第百二十五話 決着
パーティーがミナと死闘を繰り広げる中。
闇の柱と自らが生み出した結界により、その身を守っていた亜希は、洋市の不憫さに涙を流していた。同時に、どうすれば今の洋市を救えるのか、何か手立てはないのかも考えていた。
『単純に考えれば、洋市さんにフランクフルトを食べさせればいいんだろうけど……』
もし、ダンジョン内にあるCheers!の元となったスペースがそのまま使えるとしたら、冷凍庫に串付きフランクフルトの袋がストックされているかもしれない。
亜希はキャストとして働く中、調理スペースで一品料理のフランクフルトを作った経験から、およそ戦闘とは場違いな想像を膨らませる。
『……まずは、ここから出ないと……って!?』
唐突に、無数に飛び交う赤い光線の一筋が、亜希を囲んでいた闇の柱を削り取るように貫いた。
柱を構成していた闇が音もなく霧散し、光線は亜希の張った半透明の結界に直撃して反射される。
「け、結界!!」
条件反射のようにアプリをリロード・タップし、何とか結界を再発動させた亜希。瞬時に再び赤い光線が飛んできて、たまらず亜希は走って逃げようとする!
「わぁっ!!……あれ?」
周囲に降り注ぐ致命的な光線の雨を横目に、亜希は違和感に気付く。
「結界……私と一緒に動いてる?」
ここで亜希は、自らが発動させた結界が、自らの位置を中心として移動する仕様になっていることに気付く。
『これなら、身を守りながら洋市さんのところまで行けるかも!』
フランクフルトの調理は後で行うとして、今はまず、洋市と合流するのが先決と亜希は判断する。
飛び散る闇の煙に紛れ、誰にも気付かれないまま辺りを見渡すと、ひときわ大きなシャボン玉のようなオブジェがあり、洋市がその中に閉じ込められているのが見えた。
『洋市さん!!』
誰かに閉じ込められたのか、あるいは自らの身を守るためにそうなったのか、亜希には分からない。
しかし、あれを何とかしなければならないことは、亜希でも正しく理解できた。
亜希は無我夢中で洋市のもとへ走る。
赤い光線を放つ骸骨の恐怖すらも意識から締め出し、ただ一点、洋市の姿だけを見据えていた。
赤い光線は天井に弾かれ続け、その度に結界は少しずつ透明度を増していく。
それでも、洋市のそばへ行きたいと願い、ソフトテニスで鍛えた脚を懸命に動かす。
数秒後、命からがら亜希は洋市のもとへ辿り着いた。
結界が洋市の入ったシャボン玉を覆ったところで、亜希は再度結界を発動し、半透明の結界は初期状態に戻った。
シャボン玉越しに声がする。
「オナカ……スイタヨウ……」
洋市の悲しそうな声。
魔王の力によって幼児退行してしまったのか、それとも心の声が漏れ出ているのか、亜希には想像がつかない。
だが、洋市を助けられるのは自分しかいないと直感する。
『フランクフルトが何なのか分かるのは、この空間で私だけ。そしてきっと、事態解決の切り札を持ってるのも、私だけだ!』
亜希は理解していた。
自分がマジックバッグに収納した一本の笛。
世迷いの笛。
笛を吹いた場合の効果はランダムだが、もし敵に効果があった場合、大幅に能力を弱体化できる可能性がある。
作戦会議で聞いた内容を反芻し、亜希は小学生のころ、学校で練習して一番上手く吹けた曲を演奏する。
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ソソソラシラ シシドレ
(うさぎおいし かのやま)
ドレミシドシ ララファ#ソ
(こぶなつりし かのかわ)
ラソラレ ソラシシ ドシド ミレドシ
(ゆめは いまも めぐりて)
レレレソラシ ドドラソ
(わすれがたき ふるさと)
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「フ……ル……サ……ト……」
洋市が亜希の演奏に反応する。
しかし、亜希は気付かず、引き続き場の変化を期待して演奏を続ける。
──────────
ソソソラシラ シシドレ
(いかにいます ちちはは)
ドレミシドシ ララファ#ソ
(つつがなしや ともがき)
ラソラレ ソラシシ ドシド ミレドシ
(あめに かぜに つけても)
レレレソラシ ドドラソ
(おもいいずる ふるさと)
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「ガアァァァッ!!」
赤い骸骨は亜希の奏でる曲に反応し、光線を放つのを止めた。
頭蓋骨の耳辺りを押さえ、曲を聞くまいと抵抗しているが、骨伝導により音が届くのか骸骨全体が震えているようだ。
次第に、骸骨は虹色に点滅し、その場に跪いた。
ガッタ、マンナ、ノアは呪いの影響により動けない。
トゥイも魔力量が限界を迎え、次の一手を打てずにいる。
バルカスもまた、満身創痍で剣を杖にして立つのが精一杯。
パーティーメンバーの中で、呪いの影響が一番少なかったセミーンは、周囲を見て今何をすべきかただちに判断した。
マジックバッグから魔石を出し、聖杖に魔力を充填する。
骸骨は危機を感じ、身体の異変に抗い立ち上がろうとする。
魔力による盾を張ろうとしているのか、両手を広げた状態になる。
亜希の演奏は続く。
澄んだ音色は、広いホールでリバーブがかかったように響く。
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ソソソラシラ シシドレ
(こころざしを はたして)
ドレミシドシ ララファ#ソ
(いつのひにか かえらん)
ラソラレ ソラシシ ドシド ミレドシ
(やまは あおき ふるさと)
レレレソラシ ドドラソ
(みずは きよき ふるさと)
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セミーンの魔力充填が完了する。
聖杖の先から白い光がほとばしり、その光は徐々に太くなり骸骨の身体を照らす。
骸骨は抵抗するも、まるで光と同化するようにその姿を失っていく。
「ア……タ……シ…………ハ……」
その声は、誰にも聞こえない。
セミーンが照射を終了したとき、かつてミナと呼ばれた存在がいた空間には、一握りの塵すら残っていなかった。
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