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☆第二章本編完結済/120話突破☆【ゴブリンマン】~40代限界フリーランスはゴブリンになっても人間味と仕事が欲しい~  作者: 広瀬
第三章 ゴブリンマン『ビジネス』編

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第百三十三話 ゴブリンと妖精とジルファ

 ガールズバー『Cheers!』での熱狂を終えた洋市と亜希は、洋市の部屋でそれぞれにシャワーを浴びてから熟睡した。

 亜希は洋市のベッドを使い、洋市はキャンプ案件用に購入したインフレーターマットを使ってリビングで寝ている。


 時刻は午前十時。

 先に目を覚ましたのは亜希だった。


「ふわぁ……よく寝たぁ」


 過去に亜空間へ閉じ込められた経験から、亜希は自身の身を守るため、洋市と疑似的に同居をスタートさせた。

 といっても、洋市の部屋の隣が亜希の部屋であることに変わりはなく、いつでも別居することはできるのだが。


『ベッドだけ引っ越しちゃおうかな……同じ部屋に二つシングルベッドがあると、なんかハリウッドツインみたいでオシャレかも♪』


 洋市だけインフレーターマットで寝かせてしまうことに申し訳なさを感じつつ、亜希は妄想を膨らませた。

 トイレに行こうとすると、そこには枕とは逆の方向に頭を向けて寝ている洋市がいた。


『……洋市さん、寝相悪いけど、相当疲れてたのかな……』


 ゴブリンの姿で、ンゴー、ンゴーと、規則的にいびきをかいているのを見て微笑ましく思う亜希。

 その無防備さに、いたずら心が生まれた亜希は、自分の鼻を洋市の額に近づける。


『……汗臭さ、あんまりしないな。加齢臭もしない』


 ファンタジーに詳しくない亜希でも、ゴブリンに清潔なイメージは持ち合わせていない。

 おそらく、毎日シャワーやお風呂を嗜むゴブリンは、古今東西探しても洋市くらいしかいないだろうと亜希は思った。


 亜希がさらに鼻を近づけようとすると、洋市は寝返りを打つ。

 唇が、ゴブリンの長い耳に触れた。


『……っ!! やわらかっ……って違う!』


 緑色の肌は意外にも柔らかく、その感触に亜希は驚き、わずかに身悶え後ずさる。

 耳に違和感を覚えた洋市は、そのまま目を覚まし、周囲を見渡して亜希がいることを確認した。


「おはようございます。起こしてもらってすみません」


 事故が起こったことに気付いていない洋市は、単純に早起きした亜希に身体をゆすられた程度にしか思っていなかった。

 亜希は慌てて赤い顔のまま取り繕う。


「おっ、おはようございます! 今日もベッド借りちゃってごめんなさい……」


「よく眠れたなら何よりです。ベッドの件は気にしないでください。このインフレーターマットは結構気に入ってるんです」


 そう言って、早速マットの空気を抜く洋市。


「あ、あの、ご飯作る前にシャワー浴びてきます!」


「どうぞどうぞ」


 焦りを気取られないよう、亜希は素早く浴室へと向かい、途中で盛大にコケた。

 ドターン、という音が脱衣所から聞こえ、慌てて洋市は走り出す。


「大丈夫ですか!?」


「ごめん、ごめんなさい、大丈夫、大丈夫ですから!」


 脱衣所の引き戸を急いで閉め、フー、フー、と深呼吸をする亜希。

 久しぶりの肌と唇が触れ合う感触に、興奮が収まりきらないまま、亜希はシャワーを全開で浴びた。



 ──────────



 木曜日、死闘の森。


 洋市と亜希は、もはや平和な空間そのものになった森の奥にあるワープスポット“パキラ”を経由して、命の泉の祠にやって来た。

 亜希をおぶって、森の中をスキル【隠形】を使いながら洋市は駆け抜けたが、その必要もないほどに森は平穏だった。


 平和、といっても、普通に動物や魔物と遭遇する可能性はあるのだが、危機を感じた時の皮膚のピリピリ感はまったくない。

 緑は少しずつ赤みを帯びてきており、遅い秋の到来を感じさせる。


 心なしか、人の恰好をした蝶々のような生き物も見える気がする。

 現代日本と比較すれば、ファンタジー世界に近いアルトヤ界であることから、洋市は危機感を覚えない生物であってもなかなかスルーできなかった。


「あ、ヨウイチ妖精見えてるでしょ?」


 いつものように祠で祈りを捧げ終えたノアは、セミーンたちとハンスルへ向かう相談を始めようとした。

 しかし、周囲をキョロキョロと見回している洋市の不審な様子に気づき、思わず声をかけた。


「マジか! すげえなヨウイチさん! 俺は全然見えねえ!」

「ゴブリンって魔物だよな? ってことは、魔物の目には見えてるってことか?」


 異世界人が妖精の姿を目で捉えていることに、素直な驚きを告白するセミーンとガッタ。


「いや普通は見えないのが当たり前だからね? むしろ見えると色々と面倒事も……」


