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【ゴブリンマン】~40代フリーランスが異世界でゴブリンになったら、人助けポイント稼がないと人間に戻れなくなった件~  作者: 広瀬
第二章 ゴブリンマン活躍編

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第五十三話 フリーランスとラーニング

※字下げを実行しました。

 砦に二つ設けられている出入口のうち、平野側の扉から外に出ると、左右にある木々が末広がりに並び、目前に広がる平野のスケール感を際立たせていた。

 その中央に、街道らしき整えられた道がある。


「比較的安全に整備されてるんですね」


 洋市がそうつぶやくと、ガッタはその感想を少し補足するように言った。


「確かに、森側と比較すりゃあ安全だわな。何かあっても見通しがいいからすぐ気付けるし、匂いが混じることもないからな。でも魔物は出るから気を付けてくれよ」


「分かりました」


 軽くやり取りを交わしつつ、洋市、亜希、ガッタ、マンナの四名は、職人たちが乗った馬車と一緒にハンスルへと歩き続ける。

 直接戦う術を持たない亜希について、洋市は馬車に乗ることを提案したが、洋市のそばにいた方がかえって安心ということで一緒に歩いている。


「これでも学生時代はソフトテニスやってたんですよ!体力には自信がありますから、安心してください!」


 洋市がそれを聞いた時、妙な納得感があった。


 よくよく考えてみると、長時間の徒歩移動にもかかわらず、亜希の息はほとんど上がっていない。

 現代でのトラブルの際も、肉体的に疲れ切ったそぶりは見せていなかった。


 そして、砦の宿屋での様子など、本当に疲れた時は熟睡できていた。


 むしろ、インドア派の洋市の方が、体力には不安を感じている状況である。

 しかし、今は以前ノアから借りたローブを身にまとい、ゴブリンに変身しているため、体力的な不安はない。


 死闘の森の砦から、都市ハンスルまでの距離は、時間経過で約5時間ほどだという。

 ゆっくりとしたペースで移動しているので、距離としては約20~25kmということになる。


 その長い時間の中で、マンナは洋市と亜希に『死闘の森』という名称がなぜ生まれたのかについて説明していた。


 かつて、魔王率いる魔族と人類が戦いを繰り広げていた時代、勇者と魔王が死闘を繰り広げた土地の一つが『死闘の森』である。

 この森以外にも、死闘と呼ぶにふさわしい戦いが行われた場所は世界各地に点在しており、例えばガッタの出身国である獣王国ミザリンには、『死闘の壁』と呼ばれる絶壁がある。


 死闘の森では、水の精霊の力を得た勇者の一人が、『光の雨』と呼ばれる魔法を使って、魔王の部下が吐く様々な毒を中和して力を削ぎ、一週間にもわたる持久戦の末に戦いに勝利したという。


 しかし、毒の影響は後々の生態系に深刻な変化をもたらし、かつて無毒だった動物が魔物になってしまったり、温厚だった動物が凶悪な魔物になったりして、周辺で暮らしていた人類は生まれ育った場所を離れる苦渋の決断をすることになる。


 ジルファがかつて洋市に語った通り、森で遊ぶ妖精たちも居場所を失い、いずこへ行ったのか誰も分からないまま。

 しかし、水の精霊の加護が戻るとあらば、将来的に環境は回復していくのかもしれない。


「……とまあ、簡単に説明するとこんな感じの歴史なのね。あの森は。大戦から数百年が経過してるわけだけど、それでも人類が戻れないってだけで、その深刻さを察してもらえると嬉しいわ」


