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☆第二章本編完結済/120話突破☆【ゴブリンマン】~40代限界フリーランスはゴブリンになっても人間味と仕事が欲しい~  作者: 広瀬
第三章 ゴブリンマン『ビジネス』編

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第百三十四話 とんぼ返り

 死闘の森・命の泉にて、邂逅をとげたかつての仲間たち。

 ジルファと妖精たちは、束の間の喜び合いの後、一つの議題を洋市たちに相談していた。


『アンジェ様を起こすなら、その家に住んでもらわないといけない』


『今のアンジェ様には、森でいろんなものに触れるための身体がないから、身体の代わりになるものが要る』


『ヨウイチ、何かそちらで用意できぬか?』


 人外たちからの相談を、洋市はまるで世間話のように聞き、いくつかの選択肢をあげる。


『祠に飾ったようなものでよろしければ、当てはあります』


『そうか。では、持ってきてくれ。あやつは起こせばすぐに起きるが、座がなければ不便なのだ』


 洋市は、聞き慣れない単語について質問する。


『〖座〗とは何ですか?』


『そちらの世界で言うところの〖写し身〗よ。実体を仮止めして、アルトヤ界と箱庭の間に縁を繋がねば、アルトヤ界で姿を現せぬ』


 さらに分からない単語が出てきたが、洋市はいったんスルーして、まずは品物を手に入れる算段を立てることにした。

 難しそうな顔をして事態を見守っていた亜希のもとへ歩み寄り、さっそくジルファからの注文を伝える。


「……何だかすごいことになってますけど、洋市さん、それって何かメリットみたいなのって、あるんですか?」


 意外と現金な一面を見せた亜希に対して、洋市がもはや昭和の死語と化したことわざを伝える。


「よく、情けは人のためならず、って言うでしょう?困ってる相手の役に立てば、後でいいことが自分たちに返ってくることもあるんです」


 洋市はおぼろげながら、死闘の森周辺を安定させたジルファの身内ということもあり、妖精が戻った後のメリットを漠然と想像していた。


 砦周辺の治安が良くなること。

 それに伴う素材調達の安定化。


 加えて今回の場合、裏があるかどうか不透明な講習を断る理由にもなり得ると考えていた。

 ただ、理由を一つひとつ言葉にすると、ノアから要らぬ疑いをかけられるおそれがあるため、ことわざで濁したのだった。


 しかし亜希からは、洋市の想像の斜め上から答えが返ってきた。


「それ『情けをかけるのは人のためにならない』って意味じゃないんですか?」


「誤用です。もっとも、最近はそっちで覚えてる人が多いみたいですが。世も末ですね」


 亜希の反応に、少しだけカルチャーショックを受ける洋市だったが、これも時代の流れと心の中で受け流す。


「えっと、私は洋市さんがやりたいなら全然止める気はなくて。でも、妖精の姿のフィギュアなんて、どこで手に入れればいいんでしょうね?それに、講習の件もありますし……」


「そうですね。今さら日程変更は難しいかもしれませんね」


 洋市と亜希は、すぐそばで話を聞いていたノアに、スケジュールについて相談した。

 すると、二人にとって意外な答えが返ってきた。


「今回はジルファ様を優先して。ギルドには私から言っとく」


 思わぬスピーディーな肯定に戸惑う洋市と亜希。


「い、いいんですか?」


「レゾルグ王国は基本、託宣が政治に優先するスタンスだから大丈夫。政治は人がすることだけど、神や精霊のなさることに人間は基本的に関与できないし、そっちを優先したほうが良いのは過去の歴史が証明してるから」


 もっと詳しく説明したいけど時間ないわ、とノアが話を打ち切る。


「来てくれてすぐに悪いんだけど、そういうわけで買い物に行ってきて欲しいの。多分、そんなに時間、かかんないんでしょ?」


 洋市は須田市で妖精らしきフィギュアが売られている店を頭に浮かべるが、アニマート以外では思い浮かばない。

 亜希にも確認したが同様だった。


 洋市は、少し申し訳なさそうに眉尻を下げ、ノアに案を伝える。


「私たちが住んでいる都市に、ちょうどいいフィギュア……像の代わりになるものが売られているかどうかは分かりません。ただ、ちょっと遠出すれば大都市があるので、そこならあるいは……」


 ノアは頷いた後、同じように申し訳なさそうに笑う。


「いやーなんかごめんねー、こっちの事情で振り回しちゃって。でもさ、妖精が森に戻って来てくれるのは、望ましいことっていうか、いいことなんだよ」


 亜希は、異世界の妖精が森でどのような役割を担うのか疑問に思い、ノアに尋ねた。


「作物が育つとか、そういうことなんですか?」


「まーそういう一面もあるよね。果物が採れるとか、花ミツ(ハチミツ)を集めやすくなるとか、そういうの? もちっと冒険者的にいうと……薬効のある草が見つかりやすくなる……とか? でも一番重要なのは、その場の空気が“柔らかく”なることなの」


 洋市は、日本でいうところの空気と同じ意味なのかが気になった。


「空気が柔らかくなる? こう、会議で意見しやすくなるような……」


「ヨウイチが言ってるのは“プレッシャーの重さ”の話でしょ? そうじゃなくて、その場にいるとのびのびできるっていうか、癒されるっていうか、そんな感じかな?」


 亜希は昔、自然豊かな公園で遊んでリラックスできた経験を思い出し、納得した。


「分かります! のんびりできますよね! 私も子供のころは田舎の公園でよく遊んでました!」


「妖精は基本的に人類の目に見えないけど、人類の営みに良い影響を与えてくれる存在だと信じられてるし、私は実際にそうだと思ってる。もっとも、妖精の性格は地域によって様々だけどね」


