閑話② 神々と精霊と魔王の方針
「犠牲者はこれ以上増やすべきではない。すでにテラから遺憾の意が多数届いている」
「では『裁断者』を送りますか?」
「魔王も曲者よ。同じ時間・同じ空間を引き当てて動くのは容易ではない」
「今はあの地球人が鍵だ。アルトヤで力を得られるよう庇護を強めては?」
「諸刃の剣だ。前回の戦闘のように人間味が反転した場合が問題だ」
「すでに耐性はついているはずです。加呪の影響を過度に危険視する必要はないのでは?」
「ヤツの呪いがそれだけならな。何か悪意を仕掛けている可能性は十分にある」
「いずれにせよ、何か方針を立てるべきです。このままでは事態を見守るだけで終わる」
「アサン、『ジルファ』とやらは何と?」
「有望と聞いておりますし、私も加護を与えるにふさわしいと考えます。ただ、過去の清算は必要です」
「母親の件か。現世にはいないのか?」
「今は何とも。テラに確認を取ってもらっています」
「ふむ。何とも因果なことだな。まさか“落とし子”の隔世遺伝とはな」
「あの辛い時代に、よく生き延びたと褒めるべきところでしょう。少なくとも彼と彼女のせいではない」
「……記憶を失っていることが、せめてもの救いではあるな」
「まず方針を固めませんか?」
「そうだな。いかがか」
何者かが場に問うと、空気が静まり、直後に声が揃った。
『浅井洋市、倉橋亜希の保護は継続。引き続き、アルトヤ界とテラ界での生活を最大限庇護する。これを当面の方針とする』
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腐臭漂う神殿。
そこには、この場所の持ち主と、彼の過去の敵の二名以外、誰もいない。
巨大な玉座に座った毛むくじゃらの怪物は、魔王その人である。
「人間ハ 難シイナ ハロウ」
ハロウと呼ばれた、魔王の目の前にあるクリスタル柱に閉じ込められている人間は、今なお安らかな眠りに就いているようだ。
「アルトヤノ 人間ハ 自己保存 スナワチ ソレゾレノ 種族ガ 生キルタメノ 争イノ 果テニ 共存トイウ 選択肢ヲ 選ンダ」
魔王は続ける。
「コレハ 多種多様ナ 存在ガ 自然ノ 脅威ト 向キ合ウノニ 適切ダ」
さらに続ける。
「ダガ 地球ノ 人間ハ 基本的ニ 同族シカ イナイノニ 争イ合ウ」
魔王は、頬杖をついた。
「シカモ 他者ヲ 羨ムコト 羨マセル コトヲ 美徳ト シテイル 節ガアル」
魔王は、かつての自分の認識を口に出す。
「俺ハ 地球ノ 人間ノ 欲ヲ 刺激スレバ ヤガテ 純粋ナ 破壊欲ガ 生マレルト 踏ンデイタ」
その上で、認識を改め始める。
「ダガ 人間ノ 精神ハ 移ロイヤスク サラニ 脆イ」
魔王は、ミナの戦いぶりを思い返す。
「強サハ 十分ダッタ シカシ 魔力ノ 扱イ方ガ 揺ライデイタ」
クリスタル柱に映る魔王の顔は、遠くを見据えるような、呆然としているような顔つきだった。
「アノ女ハ ドウシテ アソコマデ 他者ニ コダワッタ?」
魔王は自問を続ける。
「……誰カニ 認メラレル ト イウコトハ 生キテイク 上デ ソレホド 重要ナ コトナノカ?」
魔王は、今はもういない、ミナという人間の思考をトレースする。
「ダカラコソ アノ女ハ 自分ヲ 不幸ニシタ 他者ヲ 憎ミ ソノ果テニ 『他者』ソノモノニ ナッタ」
魔王は、かつての自分の記憶を手繰り寄せるように、自身の巨大な掌をじっと見つめ、ゆっくりと握りしめてみる。
「結局 アノ女ハ 骨ニ ナッテモ 今ノ自分ヲ 認メサセタカッタ」
自己の存在証明すら捨ててまで、他者の評価を渇望する精神性。
それは、アルトヤ界の人間には見られない、明らかに特異な精神構造であった。
「ヨウイチ ハ ドウダッタカ」
ミナと同じように魔物となった洋市が、明らかにミナとは違う精神性で動いていたことは、魔王も理解できていた。
「ヤツハ 同族ヲ 屠ッタ シカシ ソノ 理由ハ アルトヤノ 人類ト 同ジ スナワチ 仲間ヲ 守ルコト」
しかし、魔王は腑に落ちないようで、玉座の肘掛けを指でコツコツと叩く。
「ダガ 呪イハ 作動シタ……ヤツハ イッタイ ドウイウ 存在ナノカ?」
しばし、言葉を発することなく考え続ける魔王。
やがて、両手を頭の後ろに回して休憩する。
「マア イイ 次回ハ モット 深ク 抉ルダケダ」
魔王は虚空を見据える。
愉悦に満ちた、獰猛な笑みを浮かべながら。
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初回はプロローグとして、9/23(水)20:00~20:10頃に投稿を予定しております。
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