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【ゴブリンマン】~40代フリーランスが異世界でゴブリンになったら、人助けポイント稼がないと人間に戻れなくなった件~  作者: 広瀬


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第十一話

ワープポイント“パキラ”へ移動した洋市の判断は、人間基準では軽率だった。

自分自身もあまりよく分かっていない異世界への移動を、何の説明もなく隣人に対して行ったからだ。


ゴブリンの身体を得たことで、人間味がやや薄らいだ洋市は、その分判断も短絡的になりつつあった。

とはいえ、そんな洋市にも『身を隠す』という一応の根拠はあったわけだが、亜希にとっては刺激どころか恐怖を感じるような環境への一方的な移動だったことに変わりはない。


樹海の中、そして凶悪なモンスターもいる森の中に、洋市と亜希はたたずんでいた。

亜希は事態をまったく吞み込めず、言葉を発することもできない。


「これから安全地帯に向かいます。移動しながら、現状について説明をします。とりあえず、私の背中にしがみついてください」


そういうと、洋市はスキル【隠密】の発動を意識して、亜希をおぶりながらスポット“命の泉”へと走り出した!


「えっ、いや、ちょっと、速い!あの、浅井さん!これは!どういう!きゃあああ!!」


ゴブリンの足は意外と速い。

そもそもの筋力が人間よりも強く、一歩で移動できる距離も長い。

洋市自身はそのことを自覚していないが、自転車で坂を下る程度にはスピードが補正されている。


加えて、目まぐるしく変わった状況に亜希は適応できておらず、それが心理的に速度を加速させていた。

繰り返すが、洋市にその自覚はないので、半ば一方的に、息継ぎをしながら亜希に話しかける。


「ここはどうやら“アルトヤ界”という世界のようで、私もまだ、よく分かって、いませんが、取材先で、事件に巻き込まれて、ゴブリンの、身体になって、しまいました!」


「えっ!?」


「それで、何とかして、身体を治そうと思ってるんですが、情報がない!だから、しばらく、この世界に、とどまるつもりだった、んですが、そこで倉橋さんが、面倒に、巻き込まれて、いると、聞いて、それならこっちに、避難した方が、いいと、思いまして!」


「ひっ、避難!?どこへ?」


「水が飲める、湖が、あります!近くには、人が、住んでいる可能性が、あるので、そちらに少し、滞在して、明後日に、なったら、日本に戻る、という感じで」


「いや、そういうことじゃなくて、うわっ、わあああ!!」


洋市は走行中、木の根や大きな石などを意識する限り避けながら走っている。

そのため、たまに体制が崩れることもあり、それが亜希に少なからずストレスを与えていた。


木の枝を伝って移動した時と違い、洋市は隠密スキルの効果もあり、周囲の魔物に気付かれることなく最短距離で泉まで突っ走った。

概ね二十数分といった体感時間で、洋市と亜希は泉に辿り着き、洋市は周囲に敵がいないことを確認した上で、亜希を藪に降ろして身を隠した。


「おそらく、私と一緒にいる限り、周囲の魔物に倉橋さんが気付かれる可能性は低いと思います。何か私には特殊能力があるようで、周辺の環境に意識を向けて身を隠していると、存在感を消せるようなんです」


「……はあ……はあ……そう……なんですね……。何だか、全然、頭が、追いついてなくて、とにかく、ここは、日本ではないんですね」


一般的な若年女性なら、混乱して早く帰りたいなどと叫んでしまうかもしれないが、亜希はその点冷静だった。

もともと、良心的な化け物(洋市)の存在を目に留めており、かつ自分の命を救われた経験が、多少は理解を早める結果につながったのかもしれなかった。


しかし、緑色の怪物と一緒に姿を隠しながら時間が過ぎていくうち、次第に現状に不安がよぎる。

体感で夜更けを迎えていると感じた亜希は、たまらず洋市に今後について確認した。


「あの、浅井さんはいつまでここに隠れて……」


「洋市で構いません。まずは夜明けまで待とうと思います。私だけなら夜遅くに動いた方が効率が良いのですが、昼の方が視界も開けますし、仮に人が住んでいる村、街に行くとしても夜だと警戒されるでしょう。」


「私、も亜希で…いいです。どうして、そんなに冷静でいられるんですか?このまま帰れなくなる可能性もありますよね?私は、ボディガードはお願いしましたけど、こんな怖いところにずっといるのは嫌です」


「当然です。私も仕事をしたいので日本には帰りたい。しかし、この身体のままではいずれ世間をにぎわせてしまいます。きっと、私に助けられた亜希さんも巻き込まれるでしょう」


亜希は、洋市が自分の身を案じつつ、この得体のしれない世界に移動したことをおぼろげながら理解した。

単純に、自分の都合だけで行動を起こしたわけではないと知り安堵するも、完全に不安は拭えなかったため、もう一つ自分本位な質問を重ねた。


「……もし、ボディガードはいいです、と私が断ったら、日本に帰してくれますか?」


洋市は、亜希のか細い声から不安を察知したが、今すぐ日本に帰ることが最適解かどうかは分からなかった。


「それはできます。私の身体のことを伝えても構いません。もっとも、それはSNSで燃料になる未来しか見えませんからやめた方がいいと思いますが……。ただ、そもそも須田にいること自体が不安なんじゃないですか?」


「ええ……まあ……それはそうなんですけど」


「幸い、私の体感だと、この世界と日本は同じ時間軸だと思われます。日本が夜ならこっちも夜です。だから、この世界で一泊二日してから日本に戻ってみて、状況を確認してからでも遅くないと思います」


SNSが引き続き炎上しているなら、お店をしばらく休んで避難してもよいだろうし、その間に自分の身体のことについて詳しく調べられる。

洋市としても、考えなしにアルトヤ界に亜希を誘ったわけではない。


洋市は続けた。


「幸い、人間の姿を維持する方法は少しずつ分かってきています。推測ですが“人助け”あるいは良いことをすると、人間の身体を維持できる時間が長くなるようなんです。ですから、ボディガードを務めさせていただくことには問題ありません。」


「そんなことも分かるんですか?」


「今は私も手探りというか、色々やりながら気付くしかないんですが、おそらくは」


洋市にも自分を助けるメリットがある。

そのことを知った亜希は、ようやく、少し安心した。


二人の心理的距離が少し近づいた、その時。

隠れている茂みの奥、遠目で見える湖の近くで、数匹の魔物が獲物を探しているのを洋市は見つけた。

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