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【ゴブリンマン】~40代フリーランスが異世界でゴブリンになったら、人助けポイント稼がないと人間に戻れなくなった件~  作者: 広瀬


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第十八話

森側の防衛線。

無数のオオカミたちが門や塀を越えようとしている中、剣士ガッタと重戦士セミーンはオオカミのヘイトを集めている。


「おらおら!てめえらの相手は俺たちだ!」


「Cクラス冒険者が直々に相手してやってるんだ!ありがたく思え!」


二人は声を出しながら、牙をむいて襲ってくるオオカミたちを切り倒している。

尖った犬耳を持つガッタの得物は剣、巨体を鎧で覆ったセミーンは斧である。


彼らは死闘の森で稼ごうとやって来た、魔術師ノアを中心とする四人組パーティーの一員だ。

斥侯のマンナは、塀横側の守りが手薄なことを把握し、砦を守る防衛兵のサポートに回った。


事前調査の結果、死闘の森入口は“自分たちのクラスを超える強さの敵は出ない”だろうと踏んで、修行がてら探索を試みようとしていた。


アルトヤ界では、危険な場所の探索や商人の護衛など、幅広い肉体労働を請け負う職種を総じて[冒険者]と呼ぶ国がほとんどだ。

冒険者は、これまで達成した仕事や武門での実力を評価され、相応のクラスに割り振られる。


Cクラスというのは、冒険者の中でも様々な依頼を達成しないと届かないクラスで、その意味では今回の戦いに参加できる十分なレベルだ。

しかし、冒険者数名では到底処理できない数のオオカミに砦を襲撃されている現状では、決して楽観視できるものではない。


「セミーン、どうする!?森側へ誘導してみるか!?」


「全部は無理だ、お前は一人で走れても、俺は同じ速さでは動けん!」


「じゃあここで!」「盾になるさ!」


基本的に、アルトヤ界・レゾルグ王国の冒険者というのは清々しい性格のものが多い。

クラスが上がるほど生活にも余裕が生まれ、自身の仕事に対して誇りを抱くのが理由である。


冒険者になるための採用試験に通らなければ、最低クラス(Gクラス)の仕事さえ得られない。

ただ、最低クラスの仕事だったとしても、採取や護衛をきちんと頑張れば日銭は稼げるため、いっぱしと呼ばれるEクラスまでは多くの人間が到達できる。


ただし、Dクラス以上を目指すには“魔物の討伐”が重要な意味を持つ。

レゾルグ王国が“魔物”に分類している生き物たちは、冒険者換算でDクラス以上として判断されるため、同クラスの魔物を複数匹倒さなければクラスアップできない。


追い払うだけならEクラス以下でもできるが、討伐になるとDクラス以上でないと難しい。

これが、レゾルグ王国の共通認識だった。


「ガッタ、後ろ確認できるか?」


「さっきチラっと見たが、俺たちだけでは抑えきれないな、最寄りの町から応援が来るか?クソッ!」


話している間にも、オオカミたちはガッタ、セミーンに襲い掛かる。

剣に嚙みついたオオカミは、横っ腹をガッタに蹴られて口から剣を離した後、首と胴が泣き別れになった。


「……暗くなる前にカタをつけたいが」


「夜まで続くのか……この攻撃が……でもなんでこのタイミングで」


「多分、ストラグルウルフのトップが変わったんだ。他の魔物に殺されたのか?」


ガッタの疑問に対してセミーンが答える。

まったく当人には自覚がなかったが、きっかけは洋市がオオカミの群れを平らげてしまったことだった。




ストラグルウルフは、死闘の森に生息する魔物の一種で、人間と同じように複数匹でパーティーを組む習性がある。

昨日の夜、洋市と亜希が遭遇したストラグルウルフたちは、あろうことか群れの親玉が率いるパーティーだった。


この種は、親玉が権威を示すため、パーティーを組んで縄張りを定期的にパトロールする。

そして、湖には陰蛇(おにへび)が生息していることも知っていたので、若い個体が近寄らないよう見張っていた。


