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☆第二章本編完結済/120話突破☆【ゴブリンマン】~40代限界フリーランスはゴブリンになっても人間味と仕事が欲しい~  作者: 広瀬
第二章 ゴブリンマン活躍編

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第百二十九話 「これから」のこと

 水の精霊アサンの眷属、ジルファの思念が唐突にノア、洋市の頭に響く。

 命の泉への祠建立、その後の祈祷や会話を経て、ノアが畏れを抱き続けている存在でもあった。


『こ……これは畏れ多くもジルファ様直々の激励、誠に有難く……』


 ノアがたどたどしく畏敬の念を伝える一方で、スキル【人間離れ】を保有している洋市は、正直に安堵の気持ちを吐露する。


『もうお会いできないかと思いました』


『こっ……こら、ヨウイチ! 話し方には注意しろとあれほど……』


『気にするでない。むしろ、魔王戦でありながら力貸せず無念は我の方よ。結界でも張っていたのかどうにも窟に入れんでな。済まぬ』


 かえって率直、気さくなジルファのトーンに、ノアもしぶしぶ言い回しを崩す。


『そ、それでは……ええと、ジルファ様は今までどちらに?』


『うむ。森周辺の魔物が騒がしくならぬよう、細工をな。あとは窟から抜け出そうとする輩を抑えておった』


『あ、ありがとうございます! それで魔物の数が少なかったのですか?』


『抜け出そうとしたものは概ね我が屠ったが、弱き者は冒険者たちに斃(たお)されたであろうよ。心配無用ぞ』


 ジルファの陰の働きに感謝し、深々と頭を下げるノア。


 その様子を見た洋市以外のパーティーの面々は、何事かがあったものと理解し、周辺を再度警戒する。

 空気を読んだ洋市はパーティーに事情を説明する。


「今ノアさんとお話をしているのはジルファ様です。ですから、心配はありません」


 バルカスは思わず「おお」と感嘆の声を漏らした。


 ジルファは砦の治安と収益構造の改善を実現した存在であるが、バルカス自身はなかなかその存在を間近に感じる機会は少なく、そのような態度になるのも致し方ないところであった。


 簡単に状況を説明したところで、洋市がジルファに現況の確認を行う。


『早速、質問をさせていただきたいのですが、私は水魔法を使えるようになったようです。これは珍しいことなのですか?』


 力強く『うむ』と肯定の頷きが返ってきた。


『其方は我から力を得たことにより、水魔法の適性を得た。あとは時間の問題で、お主がどこまで魔法を操る経験を積んだかによって開花の時期が変わる。折々で毒魔法を使う中で、魔力を練り、発する訓練ができ、結果として水魔法が使えるようになったということだ』


 ジルファの言うことを、洋市は『レベルアップの成果として水魔法を使えるようになった』ものと理解した。


 一方で、釈然としない表情でジルファに質問したのはノアだ。


『畏れながらジルファ様。ゴブリン種が水魔法の適性を得たとして、それはどのように作用するのでしょうか? 私の理解ですと、ゴブリン種本来の適性には……』


 ジルファはノアの意図を看破する。


『然り。然りながら、此の者は本来人間であるからして、加護を与えるに障り無し。呪いの耐性を得た今、何の障りもない』


 そうか、とノアは納得したように二度頷く。


 魔王の呪いは、確かに人間を魔物に変える恐ろしいものだが、一方でベースは人間種である。

 したがって、人間種として精霊から祝福、もしくは加護を受けていれば、詠唱を介して水魔法が使えるのは当然。


 ノアは、呪いの効果と適性は分けて考えるべき問題なのだと、改めて世界の真理の一つに触れた思いだった。


 洋市とノア、それぞれに事象の理解の解像度は違えど、水魔法について納得したところでジルファが切り出す。


『さて、皆の者、大儀であった。これよりこのダンジョンは、本来の姿を取り戻すために我が手をかける。此処からいったん外に出るがよい』


 ノアは、ジルファの指示をパーティー全員に伝え、マンナはアイテム「迷宮抜けの札」を用意する。

 メンバー八名が円陣を組み、札の効果を発動させる直前、洋市とノアはそれぞれジルファに改めて礼を述べる。


「「ありがとうございます」」


『うむ、また祠にて沙汰を伝える。しばし待て。以上だ』


 ジルファの神聖な、かつ強力な気配が消えた後、一行は札を発動させてダンジョン出入り口までワープした。




 元『バンパイアワイバーンの巣穴』。

 現名称『新ダンジョン』入口。


 大きい巣穴は未だ健在だが、周囲には魔物の気配はなく、岩肌の合間には苔がむしている。


 周囲の木々、草々は青を濃くし、風を爽やかにろ過していく。

 一行は、これまでの死闘が嘘のように、五体満足で生還したことを喜び合った。


「すげえぞこりゃ! 俺たちだけで魔王の刺客に張り合ったんだ!」


「全員で協力しなきゃ……いやしてても……運が悪けりゃやられてたからな……もうあんな死闘はごめんだ」


 所在不明の魔王の行方はさておき、ガッタはパーティーが歴史に残る偉業を達成したと思って興奮していたが、セミーンは命がけの戦いで心身をすり減らした疲れを淡々と述べるにとどまった。


