第百十七話 満身創痍とレアアイテム
洋市がミナとの交渉後、幾ばくかのパーティー内衝突を経験していた頃。
一階でエルダーリッチと戦闘中のバルカスとトゥイは、わずか数分で満身創痍となっていた。
「……ハァ、ハァ、ハァ……読み違えた……のか?」
バスタードソードを杖代わりにして息を切らしながら、バルカスはトゥイ、あるいは自分に対して問いを投げかけた。
「……いないよ、こんなモンスターは普通、ダンジョンには……」
トゥイは自慢の黒いローブがボロボロになり、その白い肌が一部露出している。
エルダーリッチが杖を構え、天に向かって何かを祈るようなそぶりを見せる。
『『来る!!』』
二人は杖に纏われた光属性の光線を避けるため、それぞれ別方向へと逃げる。幸いなことに、この光線は一方向にしか飛ばないため、バルカス、トゥイのいずれかにしか当たらない。
しかし、方向はランダムであり、闇属性の二人にとっては深刻なダメージになる。
今回はトゥイの方向に光が飛び、トゥイは相性の悪さを自覚しながらも、闇魔法で作ったトランポリンのような円形の盾で軌道を逸らそうとする。
『ぐうぅぅっ……!!』
何とか致命傷は避けられるが、その代わりに防御だけで魔力をごっそり持って行かれる。闇魔法は四属性、その他の種類の魔法に対しては優位を保ちやすい反面、光魔法との相性はてきめんに悪い。
二人は、魔王のダンジョンに潜る時点で『光属性の敵が出る』想定をしていなかった。過去の歴史上、闇属性の敵に光属性の武器を装備させるという滅茶苦茶な事態は記録にない。
「……ったく、闇属性のモンスターが光魔法、おまけに物理がまったく通らねえときてる。闇波動も闇魔法も通らねえ……」
バルカスのボヤキに、トゥイは希望的観測をつぶやいて返す。
「……屋上はおそらくハズレだよ。だから一階にみんな戻ってくると思う」
「その割には遅ぇな。奴さんと出くわしたか」
「そうかもね、ッ!!」
再び光が二人を襲う。
魔力回復のためポーションをあおり、トゥイは再度、飛んできた光線の軌道を逸らす。
「クソッたれ……ッ!!」
軌道を無理やり逸らした後、真っ黒なトランポリンは弾け飛び、魔力をごっそり持っていかれる。
このような不毛な時間を続け、二人は事態打開を目指し、パーティーメンバーとの合流を期待していた。
そこに、期待の足音が届いてくる。
「一階だ!!」
先陣を切るガッタの声が聞こえる。
ほんの少し遅れて洋市と亜希、マンナ、ノア、最後尾からセミーンが降りてくる。
「良かった! まだ生きてる!!」
思わず安堵の声を吐露するノア。
「勝手に殺すんじゃねぇよ!!」
内心の安堵を隠すように大声を出すバルカス。
「ノアっち、こいつは光属性の魔法を使う! 気を付けて!!」
「物理も効かねえ!!」
トゥイとバルカスは詳細な説明を省き、端的にモンスターの特徴を伝える。
ボロボロのローブ。
目に怪しい光を湛えた頭蓋骨。
霞のように揺らぐ身体。
一階に到着したアサンの水源メンバーは、正しく目の前の敵がエルダーリッチであることを認識した。
加えてノアは『ドロップアイテムとして死ぬほど欲しい』レアアイテムを敵が握っていることに気付く。
「聖杖だ!! それも破邪消滅モデル!!」
かつて神官を目指していたノアは、エルダーリッチが装備することなど決してかなわないはずの、激レア武器の登場に目が輝く。
セミーンがノアに冷静さを保つよう檄を飛ばす。
「殺ってから拝め!! 陣形!!」
ガッタ、マンナ、セミーンは、いつも通りノアを囲むように陣形を組み直し、エルダーリッチに向き合う。動きを察知したバルカス、トゥイの二人は、その陣形の後ろに素早く移動した。
洋市もフリーランスとして空気を読み、次の一手を亜希に伝える。
「亜希さん! バルカスさんたちを囲むようにして結界を! 私は隠形で姿を隠しながら動きます!」
「はい!」
さっそく結界を作り、バルカス・トゥイを守ろうとする矢先。
エルダーリッチの光線が二人に飛んでくる!!
亜希はさながらコンサートチケットを取得する勢いのタップスピードで、即座に無属性の結界を展開する。光魔法による光線は、結界の鏡面に当たって反射し、学校の天井に真っすぐな穴を開けた。
「おらァ!!」
ガッタはミスリルメイスに火属性の魔力を込め、疑似的な光魔法に変換した殴打部をエルダーリッチにぶつける。
致命傷になることを理解したエルダーリッチは後方に跳び退くが、そこにノアの火魔法が降り注ぐ。
「炎柱!!」
無詠唱で発生した炎の柱がエルダーリッチに直撃し、たまらず横へと逃げて体勢を整えようとする。
そして、自分の身体から呪詛のような文字を浮かび上がらせる。
「即死魔法!!」
「「了解!!」」
ノアの声を受けて、マンナは呪い除けの札を素早く数枚出してセミーンに預ける。
セミーンはそのまま呪詛へと突進し、そのすべてを身に受ける!!
『セミーンさん!!』
隠形で姿を隠していた洋市は、セミーンの捨て身の特攻に驚きを隠せない。
しかし、その意図はすぐに分かった。
何らかの方法で強化されている鎧兜と、呪い除けの札による効果で、呪詛はまるで文字を模したクッキーが割れるかのように粉々になっていく。
セミーンの勢いは止まらず、そのままエルダーリッチに体当たりした!
「アアアァァァ!!!」
呪い除けの札の効果なのか、目に見えてダメージを受けた様子のエルダーリッチ。
しかし、ただでは済まさないと、自分が持つ聖杖を光り輝かせる。
『!!』
『危ない!!』
至近距離で光魔法の光線を食らえば、いくら呪い除けの札と強化鎧があっても、大ダメージは避けられない。セミーンがダメージを覚悟する中、スキル【隠形】で姿を隠していた洋市は、とっさにあるアイデアを試した。
『頼む! スキル【盗取】!!』
成功率は決して高くないスキルを、洋市はとっさにエルダーリッチに対して試みた。
すると、まったく洋市の存在が悟られていなかったせいか、杖は洋市の手の中にあった。
途端、自分の身体が一気に重くなるのを感じる。
スキル【隠形】の効果も失われ、聖杖を持った自分の姿があらわになる。
『な……なんだ……』
まったく自分の思い通りにならない身体。
その様子を結界から見ていたバルカスが、大声で指示を出す。
「その杖を捨てろ!!」
言われるがまま、洋市は“杖”という武器からノアを連想し、ノアの方に杖を投げる。
力が抜けて全力では投げられず床に転がるが、一瞬で意図を組んだマンナが杖を拾い、素早くノアに渡す。
「よっしゃあ!!」
ハイテンションのノアが杖に魔力を込める。
たちまち、エルダーリッチとは比べ物にならないほどの光の魔力が、杖の先端に煌々とみなぎる。
『一番持たせてはいけない奴に杖を持たせてしまった』と、目を点滅させて明らかにうろたえるエルダーリッチに、ノアが放った一条の光線が飛ぶ!!
「ア………」
頭蓋骨が光線に貫かれた後、エルダーリッチは塵になって消えていった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
ページ下部からの評価(☆)、ブックマーク、ご感想など、いつも大変励みになっております。
これからも『ゴブリンマン』をよろしくお願いいたします。




