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【ゴブリンマン】~40代フリーランスが異世界でゴブリンになったら、人助けポイント稼がないと人間に戻れなくなった件~  作者: 広瀬


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第十五話

その後、門番たちと話をする中で、何とか洋市と亜希は不審者でないと理解してもらえた。

武器らしいものを保有しておらず、見た目からして戦える状態でないことが理由だった。


洋市の物腰の柔らかさ、つまりはフリーランスとして培った企業向けの丁寧な対応も、大店の商人であると門番たちに誤解させるのに役立った。

便宜上、洋市は次のように身分を偽った。


洋市:大店の商人の下で修業し、独立した店主

亜希:洋市のもとで働く商人見習いで、家族のような存在


洋市はフリーランスになる前に会社で働いていたので、あながち間違いというわけでもない。

亜希に関しては、生まれた国は違うが、同じお店で同じ釜の飯を食う存在だと説明して、納得してもらえた。


無事門を抜けた後、砦の中にいる仲間と思しきメンバーから案内を受け、門の内側を見せてもらうことになった。

案内してくれる男性は、20代前半のようなルックスで、耳も人間と違いはなさそうである。


砦の中へ入ると、そこには崖の上から見たときよりもはるかに巨大な建物があった。

周囲には食べ物や武器・防具の類を売っている露店があり、建物の中には宿屋らしきスペースもある。


建物は、洋市の見立て通り三階建てで、一階は入口から見て左側に宿屋、右側にテーブルと椅子が並んだスペースがある。

数人が座って談笑していたが、洋市と亜希の姿を見ると、何やら深刻な表情になり声を潜め始めた。


『まるでRPGの世界だな……そして俺たちはやっぱり警戒されているのか?』


洋市は、周囲の自分たちに対する視線や態度から、少々警戒度を高めた。




『あぁ……全然言葉が分かんない。洋市さん大丈夫かな、私のこと何て説明してるのかな?』


落ち着いて周囲に気を配れる余裕がある洋市と違って、亜希にはまったく余裕がなかった。

周囲の話し声がまったく聞き取れず、周囲から向けられる目も決して好意的なものではなかったため、頭の中は不安でいっぱいだった。


『どうしよう……洋市さんに話しかけたいけど、今はどこかに案内されているみたいだし、とりあえず付いていくしかないか……』


亜希は気持ちを切り替えて、洋市がどうして周囲とコミュニケーションをとれるのか考察を始めた。


『やっぱり、洋市さんはこの世界に“呼ばれた”人なんだ。秘境駅でゴブリンにされたとか言ってたけど、きっとこの世界に行かなければならない理由があるんだ。私が軽い気持ちで関わるべき人じゃなかった……。無事帰れたら、今後は自分のことは自分で何とかしないと』


周囲の話していることが分からない、そして同じ世界から来た人が問題なく異世界の言語を理解している状況に、亜希は自分が外野であると強く認識した。

外国語のような雑音を時折耳にすると、さながら自分が海外旅行に来たような感覚に陥り、ふと、スマホをいじっていないことに気が付いた。


『スマホ……あるかな……あった!』


日本人にとって、スマホはもはや精神安定剤といえるほど重要な存在である。

亜希にとっても例外ではなく、誰とも話ができない状況、それでいて当面の命の危機はない状況と察知したタイミングで、亜希はズボンのジッパー付ポケットからスマホを取り出し、画面を見ることにした。


異世界には、当然ながらwifiも携帯基地局もない。

それでも、待受画像を見るだけで少し心が安らぐような気がして、亜希はスマホのスイッチを入れた。


待受画像は、ネットで拾った可愛い猫の写真。

その猫の目の部分を隠すように、何か不思議なアプリの案内が来ていた。


【新着通知:アルトヤ界観光ガイド】

 ▶ お知らせ:現在地のマップと翻訳機能が利用可能です。


『……は?』


スマホには、この異世界における観光ガイドのアプリがダウンロードされているようだった。

当然、亜希には心当たりがない。


これが見つかったら問題になる?

