第百六話 パーティーの一員
教会を破壊し、小さき者たちを膨張して潰そうとした魔力は、突如大爆発という形で雲散した。
とてつもない爆音と地鳴りの後、土埃のその先には、新たな結界に守られた洋市たちがいた。
──時を少し遡る。
結界が消えゆこうとしている中、亜希は半狂乱で画面のボタンをタップし続けているが、一向に反応がない。
『どうして……どうして……どうして!?』
いよいよ結界が弾け飛ぼうとする中、洋市は亜希のスマホを奪い取り、画面上の「更新」ボタンをタップする。
フリーランスとして仕事をしてきた経験から、ブラウザのフリーズ時に行うリロード(更新)が、画面情報を変化させる鍵になるものと当たりをつけたのだった。
更新後、果たして緑色のボタンは復活した!
「亜希さん、押して!」
洋市はスマホを亜希に返し、亜希は返事する間もなく緑色のボタンをタップする。
結界が再発動し、洋市が魔力を消費し気怠さを感じた瞬間、周囲の魔力は轟音とともに形を失った。
──そして今。
洋市たちは全員が無事であることを確認しつつ、新たにできた結界の中から周囲を警戒する。
『……助かった……のか……俺たちは……』
セミーンは、自分たちの身体が大爆発で弾け飛ぶことなく、五体満足であることに安堵した。
「……あっぶねー、アキちゃんの結界がなかったらヤバかったかもな」
ガッタは歯に衣着せぬ感想を言う。
『結界のタイミングがギリギリだったわね……もう少し遅かったら、迷宮抜けの札を発動させるところだった』
マンナは最悪を想定していた分、全滅はないだろうと踏んでいたものの、それでも肝を冷やしていた。
アサンの水源メンバー三名が、次第に現実を把握する中、ノア、バルカス、トゥイは、今回の現象について検討を始める。
「魔力の膨張は、やはり刺客によるものでしょうか?」
「それしか考えられねえ、奴さん、どこで覚えたのか知らんが、人類の魔力操作の規模は超えてる」
「だよね、でなければ、ダンジョン自体が意思を持っているとしか考えられない所業だよこれは」
洋市は、ノアたちの会話に加わり、事態を少しでも理解しようとする。
「魔王の刺客というのは、それほどのことができるのですか?」
トゥイが、自分の知る範囲の知識であることを断った上で、今回の事象を解説する。
「魔力っていうのは、基本的に精霊や神にお願いをして、何らかの現象を起こすんだ。お願いが詠唱、現象が魔法って僕たちは呼んでるわけなんだけど、魔力そのものが意思を持ったり現象を起こしたりするのは一般的じゃない」
ノアが補足する。
「無属性魔法っていう例外はあるけど、あれだって詠唱で魔法を発動させているし、妖精とか“人類以外”の力を借りているものだから、魔力に直接意思を持たせて干渉できるのは、基本的に“神”レベルの所業なのよ」
ここで洋市が疑問を抱く。
「ええと……私は毒魔法が使えるのですが……詠唱とかそういうのはやったことがなく……」
バルカスが毒魔法の特殊性を説く。
「毒魔法はスキルに近いから、ちょっと管轄が違うんだよ。んまあ、今はそこらへんの解説は後だ。戦いが終わったらたっぷり養成所で教えてもらえ」
何だか煙に巻かれたような気になった洋市だが、バルカスの言い分はもっともであったため、いったん自分の好奇心は脇に置いた。
軽い検討が終了した後、ノアは亜希の方を向いて笑顔を見せた。
「それにしてもすごいわねアキちゃん! あんな強力な結界見たことないし、しかも重ね掛けできるなんて知らなかったわ!」
亜希は自分の機転を褒められて嬉しく思いつつも、結局は洋市の魔力頼りということもあって、どこか素直に喜べずにいた。
「ありがとうございます……でも、この力は洋市さんが……」
「“二人の力”ですよ」
洋市は、亜希の心情を慮った上で、亜希に一番必要な言葉を選んだ。
「私だけでは結界は発動できませんでしたし、あの場で“結界”という最適解を選んだのも亜希さんです。亜希さんは日々成長しています。自信を持ってください」
亜希は、一番身近にいる緑色の生き物からかけられた優しい言葉に、不意を突かれ涙腺が緩んだ。
「そう、アキちゃんはパーティーの一員として、しっかり仕事をしたの! 自信持っていいの!」
ノアやセミーンよりも少しだけ長く亜希と一緒にいたマンナも、亜希の心情を読み取るように激励する。
堪えきれなかった涙が亜希の頬を伝う。
亜希の目には、自分の方を向いて笑顔を見せる、パーティーメンバーの姿があった。
それを見て、ようやく亜希は涙を拭いて笑顔を返した。
束の間のコミュニケーションを終えた後、パーティーは教会があった場所を探索する。
すると、ちょうど教会が背にしていた崖に、周囲の色とは若干違う岩があることに気付く。
マンナは何らかの細工が施されていることに気付き、周辺の地面や木々、草地を調べていく。
すると、墓の跡地のような石畳が隠れているのを見つけた。
『ここを……こうして……』
マンナが石畳の色が違うタイルを押し込んでいくと、崖にある色違いの岩がゴゴゴ、と音を立てて地面に沈み込んでいく。
そこには洞穴があり、どうやら奥へと続いているようだ。
「多分、あの洞穴の先に階段があるわ。刺客が新しいダンジョンボスになったのかどうかは知らないけど、おそらく最深層にいるのは間違いないわね」
マンナの見解を踏まえ、トゥイが刺客の現状について予測を立てる。
「ダンジョンモンスター同士による争いで生態系が狂ったと仮定した場合、もう刺客はモンスター扱いした方がいいのかもね」
これを聞いた洋市、亜希は動揺を隠せない。
『もう彼女がモンスターになっていたとしたら……結局……翔のときのように……』
『ミナちゃん……もう……話せないのかな……』
可能であれば、同じ世界にいる同胞に手をかけたくはない。
しかし、運命がそれを許してくれそうにないことに、少し心を痛める二人だった。
──────────
ダンジョン最深層。
亜希たちが怪我もなく生存している様子や、亜希が結界を発動した場面を、部屋にある大きな鏡から覗き込んでいたミナ。
爪を噛みながら苛立つものの、もう魔王への悪態をつくことはない。
『これもアンタの思惑通りなんでしょ? 魔王サマ』
今回の作戦、つまりは魔力の圧縮・膨張や教会での演出に関しては、基本的にミナはノータッチ。
魔王はあくまでも『実験』と称し、新しくできたダンジョンで色々なことを試しながら、ミナの前に一行が現れるときには大きく消耗するような仕掛けを複数用意しているという。
『アタシが手を下していいなら、さっさとアキだけ呼んで殺っちゃうのにね』
しかし、ここまで強気でいられるのも、結局は魔王の助力あってこそ。
ミナは仕方ないか、と独り言ち、次の階層での“トラップ発動”の準備を進めつつ、口角を上げてミナにとどめを刺す瞬間を妄想するのだった。
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