エピローグ②
ハンスルの冒険者ギルド長室。
夜を迎え、温かい色の照明が部屋を優しく照らす中、ハンスルギルド長ルーハン、洋市、亜希、バルカス、ノア、セミーン、ガッタ、マンナは、部屋のソファに座り談話していた。
トゥイは一応、ギルド職員という立場から、ソファから見て少し奥まった場所に立ち、洋市たちをもてなしているという格好だ。
「まずはおめでとさんだァ。本当にやっちまうとはねェ。これでおたくらの未来も明るいよォ」
ルーハンは相変わらずの好々爺のような口ぶりで、パーティー、特に洋市と亜希の偉業をねぎらう。
続いて、ギルド職員のトゥイから今回の成果と、破格とも言える報酬が読み上げられた。
「えーと報告ね。まずAクラスアップが認められたのは四名。ノア、セミーン、ガッタ、マンナだね。次にヨウイチ、アキ両名は預かり昇格になったよ。クラスはB」
「Aクラス!? Bじゃなくてですか!?」
想定以上のクラスアップに驚くノア。
他のメンバーも同様で、目を皿のようにしてトゥイを見る。
「今回は持ち帰った品の希少性から、魔王戦もしくはそれに近いレベルの戦闘だったことが明確に証明されたんだ。だからギルド側の評価も高かったんだよ。もっとも、ルーハン長がしっかり根回ししてくれたのが今回は効いた形だけどね」
トゥイからの説明を受けて、柔和そうな笑顔を見せるルーハンだったが、誰もがその笑いに凄みを感じざるを得なかった。
アサンの水源メンバーが、次第に事の重大さを自覚する中、聞き慣れない言葉に洋市が質問する。
「すみません、その『預かり昇格』というのは……?」
トゥイは洋市の質問を予期していたように頷き、洋市の目を見て解説する。
「預かり昇格というのは、あるパーティーの内部に属している間だけ、Bクラスを名乗れる、って意味なんだ。これは複数のパーティーを一つに束ねるときに使うルールで、例えば戦争や大量発生でパーティーを統合するときに用いられることが多いね」
トゥイの説明を聞いて、洋市は『複数人のフリーランスが一つのプロジェクトに参加して働く』形態をイメージする。
同時に、自分が何クラスだろうが、人間に戻るという目的にかなえば特段問題はないだろうと判断した。
納得した様子の洋市を見て、トゥイはバルカスの方に向き直る。
「次にバルカスさん、こっちは別にギルドからの報告ってわけじゃないけど、内務省から通達出てるから伝えとくよ。ええと、死闘の森の砦『守備隊長』兼『辺境開拓軍第四部隊長』拝命だって」
「け、兼務だと!?」
思わぬ形で発令された人事に、つい上ずった声が出てしまうバルカス。
「おめでとうございまーす。これで月給大幅アップですねー」
「馬鹿野郎!実働部隊を預かってる奴が、他の隊長職を兼務するなんて聞いたことねえよ!大体よぉ、第四部隊ってどういうことだ!?どこに部隊作る気なんだよ軍務省は!?」
「やっぱハンスルじゃないっすかねー。だから軍務省通り越して内務省が通達をギルドに共有するんでしょ?」
「いや先に内示が俺にないのはおかしいだろ!?どこの馬鹿だそんな無茶通したのは!?」
「知りませんけどー、多分ヴォルフ統括じゃないっすかねー」
「……実力主義のつもりかよ、こっちの気も知らねえで……」
王家に近い人間が、わざわざ試験を突破して幹部候補生となり、実力で辺境開拓軍統括にまでのし上がったサクセスストーリー。
ヴォルフは紛れもなくその主役であり、自分にも他者にも実力を求め、それに見合った成果を約束することで知られていた。
華やかな肩書を得たにもかかわらず、暗澹たる未来を想像して眉間の皺が深まるバルカスに、せめてもの情けとトゥイが希望的観測を述べる。
「副隊長か隊長補佐は来ますって。一人で抱え込まなくてもいいじゃないっすか」
「お前、それが別部隊の隊長クラスだったらどうなると思ってんだよ?下手すりゃ寝首かかれるだろ」
「暗部じゃあるまいし、そんな状況じゃないっすよ今は。みんなで魔王と殺り合わないといけないんだから」
「公務の大義は出世だろうが。老兵なんざひとたまりもねえよ。いやいっそそうした方が楽に……」
「なりませんって。どこの馬鹿が魔王に喧嘩売った奴と戦おうとするんですか。あきらめましょう。僕はもうあきらめましたよ色々と」
シビアな話をしている二人を横目に見ながら、ノアはある意味今回の件でもっとも大事な部分を、恐る恐るトゥイに聞こうとする。
「あ……あの……お話中に申し訳ないんですが、ほ、報酬の方はどんな感じに……」
トゥイは目をパッと見開き、頭をかいてノアに謝る。
「ごめんごめん、そこ大事だよね。推算だけど、多分一人当たり“一億メル”かな」
「「「「!!!」」」」
魔石や素材等の報酬を辞退した割には、かなりの高額な報酬が得られるとあって、ノア、セミーン、ガッタは驚きを隠せない。
ただ、洋市は『報酬を辞退するもの』と理解していたことから、念のためトゥイに確認をとる。