「……なんだか夢見心地だねー、終わってみれば大団円だけど、結局肝心なことは全然分からないまんまだしなー」


「ノア、生真面目に考えないの。今はとにかく身体を休めて、報酬のことでも考えてればいいのよ」


 真相を突き詰めていきたいノアと、冒険者らしく“目先の利益”に意識を向けようとするマンナ。


「……結局、俺たちは大した貢献はできてなかったな……」


「現役じゃないっすからねー、仕方ないんじゃないですか?」


 若い新星たちが着実に存在感を示す一方、全盛期を過ぎ十分な活躍ができなかったことを受け入れるバルカス、トゥイ。


 アルトヤ界で暮らすメンバーは、死線を越えた先にあるカタルシスを存分に味わっていた。




 洋市と亜希もまた、若干の達成感と疲れを覚えていた。

 しかし、根が真面目な二人は、それぞれのアイデンティティを一瞬でも揺らした戦いの後、今後の方針を考えずにいられるほど呑気ではなかった。


 まずは亜希が口火を切る。


「……洋市さん、これから……どうしますか?」


 洋市は、亜希に何らかの回答をするためには、個別具体的にこ(・)れ(・)か(・)ら(・)の(・)予(・)定(・)を設定する必要があると考えた。


「少し整理しましょう。今回も……というべきでしょうが、色々なことがあって現状への理解が追いついていません」


 そう言った後、洋市は現時点での課題感を整理して伝える。


「まず、魔王との直接対決は、現実的ではありません。私は魔王とアクセスするための場所に心当たりはありますが、現時点での実力でまともに戦える相手ではないことは分かりました」


 洋市自身は、魔王に姿を変えられるきっかけとなった秘境駅『小野田』に行けば、おそらく魔王との再開を果たせるであろうと踏んでいた。


 しかし、ミナが赤い骸骨へと変身した状況こそリアルタイムで確認していないものの、彼女は人間状態でも十分に強く、皮膚のヒリヒリは止まらなかった。


 だからこそ、自分が魔王の刺客の首を刎ねたことへの現実感は一切湧いていない。

 そんなフワフワした心持で、魔王と対峙など到底できないと洋市は考えていた。


「したがって、私たちがこれまでの日常を取り戻すためには、戦うための力をつける必要があります」


 亜希は、自分たちが力をつける方法について、自身の見解を述べた。


「ええと……つまり、アルトヤ界で戦い続ける、ってことですか?」


「それ以外にも、冒険者ギルドで行われているという冒険者向けの講座を受講したり、可能であればこの世界の書籍に触れて魔法に関する知識を増やしたり、できることは思いつく範囲でたくさんありそうです」


 洋市としては、現代日本中心の生活だけでは、埒が開かないと考えていた。加えて、収入の面でも異世界は魅力的だと亜希に語る。


「あとは、こういっちゃ何ですが、アルトヤ界での仕事は収入に直結します。お金を湯水のように引き出せるわけではありませんが、日本で活動するよりも高収入が見込めます」


「高収入……」


 亜希もまた、アルトヤ界での魔石売却などが、これまで自分がつかんだこと、見たことがない高収入につながると直感していた。


 一方で、これまでお世話になった職場を離れるのも、義理を欠くように思えて嫌だった。


 とはいえ、アルトヤ界での仕事は、洋市の存在があってこそ成立する仕事。

 だからこそ、自身の都合でやる・やらないを勝手に決めるわけにはいかない。


 複雑なジレンマの中で、亜希は自身の我儘を通すべきか、それとも洋市の都合を優先すべきかで揺れていた。

 そのような心を知ってか知らずか、洋市は亜希に自身の考えを伝える。


「亜希さんは引き続き、Cheers! で働き続けてください。私もそれに合わせます」


「……えっ? でも、それだと洋市さんの都合が……」


 洋市は、もはや自身にとって不可欠なビジネスパートナーとなった亜希に対して、自らの打算をオブラートにくるまず述べる。


「私たちは日本人ですから、現代日本とのつながりをゼロにすべきではありません。それに、せっかくアルトヤ界で大金を稼ぐんですから、稼いだお金は世界を問わず、一緒にいて楽しい人と、楽しいことに使うべきだと思いませんか?」


 海外旅行のCMでタレントが話すようなことを、いけしゃあしゃあと口に出すゴブリン姿の洋市に、亜希は思わず吹き出した。


「ふっ……ふふ……洋市さん、意外とOLみたいなこと言うんですね」


 彼女のOLに対するイメージの偏りが気になる洋市だったが、あえてツッコまずに続ける。


「そうですか? 私はこれでも享楽的な方なんですよ。毎月決まったタイミングでお給料がもらえる仕事は、私にはマッチしませんでしたし。だから亜希さんが少し羨ましいし、亜希さんの人間関係を壊すような真似はしたくない」


 亜希は目を大きくさせた後、ブンブンと横に首を振る。


「全然! そんなことないです! 私は必要に迫られて選んだだけで……。私はどちらかというと、洋市さんみたいに一人で仕事を済ませられる環境の方が羨ましい……かも」


 洋市と亜希。


 本来であれば、繋がりあう可能性がほぼなかった二人は、いつの間にか互いに対する興味・関心を強烈に深め合っていた。


 見つめ合うゴブリンとガールズバー嬢。

 何かが始まりそうな予感に、亜希の瞳と唇が震える。


 しかし、洋市は腰を45度曲げ、亜希に最敬礼する。


「亜希さん、今後ともよろしくお願いいたします」


 亜希はあくまでも紳士的な洋市に戸惑いつつ、まだ先は長いから、と自分を納得させた。


「はい! こちらこそ、よろしくお願いします!」


 二人は笑い合った後、すでに帰り支度を始めているパーティーメンバーのもとへと向かった。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!

本話をもって「第二章」の本編は完結となります。

あとは、一話~三話ほどのエピローグ・閑話を執筆する予定です。


9月より本業(夜勤)の都合で不定期連載となっておりますが、第三章も構想を練って執筆を続けてまいります。


「第二章完結お疲れ様!」「第三章も楽しみにしている!」と思っていただけましたら、ぜひページ下部の【★★★★★】評価やブックマーク登録をいただけますと、今後の執筆の大きな励みになります!

何卒、応援よろしくお願いいたします!

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