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【ゴブリンマン】~40代フリーランスが異世界でゴブリンになったら、人助けポイント稼がないと人間に戻れなくなった件~  作者: 広瀬
第二章 ゴブリンマン活躍編

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第五十二話 森の変化と魔石の換金

命の泉に、何だか()()()()()()のような雰囲気の祠を建立し、精霊の眷属であるジルファと久しぶりの対話を果たした一行は、死闘の森の入り口にある砦への帰路についていた。


歩を進めるごとに、ノアだけでなくマンナ、ガッタ、セミーンも、森の空気が祠の建立前と明らかに違うことを肌で感じ取っていた。

これまで、様々な魔物が発する大小のプレッシャー、重苦しい鬱蒼とした雰囲気の中で戦ってきたパーティーメンバーは、どこか木漏れ日が少し暖かくなったように感じていた。


「なんか暖かくなってきたな……油断すると眠くなりそうだ」


普段、パーティーの中で誰よりも気を張っているガッタが、どこか可愛らしい感想を口にする。


「あんたがそんなこと言うなんて珍しいわね。確かに空気は軽いけど、こんなに早く祈りが届くなんて思わなかったわ」


ノアはガッタの意外な一言に驚きつつ、自分は確かに仕事をしたのだという安堵感を覚えていた。


「警戒はしてるつもりだけど、以前とは明らかに敵意が減った気がするわ」


「そうだな……拍子抜けした、って感じだが、油断は禁物だ」


マンナも森の変化を感じ、セミーンはパーティーが気を抜かないよう諌める。



もちろん、森の浄化が始まったからといって、森の魔物がゼロになったわけではない。


道中、セミーンがいうところの「低級から中級」レベルの魔物が、何度か一行の前に立ち塞がった。

しかし、その脅威度は以前とは比べ物にならなかった。


浄化が始まる前、魔物は獲物を見つけると気配を消し、先制攻撃を仕掛けてくるのが常だった。

パーティーは、その傾向を踏まえ、できる限り先読みして魔物と遭遇しなければならなかった。


ところが、現在森にいる魔物たちは、どこか警戒心が薄い状態だ。


「せいっ!」


セミーンが分厚い盾を構えて猪型の魔物の突進を受け止めようとしたが、魔物は激突する直前で急に勢いを失い、たたらを踏んだ。

調子を崩したセミーンは、いわゆる「シールドバッシュ」という技術で、盾をぶつける形で魔物を倒してしまった。


急所を狙って待機していたガッタだったが、出番がなく剣を鞘に納めた。


終始このような戦いが続き、マンナが前衛の戦いを補助する機会もなければ、ノアが魔法を使う場面もなかった。

もちろん、洋市や亜希が戦いに参加することもない。


『魔物たちの動きが鈍い……見境なく襲いかかってくる個体もいない。でも、魔物の種類自体が変わっている様子もない」


マンナは、引き続き周囲を警戒しながら、これまでの戦いを冷静に分析していた。


倒した魔物からは、ガッタとマンナが手際よくナイフを使い、魔石や換金可能な部位(牙や毛皮など)を剥ぎ取る。

そして、セミーンが背負えるだけ背負って前へと進んでいく。


その無駄のない作業、迷いなく自分たちの仕事を全うする姿勢を、洋市と亜希は感心しながら見つめていた。

自分たちが普段住んでいる世界とは異なる世界で、日々の糧を得る営みを見学する洋市たちにとって、暇な時間は一時もなかった。


気が付けば、一行はバルカスが管理する砦へと帰還していた。


「何だか懐かしいですね、洋市さん」


「そうですね、つい最近来たばかりのはずなのに、随分時間が経ったように思える」


ここ数日の、ジェットコースターのような展開を考えれば、無理のない話であった。


いきなりゴブリンとなり、意図せず異世界や須田市で死線をくぐり抜けてきた洋市。

それに半ば巻き込まれる形で、非日常に放り込まれた亜希。


この砦は、どちらにとっても、生涯忘れ得ぬ思い出の地となるだろう。




砦で職人たちといったん別れた洋市たち六名は、バルカスの執務室に向かい、ノアとともに祠建立の顛末を報告した。


ジルファの指示通り、泉に祠を建てて水の精霊アサン、その眷属のジルファを祀ったこと。

そして完璧ではないものの、周囲の魔物が弱体化の兆しを見せ、将来的に森が浄化される見込みが立ったこと。


これらの報告は、バルカスもおよそ想像していたものではあったが、これほど早い段階で兆しが見えるとは思っていなかった。


「ご苦労だったな。俺は精霊について詳しくないが、んまあ、ストラグルウルフの群れが砦を襲撃した時点から、現在に至るまでの動きを考えれば、今までとは違う何かがあったのは予想がつく」