 ノアは、亜希を喜ばせる点にポイントを絞り、妖精を森に留めるメリットを語る。


「私が使っている精霊水は、基本的に水魔法の応用だから、肌ツヤ髪ツヤはその人本人の限界値までしか回復しない。でも、妖精の魔力を帯びた水が採取できたら、まー子供みたいな玉肌になるって話だよ。私とマンナは一度だけ顔に塗ったことあるけど、自然ないい香りもするし高級品だね」


「うわっ、欲しい! ノアさんそれ私も欲しいです!」


 昼夜逆転生活とともに、お肌のケアが死活問題になりつつある亜希にとって、聞き捨てならない情報だった。


「妖精の生態については私もあまり知らないんだけど、邪気や瘴気には弱いから、土地が穢れると離れて行っちゃうの。だから、今ようやく回復してきてるこの森を本来の姿に取り戻せば、この森一帯が人類の住める場所になる可能性を秘めてる」


 洋市は興味深く相づちを打つ。


「ほうほう」


「まあ要するにさ、森が住みやすくなったら誰がどんだけ得するかって考えたら、講習なんかどうでもいいわけ」


 雑に話がまとまったところで、改めてノアは洋市に頼み込む。


「……異世界の人に頼まなきゃいけないのが、やっぱり心苦しいんだけどさ、こればっかりは私たちじゃできないから、ヨウイチとアキちゃんに頼みたいんだ。ジルファ様がおっしゃるには、異世界から持ってきてくれた素材が馴染むらしいから」


 アニメ関連グッズのチェーン店・アニマートで購入したフィギュア。

 神社の社務所で売られていた千円程度の置物。


 あんなものが、まさか精霊・眷属の依代として最適だったとは!


 日本円にして1億円相当のメルを手に入れた今、洋市は今からでもちゃんとした銅像などに買い替えたい気持ちだったが、馴染んだものを乗り換えさせるのもどうかと思った。

 その一方で、新しい依代を購入する以上、中に入る存在の好みは知っておいた方がいいと考え、ジルファと妖精たちに質問する。


『すみません、ジルファさん、妖精の皆さん、アンジェさんがどんな方か、イメージを教えてもらえますか?』


『アンジェは此処に住まう者たちの母だ。お主の目に映る妖精たちを少し大人にしたようなものがあれば、それでよい』


『アンジェ様はピカピカだよ!』


『アンジェ様は羽根が大きいよ!』


『アンジェ様は優しいよ!』


『えー、でもちょっと怖いときもあるよ』


 妖精たちの意見は抽象的・主観的と判断した洋市は、ジルファのイメージをもとに品物を探すことに決め、亜希、ノアに方針を伝える。


「ジルファさんのいうことには、妖精の皆さんの姿を大人にしたようなイメージだそうです」


「ジルファ“様”なんだけど……もうヨウイチだからいいわ。そんな感じでお願いできる?」


「探してみます」


 亜希は洋市から聞いたイメージをもとに、購入先の案を出す。


「アニマートを見て回ってもいいですけど、アンティーク店とかガーデニングのお店も見て回りませんか?」


 洋市は、亜希が想定外の案を出してきたため、理由を確認する。


「ありそうですか?」


「洋風のガーデンオブジェって、結構通販で見かけるんですけど、ガーデニングショップが出品者だったりするんですよ。須田にも何軒かあるから、そっちを見た方が早いかなって」


 洋市は自分にはない感性に刺激を受けつつ、効率を考えれば先に須田の店舗を見た方がよいだろうと考え、亜希の案に乗った。




「では行ってきます」


 洋市と亜希は、命の泉の祠に集まったノアたち四名とジルファ、妖精たちに挨拶をした。


「無理言って悪いな」


 甲冑から顔を出し、すまなそうにセミーンが笑う。


「まだ魔物がゼロになったわけじゃないから、気をつけろよ!」


 右手を腰に当てながら、真顔で注意するガッタ。


「私たちは砦で待ってるわ、こっちは心配しないで」


 あくまでも洋市たちを気遣う姿勢を見せるマンナ。


「お土産よろしくね!」


 一人だけハイテンションで、現代日本のお土産を堂々と頼むノア。


 お土産を催促され、異世界の人間が現代日本の食べ物を食べられるのか不安になる洋市だった。

 しかし、亜希は特段気にせず質問する。


「甘いのがいいですか? しょっぱいのがいいですか?」


「「塩辛いの」」


「「甘いの!」」


 男性陣と女性陣で好みが分かれる。


「「じゃあ両方買ってきます」」


 日本人としての習性から、洋市と亜希はビジネスライクな笑顔を浮かべ、最も無難な答えを返す。


『では頼むぞ、ヨウイチ』


『『『『たのむぞー』』』』


 普段よりも気安く感じるジルファの声と、妖精たちの緩い声が頭に響く。


『行ってきます』


 人外たちにも挨拶を済ませた後、洋市は亜希を背負ってワープポイント“パキラ”へと駆けだした。

次回の更新は、10/7(水) 11時、または21時頃を予定しております。


いつも応援ありがとうございます。

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