「ふむふむ」


「もっとも、一億メルで落札される可能性は高いとは思うんだけどね。レア中のレアだから」


「では、やはり次の理由が?」


「そう。厳密にいうと、洋市さんが出品者になること自体はできるんだけど、信用がないわ」


「ああなるほど」


「だから、今回の場合はギルドに任せてしまった方が、結果的に冒険者側にとって得ってわけ」


ここまで話したところで、洋市はなぜマンナがオークション落札価格についてシルケに聞いたのか疑問に思った。


「答えとしては三千万メルが最適解の中で、あえて落札価格を確認したのは、どのような意図が?」


マンナは含み笑いで洋市の質問に答える。


「近い将来、ヨウイチさんたちがオークションに出品した方がいい場面に遭遇するかも、と思ったの。ただ、今は深く知らなくてもいいわ。いずれ分かると思うから」




こうして、洋市たちは三千万メルで“翔だったもの”が変化した魔石を売った。

現代日本からはタッチできない形で、完璧な証拠隠滅が完了した瞬間だった。


命懸けの戦いの末、手に入れた魔石だったが、基本的には元手ゼロの収入源である。

洋市も亜希も、これまでの死闘の対価としては、十分に納得のいく結末だと感じていた。

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