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【ゴブリンマン】~40代フリーランスが異世界でゴブリンになったら、人助けポイント稼がないと人間に戻れなくなった件~  作者: 広瀬
第二章 ゴブリンマン活躍編

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第五十八話 共犯者

冒険者ギルドの職員であり、吸血種のトゥイを同行者に加えた洋市たち五名は、ハンスルの門を抜け、死闘の森の砦へと続く街道を急ピッチで進んでいた。


「いやー、死闘の森は久しぶりかもね!冒険者時代は結構稼がせてもらってたなー」


そう言って笑うトゥイは、細身の少年の見た目に反して、元冒険者というだけあり健脚だった。

マンナとトゥイが先頭に立ってスキル【隠密】を巧みに使い、街道沿いの魔物の影に紛れるようにして無駄なエンカウントを避けたことで、一行はわずか三時間程度で砦に到着した。




再び砦の門をくぐり、三階建ての建物に向かう途中、休憩中なのか広場で背伸びをしている守備隊長のバルカスを一行は見つけた。


「おお、戻ってきたか! ……ん? そちらさんは?」


「お久しぶりでーす!ギルド職員のトゥイになりました!ただいま、ヨウイチくんたちの冒険者登録の試験に同行してまーす」


トゥイがあっけらかんと挨拶すると、バルカスは懐かしさに顔をほころばせた。


「おぅおぅ、こいつぁ珍しい顔だな!故郷に帰ったって聞いたぞ!?」


「はい、それからギルドに転職を」


「なんだそうなのかよ、まだまだ稼いでからでもいいじゃねえか引退は」


「僕だって、なんやかんや二十五年は頑張りましたからね、そろそろ落ち着いてもいいんじゃないかって思うわけですよ」


「いや早えよ、吸血種ならあと五十年は下らねえだろ」


「厳密にはバンピールなんで、そんなに寿命も長くないっすからね。それにもう“裏方”は嫌なんで」


「うん……まあな……」


バンピールとは、吸血種とその他の人種のハーフをいう。

トゥイは人間種の父と吸血種の母を持ち、父が冒険者だったことから冒険者を目指した。


バンピールはスキル面で恵まれており、人間種・吸血種が覚えるものをバランスよく取得できる。

闇魔法の適性もある者が多く、斥侯または暗部の仕事と相性が良いため、トゥイも一時期は望まぬ裏仕事を任されていた時期があった。


バルカスとも顔馴染で、かつては一緒に公にはできない汚れ仕事を経験したこともある。

しかし、トゥイにはトゥイの正義感というものが確かに存在していたため、次第に表の仕事に憧れを抱くようになった。


「フリーになってからは楽しかったっすよ!ソロだから色々と制約はあったけど、この森にもお世話になりました」


「金欠組にはいつもお前がいたな。あの頃は景気も良かったのによ。何に金使ってたんだよ」


「内緒っす♡」


昔話に花が咲いているのを聞いて、洋市は斥侯というのは『内緒』が好きなのだと思った。

話が落ち着いたのを見計らって、マンナがバルカスとトゥイに一声かける。


「バルカスさん、トゥイさん、ごめんなさい、いったん執務室に行っても?」


「んあ?何か聞かれたくない話……ああ、そうかそうか」


バルカスは、洋市と亜希というトップシークレットの情報を、まだトゥイに説明していないものと理解した。



執務室にて。

マンナは、トゥイとバルカスが顔見知りであることへの驚きを抑え、自分たちが洋市の試験のために戻って来た事情について説明した。


「そりゃ重畳だ! ヨウイチとアキちゃんが正式にDクラス冒険者になれば、この砦の開拓、防衛の地力が高まるからな、大歓迎だぞ!」


バルカスとしては、少しでも信頼できる冒険者のなり手を増やし、手薄な砦の戦力を補強したいという思惑があるのだろう。

そんなお役所的な思惑を知ってか知らずか、洋市と亜希は『これでアルトヤ界でも色々と活動しやすくなる』と素直に喜んでいた。


「……そろそろいいかい?僕に内密に聞かせたい話っていうのは何かな?」


トゥイは、マンナの報告が終わった時点で、誰にともなく質問した。

マンナが口火を切る。


「端的にお伝えします。こちらのヨウイチ、アキの二名は、異世界転移者です」


「うん、そう……うぇえぇぇぇ!!??」


明らかに油断していた、といったようなテンションで、トゥイが舌を出さんばかりに口を開いて驚く。

マンナが続ける。


「そして、こちらのヨウイチは、人間種の“魔王の呪い”を持っています」


「ちょちょちょちょ、待って待って待って!!何そのクッソヤバい情報!」


バンピールが人間種と長命種とのハーフとはいえ、トゥイが生まれた頃は、当然ながらすでに魔王は討伐されたものと聞かされている。

しかし、今、人間の魔王の呪いの保有者がいるという現実から、当然のように導き出される答えを理解していた。


「バルカスさん、これ、魔王ってやっぱ、まだ生きてる感じ?」


話を振られたバルカスは、やや深刻な、それでいてあきらめに近い表情で答える。


「そうなんだとよ……んまあ、俺だってノアたちだって、つい最近聞いた話なんだ。」


彼らの反応を見て、やはりトゥイには話をしておいて正解だったと、マンナは胸をなでおろした。


人間がモンスターになれる特殊な例は、この世界において実質的に”魔王の呪い”しか発見されていない。

だからこそ、元手練れの冒険者に隠し通せるものではないとマンナが判断した結果である。


もっとも、マンナの勘は当たったようで、トゥイは苦々しい顔をしながらも秘密を守ることにした。


「……こーれはあれだね、報告しようとすると、自分の面倒事がめっちゃ増える件だね。当面は口に人差し指だなこりゃ」


「すみません。話さないでいることもできたのですが、多分それは……」


「分かってるじゃない。斥侯ならそうだよね。事実が暴かれる前に、口が堅くて話の上手い奴に話す。特に同業者や責任感の強そうな奴にね……そうやって共犯者を作るんだ」


「いえ……決してそのようなことは」


「いいよ問題ないよ、君もまあまあ()()()()クチだね?すぐに高評価いただけたことは感謝するよ」


マンナは、トゥイから“斥侯の立場で”同意を得られたことに安堵し、わずかに表情を緩めた。


「やはり、彼が抱えている問題が問題なので、万一迫害にでもつながりますと」


「そうだねー、本当は詳しく聞いておきたいんだけど、そもそもさあ、内務省に報告上がってない案件だと思うんだよね。それをいちギルド職員の僕が知っていると色々とマズいじゃん?どう思う?バルカスさん」


