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☆第二章本編完結済/120話突破☆【ゴブリンマン】~40代限界フリーランスはゴブリンになっても人間味と仕事が欲しい~  作者: 広瀬
第二章 ゴブリンマン活躍編

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第百二十二話 フランクフルト

 ミナの首を刎ねた後、洋市は血しぶきを浴びた。


 目の前が真っ赤に染まり、自分が何をしたのか一瞬分からなくなったが、徐々に『この手で人を殺した』という実感が湧く。

 それとともに、今この瞬間の戦いへの意識は削がれていく。


「⋯⋯俺は、何をした?」


 周りから見れば、魔王の刺客というとんでもない敵を倒した存在。

 しかし、洋市は『自分がこの手で人を殺したこと』につき、どこか現実味がなかった。




 ふと、周囲を見渡すと、懐かしい風景が目の前に広がっている。


 盆踊りだ。


 広場には赤や黄色の提灯が並び、櫓からは元気のいい太鼓の音が響いている。

 皆がにこやかに踊り始める中、自分は輪の中に入らず、ただ周囲の動きを眺めるだけ。


「ヨウイチ、フランクフルト食べに行こ」


 洋市は母に連れられて、テントに書かれた『フランクフルト』の文字を目指し、出店へと向かった──。





 洋市がミナの首を刈り呆然としている中、ノアは倒れているバルカスのもとへすぐさま駆け寄り、無詠唱で生み出した精霊水をバルカスの傷口に注ぎ込む。


「バルカスさん!! しっかり!!」


 本来なら水魔法での回復は難しいほどの致命傷だが、精霊水による浄化と自助作用によって、バルカスは一命を取り留める。


「……さすがにダメかと思った……ってて」


 ミナが完全に息絶えたことで、日本またはアルトヤ界のアンデッドたちは、その身体をまったく維持できず、次々と土塊のようになっていった。


「やった……のか?」


 ガッタが周囲を見渡し、敵意が周囲にないことを確認する。


 基本的には違和感はない。しかし、仲間の一人に異常が見受けられたのを、パートナーである亜希は見逃さなかった。


「洋市……さん……?」


 亜希の震える声。

 その眼(まなこ)が見つめる先には、かつての凶悪そうでいて、実は温和なゴブリンはいなかった。


 ゴブリン特有の緑色の肌は、急激に漆黒へと染まっていく。

 顔はどこか呆けていて、その目はどこか遠くを見つめている。

 口角は上がり、よだれを垂らしている。


「フランク……フルト、食べたい……」


 死闘を終えたばかりの状況には似つかわしくない台詞が聞こえ、その場にいた全員が洋市の方を振り返る。

 誰もが異様な洋市の状況を危惧する中、天井から強烈なプレッシャー!!


「ハハハハハハハ!!!」


 亜希は背筋が一気に吊り上げられるような恐怖を覚える。

 魔王。

 かつて翔と対峙したとき、その絶望的なまでの力をあらわにした存在。


 ノアは声だけで直感する。


「……魔王だ……ホントにいたんだ……」


 歴史上の大罪人が、未だ生き続けている状況に、ノアは身体の震えを抑えることができない。

 他のメンバーも、各々が声の所在を疑いつつも、そのプレッシャーに逆らえずにいた。


「サクセン ハ セイコウ ダッタ」


 魔王が饒舌に話し始め、亜希は恐々としながらも、その真意を問いただそうとする。


「……洋市さんに、何をしたんですか!?」


「アイツノ 罪悪感ヲ ス(・)イ(・)ッ(・)チ(・)ニ シタ」


「……は?」


「俺ガ 作ッタ 呪イハ 三種類」


 ノアが反応する。


「知ってる! ヨウイチは人間がモンスターに変わる呪い……」


「術理ハ ソレダケジャナイ」

「え……?」


 ノアは知識として魔王の呪いは知っていたが、詳細な術理までは学んでいなかった。その驚きから、とぼけるような声が出てしまう。


「人間ガ 魔物ニ 変ワル 信号ハ 三ツ」


「……?」


「体内ノ 魔物ニ 命ヲ 奪ワレル コト」


 パーティーの面々は、もはや魔王の語りを止めることができない。


「俺ニ 忠誠ヲ 誓ウコト」


 ……まさか!