ところが、ある日のパトロールで陰蛇が見るも無残な姿で残されていた。

これはチャンスと、群れを率いてご馳走にありつこうと考えたところ、仲間と戻ってきた時には亡骸はとっくになくなっていた。


これは、洋市が陰蛇の魔石を盗んだことが理由だった。


魔石は、その魔物の存在そのものを担保する物質であり、他の魔物に取り込まれればその魔物が栄養化する。

つまりは、個体のレベルアップに貢献する。


しかし、洋市は特殊な存在であり、どういうわけか魔石を自分の身に宿すことができた。

したがって、亡骸そのものも()()()()()として洋市に取り込まれ、陰蛇は影も形もなく消えてしまった。


この現象について、賢い彼らは『まだ陰蛇は生きている』と判断した。

そこでパトロールを強化しようと考えたところに、運悪く大蛇化した洋市に食べられてしまったのだった。


ストラグルウルフの親玉が亡くなると、群れ社会は一種の力試しが始まる。

簡単にいうと、次の親玉を決める競争が始まるのだ。


群れ同士で争う場合もあるが、今回は力が拮抗する数匹が考えた結果、近くにある砦を群れで攻め、もっとも多くの獲物を狩った個体が親玉となるルールが決まったのである。

冒険者の中に、この習性を知る者は少なくなく、それを見越して狩る(間引く)個体を見極めるのが基本ルールだ。


残念ながら、この世界を知って間もない洋市は、そんな生態もルールも知らない。

ちなみに、かつて洋市が追われた巨大オオカミは別の種であり、こちらは単独行動を好む。




さて、無自覚に今回の原因を作ってしまった洋市は、ゴブリンの姿で塀の陰に身を潜めていた。

そろそろと、しかしスピーディーに影を伝い、何とか森側の出入口から外に出た。


『随分多くのオオカミがいるな。この間食べた奴らと同じ種かな』


以前平らげたオオカミと同様、皮膚がヒリヒリする感覚がないことから、洋市は自力で倒せると判断した。

塀に爪を立ててよじ登ろうとしているオオカミの首を、影に隠れながら右手チョップで刈っていく。


すでに上まで到達している個体は無理に殺さず、あくまでも身を隠しながらオオカミの数を減らすよう努力した。

体感で数十分を要した頃、出入口近くにいるオオカミは、塀の上にいる兵士の攻撃もあって、ほぼいなくなったようである。


しかし、出入口から見た先、森が口を開けて待つ手前では、二人の戦士がオオカミの群れに翻弄されている。

洋市は助けることにしたが、遠くから声をかけるのも難しく、身を隠してのサポートは現実的でない。


そんなタイミングで雲が太陽を覆い、周囲に帳が下りた。

洋市は、その一瞬を見逃さず、木々の影を駆け抜けて目の前のオオカミの首を刈る。


『あの二人から離れたところにいる奴だけを狩ろう』


そう洋市は意識して、森の木々の近くにいる個体だけを影に引きずり込み、一匹ずつ迅速・丁寧を意識して首を刈っていった。

繰り返し何匹か刈ったところで、頭の中にアナウンスが響く。


> スキル【風刃】を獲得

> 爪を立ててチョップすると、風の刃を手を振った方向に飛ばせる


『また何かスキルを覚えたみたいだが……この場面では使えるスキルかもしれない』


ある程度オオカミの首を刈ったところで、孤軍奮闘している二人のもとに戻ると、強そうな個体に押されているのが見えた。


「畜生!魔法が使える個体なんて初めて見た!」


「身体強化とは、地味ながら厄介な奴らだな!」


洋市が倒した個体に比べて、ガッタとセミーンが相手をしているオオカミたちは、避けたり噛みついたりするスピードが速い。

その動きに翻弄され、体力を消耗しているようだ。


洋市は、木陰から二人の戦いを観察しながら、冷静に状況を分析し始めた。

その時、


「うおっ!?」


兜で顔を覆ったセミーンの首が、オオカミの牙によって鎧から切り離されるのを洋市は見た。

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