「言うんじゃねえよ、俺だって報告はするつもりだけど、いかんせん文面がよう……」


ここ数日の間に、報告すべき内容が山ほどできたため、バルカスの報告ペースは遅いのであった。


その後、洋市はトゥイの前でゴブリン姿になって見せた。

ゴブリンスカウトになった洋市の姿を見て、トゥイは「だからあの時あんなことを……」と正当防衛発言の意図を理解し、面白そうにニヤニヤと笑った。



「バルカスさん、ノアとセミーンは冒険者用の寮に?」


マンナが尋ねると、バルカスは首を横に振った。


「いや、二人なら『命の泉』の方へ向かってる。今日の分の祈りを捧げてくるんだと。まさか巫女の適性があったなんてなあ」


バルカスがしみじみとノアの可能性について触れると、ガッタが自分の見込みを話す。


「もともと『精霊に愛された』女だからなあ。ただ、あの人は巫女だけで終わる気もしないですけど……」


雑談が長くなる前に、マンナは話をまとめる。


「とりあえず、道具屋で携行食だけ買い足しましょうか。すぐ巣穴に行くんでしょう?」


マンナの質問調の発言をトゥイが汲む。


「時間的にも体力的にもそれがいいねー、僕の分はとりあえず大丈夫だから安心して」


亜希は少し不安げに、準備について口をはさんだ。


「あ、あの、水はいいんですか?泉から汲むにしても雑菌とかそういうの……」


日本の現代人らしき感覚で疑問を述べる亜希に、マンナが自分の鞄を叩いてフォローを入れる。


「ご安心あれ、私は石や炭、砂利を使った即席のろ過装置を作れるから、向こうの泉で汲ませてもらえば大丈夫よ。それに……」


ガッタが補足する。


「多分、ノアも水魔法で『精霊水』を出せるから、飲み水には困んねえはずだ」


精霊水、という響きに、洋市は日本で盛り上がりそうなビジネスの匂いを感じたが、本筋から会話が脱線しかねないため黙っていた。




最低限の準備を整えた時点で、時刻は午前十一時を回ったところだった。


「うーん、今から歩いて泉に向かうと、祈りを終えて帰ってくるノアっちたちと行き違うかもしれないね」


トゥイは、ギルドが編集した死闘の森の地図を見ながら懸念を口にする。

そこで、亜希が提案した。


「もし、試験に不都合がなければ……なんですけど、私は『魔石』を使って命の泉に瞬間移動(ワープ)できます」


「えっ、あれ?闇魔法の適性ないよね?なんで?」


トゥイの疑問をマンナが引き継ぐ。


「先ほど話したように、彼女も異世界転移者なんです。それで、その不思議な魔道具を経由すると、おそらく無属性の色々な機能が使えるようでして」


「ふーーーん、おもしろーい!発動に魔石を必要とするってことは、多分魔力も持ってないんだね。いいよ、やっちゃって」


こうして、一行は砦を出て森側の入口から森に入り、道中で出くわした適当な中級クラスの魔物を、サクッと退治して魔石を手に入れた。

ガッタが何とも手ごたえがなさそうにしている。


『なんか、昨日よりさらに魔物弱くなってないか?まあ、魔石は同じ大きさだからいいけどよ……』


洋市が手に取った魔石を亜希のスマホにかざすようにして、アプリにスキャンさせたところ、サイズは「魔石(大)」に分類された。


アプリのチュートリアルに従って、洋市、マンナ、ガッタ、トゥイが手をつないで輪を作る。

輪の中に亜希が入って洋市に触れた状態で、ワープポイント『命の泉』を選択する。


「行きます!」


亜希が画面上の『ワープ実行』と書かれたボタンを押すと、白色LEDライトのような淡い光が五人を包み込む。