 はしゃぐ二人を窘めるマンナであったが、どうやら少し遅かったようで、洋市の頭の中に機械音のような、それでいて澄んだ可愛らしい声が響く。


『アナタ 私タチガ 見エル?』


『!!』


 洋市が声の主を探し後ろを振り向くと、そこには虹色に光る羽根の塊があった。

 水の精霊アサンの眷属・ジルファと対話したときのように、念を送るイメージでコミュニケーションを試みる。


『……姿は見えています。声は今、頭に響いています』


『ソウ ジャあ、もっと分かりやすいように話す』


 声は急にくっきりとして、少女の声のような輪郭を帯びた。

 洋市は引き続き未知の生物とトークを続ける。


『あなたは、ゴブリンなの? それとも人間?』


『人間です。魔王の呪いでゴブリンの姿になってはいますが』


『そうなんだ。でも、今は“耐えられて”いるんだね』


『耐性のことですか? 確かについていたと思います』


『質問する、あなた、陰蛇(おにへび)を倒した?』


『うーん、倒したというか、取り込んだというか……』


『まずはそれに感謝。次、危険な魔物がいなくなったのは、あなたが何かした?』


『私というか、ジルファ様という……』


『ジルファ!? 会いたい! どこにいるの!?』


『えっ? ああ、ええと……』


 洋市はジルファの所在を知らなかったため、ただちにノアに現在の状況を共有した。


「いやホントさ、ヨウイチどうなっちゃってんの!? 私は妖精がうっすら見える程度だけど、ヨウイチはガッツリ話し込んでたの!? しかもジルファ様と知り合いなの!?」


「はい、彼ら、いや、彼女たち? はどうやらジルファ様に会いたいようなのですが、どうしましょう?」


「うーん、もっかいお祈りしたら来てくれるのかなあ。じゃあさ、ちょっとヨウイチも手伝って」


 洋市とノアは、戸惑う他のメンバーをよそに、命の泉の祠に向き合う。


「……いい? さっき教えた文言をそのまま一緒に唱えてね」


「分かりました」


 事前のおさらいを終えた二人は、太古の祝詞、あるいは呪文のようにも聴こえる言葉を口にした。


「「ムム アサン スコ ジルファ タタリ カナン」」


 唱えた直後、泉がざわめき周囲の空気がプレッシャーを帯びる。


 思わず自分の身体を両手で抱きしめる亜希。

 そのまま泉に目をやると、そこには十階建てのビルほどの、大蛇の陽炎(かげろう)があった。


『先ほどは大儀であった、ノア。久しいな、洋市』


 ノアは、まるで殿様に仕える武士のように、跪いて返事をする。


『はっ! 再々のお呼び出し、大変恐縮にございます』


 洋市も今回はノアにならい、フランクにならないよう、同じく跪いて挨拶をする。


『お久しぶりです。この度は当方の都合でご迷惑をおかけして申し訳ございません』


 直後、洋市の背後から無邪気な喜びを爆発させた歓声が巻き起こった。


『ジルファ! また会えた!』


『うれしい! うれしい!』


『帰ってきた! 帰ってこれたよ!』


『何してたの!? これからずっといるの!?』


 声が聞こえるたび、周囲の空気を支配していたプレッシャーが薄らいでいき、どこか華やかでほのぼのとした空気に変わっていく。


 祠のそばに待機している、洋市とノア以外のメンバーは、急に空気が柔らかくなったことに戸惑う。


『何だろう……花の甘い香りが急に強くなったような気がする……』


 亜希は、周囲にある植物が急に花咲き、芳(かぐわ)しい香りを振りまいているような錯覚を覚える。

 戸惑いをよそに、洋市とノア、ジルファ、妖精たちのコミュニケーションが続く。


『久しいな。力及ばず幾百年の暇(いとま)をもらっておった。戻ってきてくれて嬉しく思う。アンジェはまだ眠っておるか?』


『アンジェ様、寝てる!』


『起こす? どうする?』


『無理に起こさずともよい。森の姿が戻りつつあるとはいえ、未だ座は戻らぬゆえ』


『えー、いいじゃん、そのお家に入れてもらえばいいじゃんか』


『いいじゃんか』


『いいじゃんか』


『ふむ』


 ハンスルで講習を受ける前に、妖精たちとジルファとの間で何やら新しい人物の名前が登場し、何やら新しいイベントが始まろうとしていた。

次回の更新は、10/4(日) 11時、または21時頃を予定しております。


【登場人物紹介】


●ジルファ

水の精霊アサンの眷族として活動する、巨大蛇の一族『陰蛇(おにへび)』の頭領。

魔王戦時代、森を魔王軍の手から守るため動いていたが、力及ばず森を追われる。


その後、一族の中で魔に魅入られたものがいれば間引いていたが、取りこぼした一匹を洋市が取り込んだことにより縁ができる。


爬虫類としての性質からか、敵には容赦ないが、身内には朗らかに接する。

しかし、そのプレッシャーの強さ故に誤解されることも多い。



いつも応援ありがとうございます。

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