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【ゴブリンマン】~40代フリーランスが異世界でゴブリンになったら、人助けポイント稼がないと人間に戻れなくなった件~  作者: 広瀬
第二章 ゴブリンマン活躍編

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第五十一話 異世界の気安いフリーランス

洋市と亜希は、月・火・水曜日を日本での行動に、それ以外の曜日を異世界での行動に割り振ることを決めた。

ある日のアルトヤ界にて、洋市たちとパーティー『アサンの水源』の面々は、マッピング機能で“命の泉”と表示される場所にいた。


ノアは、洋市が持ってきた写真集の、


「日本の祠紀行 名山からお地蔵様まで」


を読みインスピレーションを得た後、泉がちょうど“凹の形”に見える部分の、窪みの中心に祠を建てた。


その内部に、洋市が須田市にあるアニメ関連グッズを揃えたチェーン店、アニマートで購入した水の精霊っぽいフィギュアと、最寄りの神社で購入した蛇の縁起物の像を配置する。


祠は森に職人を呼んで建てたので、かなり本格的な仕上がりになっており、洋市は祠が出来上がった時点で妙に清々しい空気を感じていた。

このあたりは、洋市が日本という八百万の神が息づく国で生きてきたことが一因かもしれない。


亜希もまた、日本の祠が異世界に建立されるという状況に少し興奮しつつ、若干の違和感を抱きながら作業工程を見ていた。

日本における一般的な建築と違い、アルトヤ界では魔法を使って建築するため、複数の木材を一度に接着するような作り方ができる。


複数の木材を三角形のフォルムにデザインし、骨格と室内、扉といったパーツごとに組み立てていく。

その状態が出来上がったら、土魔法で木材同士を固める、といった具合だ。


風魔法で切り出された木材が宙を舞い、パズルのようにガチャンガチャンと組み合わさっていく。

そこへ土魔法の泥が飛んでいき、接着剤代わりに隙間を埋めて瞬時に硬化する。


もっとも、これはどちらかというと雑な作り方なようで、本来ならちゃんと大工が所定の工程を経て建物を建てる。

今回は、あくまでも建立を急いだ形であり、蝶番などは後で打ち込むこととなった。


ノアは、取り急ぎ出来上がった祠にフィギュアと縁起物を配置した。

その後、早々に儀式を行う。


「我ら人類に水の恩恵をもたらす精霊アサン様、その眷属ジルファ様、ここに御二柱の御力をたたえ、お呼び申し上げます。ムム アサン スコ ジルファ タタリ カナン」


呪文らしき言葉を口に出した後、ノアは自身の魔力を練り、水属性の魔力を祠にまとわせるようにして祈りを続けている。

泉にいる面々が固唾をのんで祠の様子を見守っていると、やがて祠は少しずつ水色のオーラをまとい、フィギュア・縁起物“だったもの”は急に生気を持ち始めた。


自分が言い出しっぺとはいえ、水色のオーラをまとい始めた祠の中で、言っちゃ悪いが安っぽいプラスチック製のフィギュアが、まるで本物の女神のような神々しい光を放ち始めた様子を、洋市は複雑な気持ちで見ていた。


