第二十四話
ガッタとセミーン、そして合流した斥候のマンナは、砦の中央近辺の広場で宴の準備を手伝いながら、ノアの帰りを待っていた。
ノアが傷病者の治療にあたっていることは知っていた三人だったが、まさかその休憩中にヒュージウルフに襲われていたとはまったく考えておらず、会場設営の傍ら雑談をしている。
「やっぱり、あれは人為的なスキルだと思うんだよなあ。でも、人間の気配はなかった気がする」
「セミーン、あんた本当に馬鹿真面目だよねえ。考えたって分かりゃしないことは、いったん脇に置いといた方がいいこともあるんだよ」
「セミーンの考えることは分かるぞ。あのタイミングで支援されたのは、やっぱりちょっと怖いというかうすら寒い感じはある」
セミーンとガッタは、自分たちを援護してくれた者の正体が分からないことに、少々不安を抱いていた。
その一方で、マンナは考えても分からないことはいったん保留する性格のため、今に集中できていないほど悩む二人の態度をやや真面目すぎると感じていた。
そして、その二人を悩みを解決するであろう存在が、ノアに連れられてやって来た。
「あっ、いたいた!おーい!帰ったよー!」
仲間の三人が椅子を並べているところに、ノアが手を振りながら声をかける。
三人がノアの方を振り向くと、そこには見慣れない二人も一緒であったが、すぐにそれが噂の遭難者たちだと気付く。
「おかえり、ノア!その人たちもケガをしたの?」
マンナがセミーン、ガッタの警戒心を解く意図で挨拶し、ノアがその意図を汲んで答える。
「違うの。この人たち、私の命の恩人なの!」
ノアの答えを聞いたガッタとセミーンは、驚きの表情を隠さない。
「おいおい、そりゃどういうことだ?治療中に襲い掛かってきた輩でもいるのか?」
「場合によっては牢屋行きにしてやってもいいな!」
リーダーであるノアにケンカを売るだけでなく、あろうことか命を狙おうとするとは!
そう意気込む単細胞二人にノアが突っ込む。
「違うわよ!ヒュージウルフが平野側の門前に隠れてて、そこをこの人に助けてもらったわけ。詳しくは砦で話すわ。バルカスさんにも報告したいんだけど」
リーダーが魔物に喰われかけるという衝撃的な事実を打ち明けられた三人のうち、マンナとガッタは頭を殴られたような衝撃とともに、破れた寝間着姿の男性の活躍に半信半疑だった。
しかし、セミーンはそれ以前の問題を指摘した。
「おい!なんで一人で外に出たんだよ!?見張りに一声かければいいじゃねえか!」
「戦いのあとのドタバタで、ちょうど近くに防衛兵がいなかったのよ。本当に“ちょっと”様子を見るつもりだったんだけど……油断と言われれば仕方ないわね。ごめんなさい」
素直に謝るリーダーの姿を見て、セミーンはバツが悪そうにしつつも、言うべきことは言わなければならないと顔を引き締め、再び口を開いた。
「他でもない、お前はこのパーティーのリーダーなんだ。自分の命を最優先に考えてくれ。お前の魔法なくして俺たちは戦い続けられない。お前あっての『アサンの水源』なんだからな」
「ごめんって」
ノアはそう答え、舌を出していたずらっ子っぽく笑って見せた。
ここでいったん、パーティーの残り三名は状況を把握した上で、改めて寝間着姿の塩顔男の紹介を求めた。
まずはマンナが口火を切り、洋市に話しかけた。
「セミーンは納得できた?……痴話喧嘩を見せてごめんなさい。私たちのリーダーを助けてくれてありがとう。私はマンナ。このパーティーで斥侯をやってるの。あなたは遭難者だって聞いてるけど、戦う力を持っているのね?」
日本でいうところの、ボブカットでまとめた細目の茶髪女性は、自己紹介がてら洋市に質問した。
それを受けて洋市は自己紹介を始める。
「はじめまして。私はヨウイチといいます。私は隣にいる仲間のアキと一緒に、気が付いたら森にいて、命からがら魔物から逃げて来ました。バルカスさんに事情をお伝えしたところ、お宿に泊めてもらえることになったんですが、オオカミたちの襲撃中に場の流れで戦うことになったのです。結果的に、ノアさんを助けられたこと、ご縁をいただけたことは幸運でした。今後ともどうそよろしくお願いいたします」
事情を説明しながら、フリーランスとして腰の低い対応を心がけ、言葉を選んで自己紹介する。
その話の内容に驚いたのはガッタとセミーン、丁寧な言葉遣いに驚いたのはマンナだった。
セミーンは少し考えて、疑問は先に解決した方がよいと判断し、挨拶がてら単刀直入に洋市に質問した。
「……俺はセミーンという。見ての通りの重戦士だ。そっちの剣士はガッタという。不躾な質問をして悪いが、あんたはひょっとして、俺たちが群れに手こずっているとき、風魔法か何かを撃って援護してくれたか?」
「そうですね……援護というのもおこがましいのですが、そのとき私の周囲にいたオオカミたちを倒すため、スキルを発動させてはおりました。……詳しいお話は、できればバルカスさんにもお聞かせできればと思いますので、そのタイミングでもよろしいでしょうか?」
「そうか!いや、それならいいんだ!変な質問をして済まなかったな!ありがとう!」
洋市の答えを聞いたセミーンは、自分の勘繰りが外れていたことを悟られないよう、つとめて明るく感謝の意を洋市に伝えた。
その様子を見ていたガッタは、セミーンが危惧していた問題をある程度推測し、胸をなで下ろした。
『とりあえず、暗殺者や魔物の線はない、と踏んだか。バルカスさんにも説明するつもりらしいし、何か後ろめたさがある人間ではない……か。もっとも、記憶をなくしている可能性もあるわけだが、少なくとも俺たちを助けたことについて腹に一物あるわけではないらしい』
セミーンが考えているであろうことを、長い付き合いをヒントに少し深読みした後、ガッタも洋市に自己紹介した。
「俺はガッタだ。ここにいる心配性で鎧兜を手放せない男の数少ない仲間だ。よろしく」
さりげなくセミーンをディスるようなジョークを飛ばし、セミーンに小突かれたガッタは、洋市たちが笑うかどうかを確認していた。
洋市は少し表情を崩したのに対して、もう一人の女の子が戸惑っている様子を見て、おそらく言葉が分からないのだと理解した。
「ヨウイチ、だったな、彼女に俺の必殺の冗談をしっかり翻訳してくれ」
無茶ぶりに今度は洋市が戸惑い、マンナが出張ってガッタにデコピンをする。
「あのねえ、この人たちは遭難者なんだよ!そう・なん・しゃ!面倒事増やすんじゃないよ!!」
ガッタとセミーンを諌めたマンナは、このままだとつまらない話で洋市たちが疲弊しかねないと考え、音頭を取った。
「とにかく、ここで話していても時間だけが過ぎてっちゃうから、まずはバルカスさんのところにみんなで行こう。いいね?」
まずマンナと亜希以外の全員がうなずき、洋市が翻訳した後で亜希もうなずいた。
こうして、六人はバルカスの部屋へ向かうことになった。