 マンナが一通り話し終わった後で、


「それにしてもすごい話ですね。その『光の雨』っていう魔法は。森一帯を浄化できるなんて」


「まあ実際に見たわけじゃないから、私も正直その効果っていうのは疑問なんだけど、ノアが言うには理論上は可能らしいって」


 マンナと洋市の会話に、亜希も翻訳機能で混ざる。


「私たち、向こうの世界で凶悪な魔物に出会って、死ぬかと思いました。でも、それ以上に恐ろしい存在が、この世界にはいるんですね……」


 マンナから死闘の森の恐ろしさについて説明を受けながら、洋市はアルトヤ界へ出発する前の、亜希とのやり取りを思い出していた。



 亜希は、洋市と相談した上で、次にアルトヤ界に戻った時点で自分たちの世界について報告することに決めていた。

 どんなに頑張っても、自分たちの素性について完璧に隠すのは難しく、それなら協力者になってもらった方が話が早いと考えたからだ。


 特にノアは、異世界や魔王の呪いに対する興味が強いため、悪い結果にはならないだろうとの見立てだった。

 果たして、ノアもパーティーの面々も協力してくれたため、バルカスへの説明もスムーズだった。


『アルトヤ界経由のビジネスは、リスク管理について亜希さんに任せた方がいいな。俺よりも説明が分かりやすいし、適度に嘘も混ぜられるからな』


 洋市は、信頼できるビジネスパートナーとして、亜希を再評価していた。




 出発から3時間ほど経過した頃、途中にある休憩所の前で、パーティーは体長2メートルほどの巨大なトカゲに遭遇した。


「グルルルル……!」


 最大の特徴は、首の後ろに枕のような形状をした袋が付いていること。

 ガッタが魔物の特性をメンバーに素早く通知する。


「『ピロウリザード』だな。あの枕っぽい袋には毒が仕込まれてるんだが、首を一突きすれば息の根を止められるから狙うなら首だ。毒霧みたいに吐くこともあるし、水鉄砲みたいに打ってくることもある。即死ってことはないが、痛みやしびれを倍増させる効果があるから、袋を破かないように気をつけろよ」


 毒か。


 洋市は、自分が【毒魔法】という新しいスキルを得ていたことを思い出した。

 直近で確認したステータスの内容を頭に浮かべる。


 ─────────────


 ○毒魔法 : 魔物が使用する毒を、魔法の形で魔力を消費して発動できる


 ○毒魔法リスト


 ・エビルスクワロルの「爬虫類毒」


 ・ゴブリンの「酸毒」


 ※(レベルアップで覚えるほか、実際に自分が毒を受けて覚えることもある)


 ─────────────


 洋市は、パーティーの前に歩み出た。

 これは、ガッタやマンナと事前に協議し、ゴブリンとしての洋市の実力を目で見て確認したい、という意図を汲んだ結果である。


 洋市自身も、自らの手で魔物を討伐し、魔石を回収する手順を実践しておきたかった。

 できれば毒も覚えてみたい。


『陰蛇を倒したときは、まったく手ごたえがないまま魔石を盗っちゃったからな。今回はきちんと自分で戦って経験値を得よう』


 洋市は、低い姿勢から一気に地を蹴り、ピロウリザードの真ん前まで一気に移動する。

【身体強化(Lv.5)】の恩恵を受けたそのスピードに、魔物は反応すらできない。


『枕みたいな袋は破いちゃいけないから……』


 直感的に、洋市は右手の五指をピタリと付けた状態で突きを放ち、鋭い爪を首元に刺す。

 程なくして、ピロウリザードは動きを止めて絶命の気配を放つが、その瞬間に毒霧が洋市に吹きかかる!