バルカスは分厚い胸板の前で腕を組み、立派なヒゲを揺らして頷きながら話を続ける。


「具体的な効果のほどはともかく、生態系そのものは変わらず魔物が弱体化するなら、こっちとしてはひたすらにいい話だ。森の脅威は少しずつ下がる。しかし、森で採れる素材や、生息する魔物の魔石の価値自体が下がるわけではない。結局のところ朗報に間違いねえ。んまあ、安全に稼げるとなれば、開拓目的の冒険者がこの砦にどっと押し寄せてもおかしくねえな」


バルカスはそう言って、ニヤリと笑みを浮かべた。

砦の管理者として、人が集まり経済が潤うことは朗報であり、自身の評価が上がることにもつながる。


バルカスの反応を見ていた洋市は、フリーランスとして、日本におけるビジネスシーンでの傾向を頭に思い浮かべていた。


『リスクが下がってリターンが変わらないなら、実質的にメリットが増えて新規参入のハードルが下がる。当面はブルーオーシャン市場が形成されるってことだ。競合が少ないニッチなキーワードを見つけた時と同じだな』


洋市は、ブロガーとして培ったSEO知識を絡めて事情を理解し、内心で一人納得しつつ、現実的な質問を投げかけた。


「すみません。バルカスさん、我々が道中で手に入れた魔石や魔物の部位についてですが、この砦の中で買い取ってもらい、報酬(お金)に替えることは可能ですよね?」


バルカスが少し言葉に詰まると、すかさずマンナが砦の事情を補足する形で説明を引き継いだ。


「ヨウイチさんは確か、珍しい魔石を持ってるって話だったわよね。ここで魔石を買い取ること自体はできる。でも、ここはあくまで辺境の砦だから、軍資金や砦の運営予算も限界があるの。食料や日用品、武具を購入する程度の、砦近辺での狩りや採取ならともかく、本格的な買取りは街に行かないとできないわ」


「つまり、ここでは換金所としての機能は限定的だということですか」


バルカスが、レゾルグ王国の事情に詳しくない洋市に説明する。


「端的に言えばそうだ。そもそもこの砦は開拓目的で準備されたもので、基本的には過去の大戦の遺産をそのまま使ってるだけだ。んまあ、それでも必要十分な設備はあるが、いかんせん商業となると分が悪い。なんたって、商人があまり来たがらねえ。危険だからな」


「やはり、相応に危険な場所、ということですね」


「ん……?ノア、ヨウイチには“ここ”について説明したのか?」


ノアは話を振られて、森の成り立ちや歴史について、洋市に説明していなかったことを思い出した。


「説明してなかった!どうします?今話してもいいなら共有しますけど」


「道中でやってくれればいい。お前たちが知っている通りの、常識的な内容だからな」


ノアは頷き、洋市に向き直る。


「……というわけで、私たちパーティーはこれから素材や魔石の換金に行くんだけど、その道中でマンナに話してもらうね。これから職人の皆さんと一緒に、砦から最寄りの街まで移動するから。名前は『ハンスル』って言って、そこの冒険者ギルドまで持ち込めば、適正価格で買い取ってもらえる。ただ、ヨウイチが手に入れたっていう魔石は特殊な気がするから、いったん商業ギルドに持ち込んだ方がいいかも。私は引き続きお供えとかお祈りとかするから、砦に残るから」


「そういうわけで俺も残る。ヨウイチたちにはマンナとガッタが付く。よろしくなヨウイチ」


「よろしく」


「よろしくね」


セミーンは、前衛としてノアを守りながら、祠までの移動をサポートすることになった。

マンナとガッタの役割は、砦の兵士たちが代行することで話が付いているようだ。


「お二人が付いてくれると助かります。よろしくお願いします」


「よ……よろしくお願いします!」


洋市と、アプリで翻訳しながら事情を聞いていた亜希は、ともにガッタ、マンナに頭を下げた。

ガッタは自分の胸を叩いて『任せろ』とジェスチャーし、マンナはその様子を見て『やれやれ』と両手を水平に上げて軽くため息をついている。


バルカス、ノアからの情報を得て、洋市と亜希は少し話が大きくなっていることに戸惑った。

しかし、翔・かつて魔物となって亜希たちに危害を加えようとした存在を、アプリを使って日本円に換金するのは、将来的に何らかのトラブルが懸念されるという認識もあった。


今なお翔は重要指名手配中であり、その足取りは警察側もつかめていないはず。

であれば、少なくとも現代日本の須田市で足が付かない換金方法も知っておいた方がいい。


現代日本での生活費も必要だが、アルトヤ界で安全に活動するための活動資金も手に入れなければならない。

こうして、ノアを除く『アサンの水源』のメンバーと洋市・亜希は、職人たちと共にレゾルグ王国の都市「ハンスル」へと移動を開始した。

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