――次の瞬間、目に飛び込んできた風景は、豊かな水が湧き出る『命の泉』だった。




目の前の祠では、ノアが目を閉じて真剣に祈りの儀式を行っている最中だった。

彼女は極度の集中状態にあるため背後の気配に気づいていないが、周囲を警戒していた護衛のセミーンと、砦から同行していた二名の兵士たちは、突如現れた五人に目を丸くして驚いた。


「お、お前ら、いつからいたんだ!?」


「ま、マンナさんにガッタさん!?他の皆さんも……どうして?」


「しーっ」


マンナが人差し指を口に当ててセミーンたちを制し、小声で今回のミッション、つまり洋市たちの試練について共有した。


洋市と亜希は、かつて自分たちを保護し、ハンスルまで護衛してくれた懐かしい顔の兵士たちに挨拶した。

熊耳の獣人はライ、長耳のハーフエルフはスフェンという名前だった。


「実は、我々も冒険者になろうかと思いまして」


洋市が自己紹介も兼ねてそう伝えると、ライが人の良さそうな笑顔を見せた。


「そうか!実は俺たちも、そのうち兵士を辞めて冒険者になるのもいいなって話してたんだ。兵士として実務経験を五年積んで、ギルド指定の魔物を討伐した経験があれば、特例でDランクからスタートできるからな」


洋市の話を聞いて、スフェンが同情するようにため息をつく。


「ただ、あんたたちは元々遭難者なんだろ? 生活の基盤を作るったって、いきなり命懸けの仕事っていうのもなあ……」


ちなみに、五人が突然ワープしてきたこと自体は、ライもスフェンも瞬間移動できる闇魔法の存在を知っていたため、それほど驚かなかった。

むしろ驚いたのはセミーンだった。


「びっくりしたぜ。新しい仲間でも見つけたのか?」


セミーンはマンナが新しい仲間をスカウトしたものと思い、事情を確認した。


「違うわ、アキちゃんの新しい能力……機能?よく分からないけど、魔石を使って瞬間移動ができるみたいね」


「おいおい……凄いのはヨウイチだけじゃないんだな」


各々が話し込むうちに、やがてノアが祈りを終え、大きく息を吐いて振り返った。


「えっ!?ちょっと、いつの間にか参拝者がいっぱい!!」


目を白黒させて冗談を言うノアだったが、すぐに表情を緩め、全員が無事であったことを喜び合った。

ノアはマンナをハグしながら、洋市、亜希の冒険者登録手続きの労をねぎらう。


「お疲れマンナ、早かったね」


「一泊二日の旅程、楽しかったわ。ありがとうリーダー」


まるで観光気分で楽しめた、とでも言わんばかりに、マンナはノアに軽口を叩いて疲れがないことをさりげなくアピールした。


「で、どんな感じ?」


「登録手続きはやりました。でも、アキちゃんが持ってた黒い魔石の査定予約を入れてあるから、もう一回行かなきゃ駄目ね。あと、今はヨウイチさん、アキちゃんのDクラス冒険者登録試験中よ」


「……その人が試験官ね、挨拶してくるわ」


ノアはマンナのそばを離れ、黒地に白のローブ姿の人物に挨拶をしに行く。


「今回は試験監督ありがとうございます。私はアサン……の……あーーーっ!!!」


「いいねえ、いい反応だねえ、ノアっち。またお腹壊してない?」


「ごごごごごご……ご無沙汰……しております……」


ローブの下でニヤニヤしているかつての恩人の姿を見て、ノアは驚きのあまり、思うように言葉が出てこなかった。

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