そう直感が働いた亜希は、その場では画面を開かず、すぐにスマホをポケットにしまった。




「バルカスだ。今回は大変だったな。まあそこにかけてくれ」


洋市と亜希は三階まで案内され、砦の守備隊長であるバルカスの部屋に案内された。

顔にはいくつもの傷跡があり、ライオンのようなひげをたくわえ、歴戦の屈強な戦士の雰囲気を醸し出している。


二人は、バルカスに促される通り、部屋の中にある長椅子に座った。

背もたれこそ付いていたが、どこか硬い座り心地の椅子は、異世界に慣れない二人をさらに緊張させた。


「んまあ……まだ詳しい報告は受けていないんだが、死闘の森から逃げてきたってのは本当か?」


バルカスは洋市に質問した。


「正直、ところどころ記憶はあやふやなのですが、魔物から逃げて泉を探して、その先に煙が見えたので、それを目印に命からがら逃げてまいりました」


「そうか……んまあ、その服を見ればおかしな状況に追い込まれたんだろうな、というのは分かる。そいつは寝間着か何かか?血で汚れてるし目立つ絵面だが、多分上質なものなんだろうな」


「ええ、随分昔に買わせていただいたものですが、気に入っておりまして」


「……そっちの嬢ちゃんも、んまあ、良さそうな服を着ているのは間違いないな、ローブか何かか?」


バルカスはそう言いながら、亜希のアウターに付いているフードを指さした。

亜希は突然自分を指さされて驚いているので、洋市がとっさにフォローする。


「は、はい。最新の意匠が施されたものと存じます」


「“存じます”たあ古い言葉だな。あんたもこの辺の人間じゃねえな。んまあ、別にそれ自体はどうでもいい話さ。ちょっと、いくつか聞きたいことがあるんだ」


そう話すと、バルカスは一冊の本と複数枚の紙を、洋市たちが座っていた長椅子の前にあるテーブルに置いた。


「嬢ちゃんは読めないんだったな、じゃああんたが本を読んでくれ。んまあ、堅苦しい文章だから、最初のところ何枚か読んで、読み方が分からないところはこの紙にメモしてくれれば説明する」


洋市は言われるがまま、テーブルの本を開いて、最初のページから読み始めた。


「レゾルグ王国最上法。度重なる戦争と、悪の眷属による惨禍が、再びこの大地に起こることのないよう、人民の未来のために、諸種族との協和、王国全土にわたって平和のもたらす恵みを確保すべく、ここに統治の権能が王家に存することを宣言し、この最上法を確定するものとする」


洋市は、スラスラと音読を続けた。


「本国の国政は、神々の厳粛な信託と民の忠誠をもとに、王家が誠実に遂行することで実現する。その権威は創世の女神に由来し、その権力は選ばれし王のもとに執行され、その恵みは全種族、全人民にあまねく。これは我が国における普遍の摂理と呼ぶものであり、この最上法は、以下の各小法の根拠となり、常に優先される。王家及び国民は、これに反する一切の盟約、小法及び勅命を排除する……」


「んまあ、そこまででいい」


バルカスが手を挙げて洋市を制止した。


「流暢なもんだ。訛りもねえ。んまあ、商人って名乗るなら、これくらいの教養はあって当然だろうがな」


バルカスはそう言って頷いたが、長椅子に座る洋市の背中には、べっとりと冷や汗が張り付いていた。


『……俺は今、何を読んでいた?』


洋市は、テーブルに置かれた開かれた本へと視線を落とした。


そこに記されていたのは、漢字でも、ひらがなでも、アルファベットでもない。

丸と線が複雑に絡み合った、象形文字のような、あるいはミミズが這った跡のような、まったく未知の記号の羅列だった。


しかし、洋市が目を通すと、その記号の羅列がはっきりと“意味”を持って脳に流れ込んできた。

まるで、目と脳の間に見えない高性能な翻訳フィルターが組み込まれているかのように。


『……見慣れない文字を、俺の頭が自動で翻訳してるのか? ゴブリンになった副作用か?だとしたら、亜希さんが言葉を理解できないのも当然だ。彼女は“人間”のままだから』


ふと洋市は、隣に座る亜希を横目で見た。


亜希は、洋市がスラスラと何かを読み上げ、バルカスが頷いている状況を見て『どうやら上手くいっているらしい』と少しだけ安堵の表情を浮かべていた。

だが、その目は依然として周囲への強い警戒と、言葉が通じないことへの疎外感に揺れているようにも見える。


この世界で、自分は亜希と“決定的に違う存在”になってしまっている。

それを感じた洋市は、亜希を無事に日本へ返すためには、絶対に自分が死んではいけないのだと覚悟した。


> クエスト【契約・隣人の盾】継続中

> 受託条件:倉橋亜希の身辺警護(48時間継続)

> 報酬:2時間経過。人間形態維持+10分(978/980分)

> 人間形態維持開始。1分ごとに1ポイント消費

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