「ヨウイチさん!」


 慌ててガッタが解毒用のポーションを片手に走り出す。

 亜希も不安な面持ちで見守る。


 しかし、洋市はローブが毒霧で汚れたこと以外、特に傷むようでも苦しむようでもなく、後ろで見ていたマンナは不思議に思っていた。


『……まさか、ヨウイチさん、わざと毒を食らうために正面からぶつかったの?』


 洋市が首から腕を抜くと、ドサリ、と音を立てて大トカゲの巨体が倒れる。

 そこで、いつものようにアナウンスを聞いた。


 > 魔物「ピロウリザード」を討伐

 > ゴブリンスカウト Lv.36にアップ

 > 毒魔法リストに「ピロウリザード」が追加


「おおっ!」


 背後で見ていた職人たちから、洋市の鮮やかな手際に歓声が上がった。

 亜希も、洋市が立ったままで、ガッタとコミュニケーションをとっている様子を見てホッとする。




「ヨウイチさん、大丈夫か?」


 ガッタは毒を真正面から食らった洋市を気遣うが、当の本人は特に影響を受けていない様子である。


「はい、大丈夫です。どうやら、魔物の毒を受けると、それをラーニングできるようです」


「?」


「ああ、すみません。つまり、ピロウリザードの毒が使えるようになったか、耐性がつくかするようなんです」


 ゴブリンの生態について知識があるガッタにとっても、その知識は初耳だった。

 ただ、ノアのように目前の現象を分析するのは難しいと判断し、ガッタはいったん現実的な判断を選択する。


「そうか、とりあえず、毒でダメージを受けていなかったならよかった。傷も最小限だから、多分魔石も取りやすいんじゃないかな」


 ガッタは獣耳を揺らし、倒れたピロウリザードの死骸に触れ、ナイフを突き立てながら魔石がある位置を探っている。


「……あちゃ、こいつはハズレだな。毒袋に魔石がある」


 ガッタが予想外の事態に残念がっているのを見て、洋市は事情を尋ねる。


「毒袋に魔石があるのはマズいんですか?」


「あの袋は立派な素材の一つでな。本来なら毒をしっかり抜いてから、高級枕の材料にするんだ。頭をしっかり包み込んで体重を分散できるから、特に身体の大きい獣人や魔人から評判がいいそうだ。俺も一回高級宿で使ったことがあるけど、ありゃあ癖になるのも分かるわ」


 洋市は話を聞いて、だったら魔石だけを取り出せないのかと思い、深く考えずガッタに聞いてみた。


「……魔石を取り出すだけでいいような気がするんですが、そういうわけでもないんですか?」


「袋に毒がある状態で魔石を取りだしたら、どうなると思う?」


「あっ」


 洋市はガッタから、ピロウリザードの毒が気化する可能性について、簡単に説明を受けた。


 ピロウリザードの毒は、袋の中にある時点では液体である。

 しかし、一定の密度で放たれなければ気体に変わる性質がある。


 これは水の性質に近いものではあるが、水霧が地面を濡らすのと違い、空気中に放たれた毒は飛散する性質があるらしい。

 したがって、袋を破かないように持ち帰る必要がある。


 もっとも、袋の部分自体が一定の強度を持つため、身体から切り離せばそのまま安全に持ち運べるという。

 ただ、袋の中に魔石があるから、買取時に魔石を安全に取り外す工程を冒険者ギルドに依頼しなければならないらしい。


 一通り説明したところで、ガッタが残念そうに言う。


「ま、そんなわけで持ち帰っても大したお金にならねえから、今回は他の部位だけを……」


 ガッタがそこまで話したところで、洋市は提案した。


「……要するに、袋を傷つけずに魔石が奪えればいいんですよね。ちょっと試してみてもいいですか?」


 洋市は、大トカゲの身体を解体する前に、袋の上から魔石の場所を探り、硬い感触を得た。

 そこに手を当てて、スキル【盗取】の発動を試みた。


 一回目は何も起こらない。

 二回目も何も起こらない。


 三回目に、再度、袋の中の硬い感触だけをイメージして発動を意識したところ……。


「えっ?」


 ガッタの驚きの声。


 洋市はスキル【盗取】を使って、袋の中にある魔石()()を取り出した。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

ページ下部からの評価(☆)、ブックマーク、ご感想など、いつも大変励みになっております。

これからも『ゴブリンマン』をよろしくお願いいたします。

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