「あの……確か報酬は辞退すると一筆したためた記憶が……」
「国からのはね。あくまでも砦に追加予算が組み込まれる、って流れになったから、報酬は名目上『砦から出る』ってことになるのさ。もし国からもらえるなら、一人頭“三倍”にはなってるんじゃない?」
「さ……三億……」
トゥイの推算を聞き、洋市は、まるで宝くじに当たったかのような夢見心地を覚える。
一方、マンナはどこか冷めた目でトゥイを見据える。
「内訳、教えてくれるんですよね?」
「うん、別に隠す話でもないから」
トゥイの説明によると、今回の戦闘でバルカスを含むパーティー全員が得られる報酬は、大きく三種類に区分される。
まずは国からの報酬。
こちらは魔王の刺客討伐にあたっての討伐報酬で、今回パーティーメンバーに支給される報酬はこれに当たる。
「砦には予算として三十億メルが支給されるはずだよ。で、そのうち六億メルをバルカスさん以外で一億ずつ分配する計算になるのかな。僕はギルド経由で特別に給与をもらう形」
バルカスとルーハンに、確認の意味もこめてトゥイが問いかける。
「正確な金額は聞いてねぇが……まあ、昔の稼げてた時代を考えりゃあ、そんなもんじゃねえか?」
「こりゃ増築なんかもするだろうねェ。その際はウチもご贔屓にお願いしますよォ」
「はは……どうも……」
自分の直接の手柄でもない報酬を、どう扱うべきか戸惑いを隠せないバルカスには、愛想笑いが精一杯だった。
続いて魔石や素材等の売却額。
こちらは冒険者ギルドによる買取後、魔法省等へ販売する計画をルーハンが練っていたため、パーティーが得る報酬はゼロである。
ルーハン曰く、
「実際にモノは見たけどねェ、ありゃあ全部国に売ったら言い値でも八十億は下らないねェ。看破の鏡なんか国宝になるんじゃないかねェ。まァ、国家予算が動くほどの事態ってことだろうねェ」
とのことだ。
ある人間の正体を看破る鏡を、国はどのような目的で大金をはたいて買うのだろうかと、洋市は様々な用途について一瞬だけ妄想した。
最後に、クラスアップと要職への拝命。
以上が、魔王の刺客討伐における報酬の内訳であった。
一通り聞き終わった後、セミーンは長く息を吐き、独り言のように思いを吐露する。
「命を賭けた分の報酬としては……少ねぇ気もするが……公務員はゼロってことを考えりゃあ妥当なのかもな」
バルカスは皮肉めいた笑いを見せ、セミーンに言葉を返す。
「そんなもんだよ兵隊なんてのは。だから生活がある程度保障されてんだ。明日の行方も分からん冒険者と違ってな」
セミーンもまた両手を水平に上げ、バルカスの皮肉にニヒルな笑いを浮かべる。
マンナはセミーンの発言に同調しつつ、今回の一番の報酬について笑顔で話す。
「金額だけ見れば納得できないけど、Aクラスになれたことは大きいでしょ。極端な話、私たちが宣伝したポーションは飛ぶように売れるようになるわよ。何ならお茶でもいいかもね。冒険者稼業以外の要素で収入が増えるだろうから、その点は心配ないわ」
マンナの発言から、フォロワー十万人のインフルエンサーが商品を紹介する様子を想像する洋市であった。
一通り報酬の説明が済んだところで、ルーハンはある要請をパーティーに切り出した。
「疲れてるところ悪いんだけどねェ、皆さんには命の泉で行われる表彰セレモニーと、クラスアップセレモニーに参加してもらいますよォ。ま、ギルドとしてはクラスアップセレモニーに参加してくれれば、それだけでいいんですけどねェ」
そう言うと、ルーハンはギルドの内情について、パーティー『アサンの水源』の将来性に触れつつ説明する。
「Aクラス、Bクラス冒険者は言うまでもなくハイクラスだァ。そういう優秀な人材はギルドとしても積極的に世界へ売り出したい。まァ、要するにお偉いさんへの顔見せだよねェ」
世界中で活動を展開している冒険者ギルドは、商人ほど商業活動に注力しているわけではないが、それでも利益の確保が重視されている組織であることに変わりはない。
『冒険者として一級品になるには、単なる腕力だけじゃあやっていけない。ビジネス感覚や人間性といった要素も見極められる場面が多くなる。さァて、ギルドの役に立つ人材に育つかどうか……楽しみだねェ』
魔王の刺客を討伐し、魔王の脅威をいったんは退けた新星の存在をアピールすることで、国や富裕層からの依頼を増やす思惑があることを、ルーハンの双眸が暗に伝えていた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
次話の更新(エピローグ最終話)は、9/18(金)21:00頃を予定しております。
ページ下部からの評価(☆)、ブックマーク、ご感想など、いつも大変励みになっております。
引き続き、ゴブリンマンをよろしくお願いいたします。




