第六十一話 プロの検討
新たなダンジョンの発見と、そこから飛び出てきたバンパイアワイバーンたちの討伐を終えた七名は、手分けして牙などの素材や魔石を回収していた。
そこで亜希が見つけた、汚れのひどい地雷系女子の服に、魔物化した異世界転移者の影を見た洋市。
誰にも報告せず、隠すわけにもいかないと考え、とりあえずノアに事態を共有する。
「……というわけで、この服はおそらく、現代の私たちの国で暮らしている何者かが着ていた可能性が高いんです」
ノアは一見可愛らしく、富裕層の子女が着ていそうな優雅さも感じられる衣服を見て、険しい表情になる。
「うーん、確かにこれは王国で見たことないなあ。アサンシャとか大都市なら、煌びやかな夜のお姉さんは着てるかもしれないけどねえ」
隣にいるセミーンがツッコミを入れる。
「いや着ねえよ。もっと露出度高いからなあっちは。これはなんか子供っぽい。大人になり切れてない感じを演出してる気がする」
『セミーンさん、意外とオシャレさんだ……』
言い得て妙なコメントから、亜希はセミーンの鎧姿から想像できないファッションセンスが気になったが、今はそれどころじゃないと気を引き締めた。
ノアとしても、服装だけでただちに異世界転移者の可能性を断定するわけにもいかない。
「とりあえずさ、バルカスさんに共有しないと話が始まらないわこれ。遭難者なのか、それとも何らかの意図があってやって来た異世界転移者なのか、これだけじゃ判断がつかないから」
トゥイは、何やら話し込んでいる洋市やノアたちの様子を見て、ライとスフェンにお願いをする。
「ライさん、スフェンさん、お願いがあるんですけど、周囲を警戒してもらえますか?おそらく、ノアたちは何か新しい発見があったのかもしれません。ワープで戻る前に検討したいので、少し時間をください」
ライとスフェンは、ギルド職員からの申し出ということもあり、素早く任務にあたる。
「分かりました!」
「終わりましたらお申し付けください!」
アサンの水源メンバーや洋市たちから少し離れ、二人は周囲の警戒を始めた。
ノアたちの話の輪の中に、さりげなくトゥイが合流する。
「何かあったね?」
それを見たノアが状況を簡潔に説明する。
「ありました。でも今は何とも」
トゥイは自身の疑問を伝える。
「新しい異世界転移者がいるのかい?」
核心に一気に迫る洞察力にノアが驚く。
「ど……どうしてそれを?」
「ノアっちたちと合流する前、マンナから聞いたんだよ。いい斥侯だね彼女。さりげなく僕を共犯者にしてくれたよ」
「きょ、共犯者って!?何かしたんですかマンナが!?」
魔石を集めている最中、ノアに名前を呼ばれたマンナは、遠くからノアとトゥイとのやり取りを観察し始めた。
「ああいやいや、言葉遊びさ。やっぱり純情で素敵だね君は」
「……本気にするんで止めてください」
「本気にしていいよ、ノア」
「……今のは嘘!」
「あははは、バレちゃった、バレちゃった!」
トゥイは、洋市たちが巻き込まれている事情に自分も巻き込まれたことを、比喩的に「共犯者」と表現したに過ぎない。
だが、話の流れを知らないノアは、その単語に過度に反応してしまった。
おまけに、口説かれたかのような言葉を囁かれ、すぐに顔を真っ赤にしてしまった。
後輩を大声でからかったところで、ちらっとライ、スフェンの様子を窺った後、トゥイは声を潜めてノアと状況の検討に入る。
マンナは何かを察したようで、引き続き作業に戻った。
「魔物化した可能性は?」
「多分……あの中の一匹がそうだった可能性は低いと思います」
「僕もそう思う。どっちかというと、この服を着ていた人に何かあったから、あのダンジョンができたって考えた方が自然な気がするね」
「はい、この服は汚れがひどすぎます。一日二日の汚れ方じゃない」
「どうする?七人で探索する?それともヨウイチくんたちをいったん砦に返す?僕はできれば兵士を未開のダンジョンに入れたくない」
トゥイが兵士に配慮するのは、兵士が加入している辺境開拓軍の補償契約に、ダンジョンでの活動が含まれていないことを知っているからだ。
しかし、ライとスフェンは冒険者に多少なりとも憧れがあるため、説明次第ではダンジョンについてきてしまうおそれがあると考えていた。
ノアは毅然と自分の意見を述べる。
「いえ、今は探索に割く人数が足りません。数匹は間引けたと思うので、新しいダンジョンブレイクのリスクは低いと考えます。放置で」
「大量発生は?」
「ないと思います。私もここに来るのは初めてですけど、巣穴の情報は最近のものですから、そもそもそこまで多くの魔物を蓄えられる余力はないかと」
「ふーむ」
ノアとトゥイの会話がいったん途切れたところで、セミーンが提案する。
「応援要請を出してみますか?アサンの水源で」
「いや、それなら僕がハンスルのギルドに掛け合う。君たちが面倒な思いをすることはないよ」
セミーンは、トゥイの飄々とした雰囲気にそぐわない、根の真面目さを垣間見た。
そこに、荷物をまとめたガッタ、マンナが合流する。
「……また遭難者かよ、どうなってんだホントに」
ガッタは、可愛らしくも汚れだらけの服を見て、砦の地下で見た亡骸を思い出していた。
「やっぱり、ヨウイチさんやアキちゃんの?どういう人が着てるのかしら」
マンナは端的に言葉を紡ぎ、同郷の人間がやって来たのかどうか質問する。
洋市と亜希は、さすがに“地雷系女子”という通称は言葉にできず、ただ頷くことしかできなかった。
一通り検討が終わり、トゥイは清々しい顔を演出し、状況を言語化した。
「なーるほど、仮に、この服の持ち主が巣穴のダンジョンブレイクに関わっていたとして、今はそれを確かめるのは難しいと、そんな感じか」
トゥイは普段の調子で軽く言い放つと、バンッ!と両手で大きな音を立てて空気を切り替えた。
「よし、検討終わり!ライさん、スフェンさん!警戒ありがとうございます!砦に戻りましょう!」
トゥイの合図で、ライとスフェンが素早く合流する。
地雷系女子の服は、念のためマンナがバッグに収納した。
「歩きにする?それとも魔法にする?僕はどっちでもいいよ」
右手で力こぶをつくるトゥイに、ノアがお願いする。
「これから夜になるので、魔法でお願いします」
「夜目は僕と……ヨウイチくんしか持ってないのかな?じゃあその方がいいね」
一行は、トゥイを中心に円状に並び、そこにトゥイが全員入るように赤黒く光る魔法陣を描く。
「死神の慈悲を賜りたく、闇夜に迷う哀れな鴉に翼を授け給え。『鴉の翼』!」
一行は、魔法陣から生まれた、黒い翼のようなオーラに畳まれるようにして包み込まれ、死闘の森の砦前までワープした。




