エピローグ①
遅くなりました。
夜勤明けのテンションで書いているため、誤字脱字ご容赦ください。
ご指摘をいただければ後で直します。
死闘の森の泉、通称「命の泉」。
魔王の刺客・ミナとの死闘から一週間が経過した頃、洋市と亜希は現代日本での仕事を切り上げ、再びアルトヤ界へと赴いた。
水の精霊アサンの眷族・ジルファの力により、湖及び森の周辺は静寂を取り戻していた。
もはや凶悪な魔物の気配はみじんも感じられず、祠からはどこか静謐な空気さえ漂う。
その祠周辺には、死闘の森を管轄するレゾルグ王国の文官や軍人、冒険者ギルド幹部など、いわゆる「お偉いさん」方が集まっている。
洋市は彼らの立場について、セレモニーが始まる少し前、ノアから軽く説明を受けていた。
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「ヨウイチ、今回の表彰は私も知らない人ばっかりだけど、基本的に文官長や隊長クラスが集まるから、少しでも会話に不安を感じたら愛想笑いしててね!」
ジルファを含む異形の存在にさえ、どこか軽い口調で話してしまう洋市に対し、ノアは牽制を試みた。
「はっ、はい。できるだけ失礼のないように」
そう答えた洋市ではあったが、異世界で立場のある存在と何を話したらよいのか、まったく見当はついていなかった。
──────────
アウトドアだというのに、どういうわけか一生懸命おめかしした淑女も集まっており、さながら社交パーティーの様相。
案の定、洋市は声を出すことさえはばかられる。
『とりあえず、人間の姿になってはいるが、どうにも違和感がすごいな』
洋市はここ最近、ほとんどの時間をゴブリンの身体で過ごしている。
もちろん、普段の行動基準こそ人間がベースではあるものの、たまに人間離れした行動を亜希やノアに指摘されるため、歩いたり視線を移したりするだけでも緊張が拭えない。
そもそも、自分がコミュニケーションをとっている異世界人の数もわずかであり、アルトヤ界・レゾルグ王国の一般常識は、ないに等しい。
加えて、これまで凶暴な魔物たちがひしめいていた森の中で表彰式というのは、一体どういう判断なのだろうかと、洋市は脳をフル回転させながら慎重に行動せざるを得なかった。
魔物が出たときの対処。
ゴブリンに返信するタイミング。
人間の姿へのスムーズな変身。
たったこれだけのことを考えるだけでも胃がキリキリする。
ただ、幸いだったのは、今回表彰されるメインのメンバーが、バルカスと『アサンの水源』の四名だったことだ。
死闘の森「命の泉」の周囲には、国家関係者やギルド職員など多くの人員が厳かに集結している。
その中央で、バルカス、ノア、セミーン、ガッタ、マンナの表彰セレモニーが始まろうとしていた。
「……では、これより『魔王の刺客』討伐に係る表彰を行う。バルカス、『アサンの水源』ノア、前へ」
「「はっ!!」」
洋市は、若々しさにそぐわぬ荒れた肌の厳しい顔に目をやる。
事前の説明で、彼がレゾルグ王国軍務省辺境開拓軍統括・ヴォルフであることは知っていた。
バルカスによると、王家に近い家柄の若者だが、あえて試験を受けて士官学校に通い、一から幹部になるための勉強に邁進したらしい。
実際に現場にも赴き、受傷も厭わず実績をあげたことで、軍部からの信用を勝ち取ったとのこと。
そのヴォルフを前に、壇上ではバルカスが凛々しい真摯な雰囲気を完璧に醸し出している。
さながら『仕事用の顔』といったところだが、洋市はつい数分前の、面倒臭さそうにしていた彼のしかめっ面を知っている。
来賓席には、バルカス直属の上司である辺境開拓軍第三部隊長・ゴルドーの姿もある。
彼の姿を洋市は見たことがなかったが、厳めしい表情で部下の晴れ舞台を見守っている様子は何となく伝わった。
「死闘の森の砦での守備任務に加えて、魔王復活の予兆を掴み、被害を最小限に食い止めるため自ら率先して戦地に赴き、見事対象を討伐した貴殿の働きに深く感謝するとともに、今後のより一層の活躍を期待して、ここにその功績を表彰する」
「はっ!有難き幸せ!」
端的に返事を済ませた後、バルカスは何らかの内容が記載された書面を受け取り、壇上から降りる。
次はノアの名前が呼ばれ、ノアはヴォルフの前に立つ。
「アサンの水源の頭領として、バルカスを助け、魔王の刺客討伐に貢献した貴殿、および仲間たちの働きに深く感謝するとともに、今後のより一層の活躍を期待して、ここにこの功績を表彰する」
「はっ!今後も精進します!」
似たような文言で表彰文がまとめられていることから、洋市はどの世界でも表彰は簡略化する傾向があるのだと邪推した。
一応は凛々しい顔を保ったノアは、壇上から降りるとすぐに他メンバーが集まる場所に戻り、マンナ、セミーン、ガッタに舌をペロッと見せた。