 ノアは受験勉強時代の資料集、片隅に書かれていた雑記の内容を思い出そうとする。




「同族ヲ 自ラノ手デ 屠ルコト」




 ただちに亜希が反応する。


「でも! 翔のときは……」


「アイツハ 完全ナ 魔物ニ ナッテイタ ダガ アノ女ニハ アエテ人(・)間(・)ノママ 力ヲ 授ケタ」


「「「「「!!!」」」」」


 一同は、魔王の呪術の柔軟性に驚きを隠せない。


 人間でありながら、あれほどの闇魔法の適性をただちに備えさせる。そのような術理はありえない、と、トゥイは魔王の言うことが理解できなかった。


「……あんた、適当なこと言ってない? 魔王さん」


「スコシ 考エレバ 分カル アノ女ハ ソモソモ 人格ガ シッカリシテイタ ダロウ?」


 言われてみれば、仮面をかぶって全員を攻撃していたときでさえ、どこか人間味が残っていたように亜希は感じた。魔王は満足げに、何者かに声をかける。


「モウ イイゾ」


「はーい」


「「「「「!!!」」」」」


 そこには、透明なシルエットになったミナがいた。

 肉体の死後、魔王の力により、レイスとなって復活させられていたのだった。


「……ったく、メチャクチャ痛かったわ!途中で失神したから良かったけど、次はもうちょっと楽な方法を……」


「ウルサイ ヤツダ スコシハ 俺ノ 言ウコト ヲ チャント 聞ケ」


「あぁん!?」


「今 ココデ 昇天 サセテモ イインダゾ」


「……はい」


 ミナは魔王の威光に逆らえない様子で、しぶしぶ肯定の意思を示す。

 魔王は再び愉悦感にひたるように語る。


「レイス ハ 魔物ダ シカシ 肉体ヲ 手ニ入レタ 時ハ 肉体ノ 属性ガ 優先スル」


 トゥイは、自らが得た知識によって、魔王の理論を否定しようとする。


「レイスが身体を得て、その身体の意思や自由まで奪えるなんて話、聞いたことないけどね。 あんた嘘ついてない?」


 唐突に、天井からのプレッシャーが激しくなり、思わずトゥイは膝をついた。


「がぁっ……!!」


「ヒ(・)ヨ(・)ッ(・)コ(・) 黙ッテロ 裏切者ノ 分際デ 生意気ダ」


 吸血種は、かつての魔王戦で人類側に寝返った過去がある。

 魔王は未だ、その頃の憎しみを心に刻んでいるようだったが、そこに執着する気はないようで、その場にいた全員を洋市に注目させる一言を放つ。


「サテ 時間ダ ミナ 帰ルゾ」


「はーい」


 バルカスは慌てふためく様子で、消えていくプレッシャーとミナに問いかけた。


「ま、待て!! ヨウイチは、ヨウイチはどうなる!?」


「サアナ 自分デ 考エロ」


 立っているのも辛いほどのプレッシャーはなくなり、ミナのシルエットもどこかに消えてしまった。




 パーティーのそばには、漆黒の姿となった洋市がいる。

 誰もが近づこうとするが、戦闘態勢を解くことはできない。


 なぜなら、洋市の目は金色に輝き、その口からはよだれが止まっていない。


「フランク……フルト……食べたい……」


 セミーンは、洋市が謎の言葉を発しているのを聞いて、思わず質問する。


「フランクフルトって何だ? ヨウイチ。何か保存食でも……」


 瞬間、セミーンの視線から洋市の姿は消えた。


「あぐっ……!! ヨウイチ!」


 黒いゴブリンとなった洋市は、セミーンに体当たりして牙を向いた。


「クソが!!」


 バルカスは何とかして洋市を止めようとし、後ろから全力で羽交い絞めにする。


「フランクフルト! フランクフルト!!」


 我を忘れたように叫び続ける洋市を抑え続けるが、十数秒でバルカスは振り払われる。


「ヨウイチさん!!」


 マンナはマジックバッグから『眠りの粉』を取り出し、破いた袋ごと洋市にぶつける。一瞬、反応が鈍くなったが、眠るまでには至らない。


「オカアサン! フランクフルト! ナンデタベラレナイノ!? ソコニイッパイアルヨ!?」


「ちょ、ヨウイチ、落ち着いて!! 【土壁の家(ウォールハウス)】!!」


 洋市が何らかの混乱状態にあると判断したノアは、土魔法によって洋市を一時的に閉じ込めようとするが、強力な力で破壊してしまった。


「フランクフルト! タベタイヨ!! フランクフルトォ!!!」


 欲しいものが食べられない怒りをぶちまける子供のように、洋市は叫び出す。

 その身体から強烈な風圧が生まれ、パーティーメンバーは部屋の端に吹き飛ばされた!!


「ぐわっ!」

「くっ!」

「うわっ!」

「うおっ!」

「きゃっ!」

「わぁっ!」


 ただ一人、結界の中で守られていた亜希だけが、おそらくフランクフルトを食べたくて泣いている洋市を、切なそうに、見ていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

ページ下部からの評価(☆)、ブックマーク、ご感想など、いつも大変励みになっております。

これからも『ゴブリンマン』をよろしくお願いいたします。

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