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☆第二章本編完結済/120話突破☆【ゴブリンマン】~40代限界フリーランスはゴブリンになっても人間味と仕事が欲しい~  作者: 広瀬
第二章 ゴブリンマン活躍編

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第百二十七話 引き戻される

 白昼夢。


 とうとう洋市は、盆踊りの会場で泣き出していた。

 赤や黄色の提灯がぼんやりと周囲を照らす。


 笑顔で踊る人々は盆踊りのメロディに乗り、周辺の屋台では楽しそうに笑い合う家族連れの姿がある。

 誰もが誰かと繋がりあって、夏の風物詩をめいっぱい楽しんでいる。


 しかし、洋市はひとり。

 手を引いていた母は、どこにもいない。


「フランクフルト……」


 近くにあるはずなのに、なぜか遠くに見える屋台の旗。

 こんがりと焼けた肉と、ケチャップ・マスタードの香り。


 洋市は鼻腔をくすぐられるが、どうしてもあそこに届かない。


 食べたい。


 お腹が空いた。


 お母さん。


 どこにいるの?


 孤独。


 虚無感。


 悲しみ。


 そして怒り。


 様々な感情が混濁する中、後ろから聞き慣れた、安心感のある声がかかる。




「洋市さん!」




 亜希だった。


 ずっと探していたのは、お母さんではなかった?

 亜希だったのか?


 洋市はふと疑問に思いながら、なぜか鎧を着込んで重装備の亜希の姿を見る。


「……亜希さん、随分思い切ったコスプレしてますね」


 亜希は半ば呆れたような顔をして、洋市の手を引く。


「何言ってるんですか!? ほら、フランクフルト食べますよ!」


 洋市は亜希に連れられ、遠く感じられたはずの屋台へと向かう。

 お店の前に立つと、ねじり鉢巻きをしたおじさんが、ジュージューと美味しそうな音を立てて鉄板でフランクフルトを焼いている。


「一本でいいですか?」


 亜希に購入本数を聞かれ、洋市は自分で買おうとポケットをまさぐるが、どうやら財布がないことに気付く。


「……すみません。お願いします」


 亜希は満面の笑顔でおじさんに言う。


「二本ください! 一本はケチャップとマスタード、もう一本は黒コショウで!」


 黒コショウ味は、おそらく亜希の好みだろうと洋市は思った。


 こんがりと焼き上がった艶のあるソーセージの上に、まずケチャップがかかり、次いでその上にマスタードがかけられる。

 甘さと爽やかな酸味、そしてわずかに鼻をつく辛味がたまらない。


「どうぞ、洋市さん!」


 亜希は洋市に微笑みながら、ケチャップマスタード味のフランクフルトを手渡す。

 ほぼ同時に、亜希は黒コショウ味のフランクフルトを頬張った。


 洋市は自分の串を受け取り、すぐさまかじりつく。


 パリッとした皮と、どこかしっとりした中の肉の触感。


 ソーセージ自体、塩味が効いていて、そこをケチャップの甘酸っぱさが追いかける。


 そのまま甘味が膨らむかと思いきや、マスタードがピリリと主張し、味を締める。


 また一口、また一口と食べたくなる、その繰り返し。



 それは、おそらく何十年も前に諦めてしまった、だがずっと心の奥底で求めていた、洋市の思い出の味。


 気が付けば、洋市の右手には木の丸い串だけが残っていた。




 頭がクリアになる。




 少しずつ。




 俺は今……異世界にいる!!




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 目の前の風景が変わる。

 祭りの風景は絵の具を溶かしたように歪んでいき、次第に別の色を成した。


 ソファやローテーブルが並ぶ、一角に調理スペースがある空間。

 洋市がようやく記憶を取り戻すと、やはり自分の右手には串だけがある。


「……俺は、どうしたんだ?」


 ふと顔を見上げると、そこには涙目で自分を見つめる亜希の姿があった。




「……亜希さん、どうしました?」




 洋市の声を聞いた瞬間、亜希は感情の箍(たが)が外れ、呆然とする洋市に抱きついた。


「よかった!!……洋市さん……元に戻って……よかった……うっ……うう……」


 自分の恩人であり、パートナーでもある洋市が理性を取り戻したことで、亜希は安堵した。

 同時に、今まで理性で堰き止めていたものが一気にこみ上げたのだった。


 洋市はナチュラルに亜希の背中に手を回し、肩甲骨の間を叩いて亜希を落ち着かせようとしている。

 一方で、頭はどこかぼんやりとしていて、まだ難しいことを考えられない。




 そうだ。

 異世界で俺はパーティーを組んで、敵と戦っていたはずだ。


 それから、俺はミナを、この手で殺した。

 マチェットで首を刈ったんだ。


 目の前が赤くなって、それから祭りの風景が見えて……。


 あれは……幻だったのだろうか。


 俺は……誰に連れられていたんだろうか。


 誰を……追いかけていたんだろうか。




 ふと周りを見渡す。


 ガッタ、セミーン、マンナ、ノア、バルカス、トゥイの姿を順に捉える。

 彼らはもれなくフランクフルトを真剣な表情で食べている。


『これは……どういうことだ……?』


 フランクフルトが異世界にあるのか? と疑問に思う洋市。


 自分の身に起きているあまりにもシュールな状況に、洋市は思考を停止せざるを得なかった。


 > 状態変化【魔王の呪い】

 > アイテム「フランクフルト」による精神安定・自己認識強化作用

 > [人間味] 50 → 70 へ上昇

 > イレギュラー【魔王の呪い】に対する耐性獲得

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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これからも『ゴブリンマン』をよろしくお願いいたします。

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