そして、同じ場にいた洋市、亜希に一声かける。
「前に説明したけど、表彰で他の人は呼ばれないはずだから、これで文官が王様に代わって簡単な挨拶をして終わるはずだよ。そしたらみんなでハンスルで美味しいものでも……」
「次!ヨウイチ、アキ両名、前へ!」
「「「「!!?」」」」
予期せぬ形で名前を呼ばれ、困惑を隠せない洋市と亜希。
バルカスは軍部関係者が集まる席で立ち上がり、ヴォルフの一言に慌てて進言する。
「お待ちくださいヴォルフ統括!彼らはポーターであり、本件において直接戦闘に貢献しているわけでは……」
ヴォルフはバルカスの方を向き、首を横に振って言う。
「そうはいっても、死闘に関わったことに変わりあるまい。勇気ある者を称えるのは武人の礼儀。国からではない。私個人が表彰するつもりだ。気構えるな」
「は……はっ」
唐突なアドリブに心臓が飛び出そうになるバルカス。
しかし、それはノアも同じであった。
『いや何でこっちの根回しぶち壊すの!せっかくヨウイチに報酬辞退の書面まで書いてもらったのに!』
今回の表彰にあたっては、以前、ハンスル冒険者ギルド長ルーハンと取り決めた通り、基本的に自分たちの討伐報酬を辞退している。
バルカスに全ての報酬を押し付ける形で、無理やり冒険者クラスの大幅アップを目指すためだった。
本来、ポーターはパーティーとは別に報酬が計算されるため、辞退するかどうかは本人次第である。
しかし、洋市と亜希もサポートメンバーとして参加したことを理由に、パーティー『アサンの水源』の意向に同意し、報酬を辞退するという体をとったのだった。
変な汗が背中を伝っているのを感じながら、ノアは目をぎらりとさせて洋市に忠告する。
「ヨウイチ!分かってると思うけど、とにかく変なこと言わないでよ!絶対だよ!」
「はっ、はい……とにかく感謝だけを述べるようにします」
洋市もまた、唐突な事態に困惑しながらも、問題を起こさないよう気を引き締める。
「アキちゃん、お願いね。この人たまにおかしいからさ」
もはや危険人物扱いされることに抗議したい洋市だったが、彼をよそに亜希は何度も頷く。
「はい、私は何も言わずお辞儀だけします!洋市さんはお礼の一言だけ言えばいいですから!」
さっそく洋市に指示を飛ばす亜希。
洋市は自分の信用のなさを呪いつつも、亜希と一緒に壇上に上がる。
「ヨウイチ、アキ。異国の者であるにもかかわらず、バルカス、およびアサンの水源をポーターとして助け、魔王の刺客討伐に貢献した両名の働きに深く感謝するとともに、今後は冒険者としてより一層の活躍を期待して、その功績を表彰する」
ヴォルフは表彰状を手渡す代わりに、洋市たちに握手を求めてきた。
これに応じないのは失礼だろうと、洋市はさりげなく亜希を一瞥し、亜希が目で頷いたのを確認してからヴォルフの差し出した右手を握る。
「ポーターにしては柔らかい手をしているのだな」
ヴォルフは小声で洋市につぶやく。
『……見抜かれたか!?』
洋市は、とっさの一言に次の句が出ず、はにかむように笑顔を見せるしかなかった。
しかし、ヴォルフはその態度に、このポーターはレゾルグ王国の言葉をあまり理解できないのだと判断した。
その上で、隣りにいた亜希にも握手を求め、亜希はそれに応えた。
「死地に夫とともに乗り込むとは何たる勇気か。これからも夫婦仲良く過ごされよ」
夫婦。
ヴォルフがかけた何気ない、しかし決定的な間違いの一言を、亜希はアプリの翻訳機能を経由して聞いた。
亜希の顔がみるみるうちに赤くなっていく。
『亜希さん?』
『?』
洋市は亜希の様子を不思議がったが、同様にヴォルフも不思議がった。
二名の少し心配そうな視線を感じて、亜希は顔の熱が引かないまま作り笑いをするしかなかった。
表彰が終わると、場に集まった人々はどこから持ってきたのか大きな絨毯を敷き、その上にテーブル、椅子を用意する。
火魔法で温められたと思われる、お湯の入ったポットがテーブルに置かれ、コップやお皿も並べられていく。
やがて、クッキーのようなお茶菓子や、サンドイッチのような食べ物なども登場し、どうやらティータイムが始まるようだ。
すわ食事と思ったのも束の間、再び壇上に誰かが上がり、何やら挨拶を始めたようだ。
お偉いさんの“ありがたい話”が延々と続いている中、亜希が暇そうに欠伸を噛み殺した後、洋市にこっそり耳打ちする。
「これからどうなるんですかね、私たち」
洋市は表情を変えず、登壇者の方を向きながら答える。
「ああ、あの件ですか……」
二人の脳裏には、表彰前にハンスルの冒険者ギルドで交わした会話がよみがえっていた。
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