とっさに、ノアと洋市は自分が呼ばれているような感覚があり、それぞれ祠に意識を向けた。


『仕事が早いな。大儀であった。これよりこの泉にジルファは住まい、人類と良き縁を成す限り、森と泉の恵みをもたらすことを約束する』


ノア・洋市の頭の中に、ジルファの声が届く。

困惑するノアをよそに、洋市はジルファに念を飛ばすようなイメージで話しかけた。


『またお会いしましたね』


『其方は良い意味で遠慮がない物言いをする。普通、我のような姿を一度でも見た者は恐縮し続けるのだが』


『似たような存在が、日本にはたくさんいるので。そんな存在に、私たちも祈りを捧げることがあるのですよ』


『視た。あれは何だ?硬貨を社に投げつけているように見えたが』


『あれは初詣というもので、硬貨を入れる賽銭箱というのが遠くにあるので、ああやって投げているのです』


『で、色々と祈っているのだな。ああいう願いは我は聞き届けぬぞ』


『そうでしょうね。ノアさんたちも、別にそこは期待してないと思いますよ』


洋市とジルファが久しぶりにコミュニケーションをとっていると、ノアもおずおずと会話に参加してきた。


『ちょっと、ヨウイチ気安すぎ!……お、畏れ多くも精霊の眷属として森を治めたるジルファ様におかれましては……』


『巫女よ。其方の慇懃さに感謝する。多くは語らずともよい。精霊アサンも其方の苦悩と活躍は視ている。沙汰は都度伝える。引き続き励め』


『は……はっ!』


ノアは、自身のこれまでの働きを精霊に認めてもらえたと聞き感謝するとともに、やっぱりヨウイチの気安さはおかしい気がして釈然としなかった。


『さて、これより我は泉の浄化に入る。浄化が完了後、徐々に森もかつての生気を取り戻すだろう。繰り返すが、沙汰は都度伝える。巫女よ、落着するまで今しばらく砦を根城にせよ。そう時間はかからぬ。他の者は好きに動いて構わぬ。以上だ』


ジルファからの念が途絶えたところで、洋市とノアがハッとすると、周囲は少し心配そうな面持ちで二人を見ていた。

マンナが空気を読んでノアに話しかける。


「……えっと、精霊と話し終わった、って感じかしら?」


「ジルファ様と。ヨウイチも同じよ」


「そう、よかった。それで、私たちはこれからどうすればいい?」


マンナが全員を代表して疑問を伝え、ノアはジルファから聞いた通りに状況を説明する。


「えっと、とりあえずこれからジルファ様が泉と森の浄化に入るって話だから、それが終わるまで私は砦で引き続きお供えとお祈りね。他の三人は自由に動いていいらしいから、もし魔術師で誰かいたら即席でパーティー組んでいいから、適当に稼いでて」


「相変わらず雑な指示ね……まあいいわ、ヨウイチさんたちも協力してくれるんでしょ?」


話を振られた洋市が答える。


「はい。私たちも『魔石の収集』ってやつをやってみたいんです。あとは、この国で収入を得るにはどうすればよいのかも知りたいので」


超然とした雰囲気を醸し出す洋市に対して、ノアは黙っていられずツッコミを入れる。


「ちょっとヨウイチ!あんなに気安くジルファ様とコミュニケーションをとって怖くないの!?私は怖いよ!やめてね、今後は!」


洋市としては、神社に参拝した経験から、別に怖くないので普通の日本人の感覚で話しているだけなのだが、これは彼のスキル【人間離れ】の影響もあった。

相手が人ならざる者であっても、行きつけの定食屋のマスターに接するような、フラットな精神状態でいられるのである。


そうとも知らない洋市は、ノアの驚きぶりに困惑しつつ返答する。


「えっ……わ、分かりました。でも、あんまり仰々しい言い方はできないので、できるだけ気さくに話さないようにします」


気さくに、という言葉を聞いて、マンナやセミーン、ガッタも『こいつマジか』という表情を浮かべる。

その場にいる大工や工事業者の面々は、そもそも何をどのように話していたのか、この祠を建立するまでの経緯がどのようなものだったのかを知らないので、洋市の様子が滑稽に見えていた。


ここでようやく緊迫した空気が少し解け、その場にいた面々が各々の会話を始め出す。

亜希もまた、その空気の中で洋市に話しかけた。


「……洋市さん、あの大蛇さんと何話してたんですか?」


「いや大したことは……写真集に初詣の写真があったでしょう?だからそのことについて少し話しましたね」


「っていうか、フィギュアと縁起物を拝むなんて、めっちゃ罰当たりな気がするんですけど」


「こっちの世界で、それなりに質の高い銅像なんかを用意しようとすると、結構時間がかかるんじゃないかと思ったんですよね。技術的な問題もそうですけど、宗教的な意匠って意見が割れることもありますし。だったら、すでにある程度出来上がっているものを持って行けば、色々と端折れるんじゃないかと。異世界モデルだからご利益もありそうじゃないですか?」


「そういうところだと思いますよ」


「そうかなあ」


同郷の亜希にさえたしなめられ、少し洋市は落ち込んだが、結果オーライと気持ちを切り替えた。

その後も他愛ない話をしていると、どうやらここに集まった面々は砦に戻る運びとなったようで、洋市たちも一緒に歩き出した。

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