第九十九話 闇をまとった男たち
女子たちが話に花を咲かせていた頃──。
ハンスルにあるアサンの水源御用達の防具屋では、ガッタ、セミーン、バルカス、トゥイの男性陣が再アタックの準備を進めていた。
現役の冒険者であるガッタとセミーンはともかく、バルカスとトゥイは久々の大一番となるため、丸腰で戦うわけにはいかなかった。
砦の守備隊長であるバルカスは、防具らしい防具を準備していなかったため、レンタル品を見繕っていた。
しかし、一般的な冒険者同様、その表情はやはり渋い 。
「これなら強度は十分だぞ、バルカスさん」
セミーンは重戦士として、淡々と質の良いレンタル品を勧めるが、その汚れや臭いが気になり、バルカスはやっぱり勇気が出ない。
『コイツ、本当に根性は据わってるな……確かに戦闘中は臭いなんか気にしてらんねえけどよ、ふとした瞬間に心を折るんだよなあ』
いっそのこと新調するか?
少し気が大きくなるバルカスだったが、そこに防具屋の店主がやってくる。
「もしよかったら、新しいレンタル品をご覧になりますか?」
バルカスが問い返す。
「レンタル品の新品だぁ?そいつぁどういう……まさか呪われてんのか?」
違いますよ、と店主は顔の前で手を縦にして振り、その素性を説明する。
「ハンスルや砦でバンパイアワイバーンが出たでしょう?その素材と黒鉄を使って、とあるパーティーが鎧をこしらえたんです。でも、実際に装備してみたらしっくりこないって話で、それでウチが新品同然で買い取ったんですよ」
ふーん、と鼻を鳴らし、バルカスは鎧を見に行く。
店の裏に案内してもらうと、バルカスの前には、黒地に赤の艶やかな鎧があった。
『……こいつぁ……』
ベースは錆びにくい頑丈な黒鉄。
胸部や太ももなど、一撃で致命傷に至るおそれのあるポイントには、赤黒いバンパイアワイバーンの鱗革が用いられている。
鱗の表面をなぞると、感触はどこかひんやりとしていて、それでいて魔力の波動を感じる。
おそらく闇属性。
「原因はこれか」
バルカスは、闇属性に馴染まない人間種の冒険者がこの鎧をこしらえ、扱いきれずに売ったのだと理解した。
静かにバルカスの後ろを歩いていたトゥイが提案する。
「中和します?」
バルカスはトゥイの意外な特技に驚く。
「お前、付与できんのか?」
「できないっすよ、ただ闇属性なら、多少僕が魔力をもらって効果を中和しようと思っただけ」
バルカスは一瞬顔を明るくしたが、すぐにうーん、としかめっ面で唸る。
「……魔王の刺客ってことは、十中八九闇属性だよな?」
トゥイが肯定する。
「そうっすね」
バルカスは少し逡巡し、静かに頷いた。
「今回はこれでいくわ」
トゥイは少し目を細めて忠告する。
「人間種は属性的に中立で、やや光寄りだから使いにくいんじゃないっすかね」
バルカスは片方の口角を上げ、心配無用といった風に自身の根拠を伝える。
「俺は多分、闇側に引っ張られてるから大丈夫だ」
トゥイはハッと息を呑むと、昔を思い出すように遠い目をした。
そして少しの沈黙の後、気まずそうにぽつりと謝った。
「…………そうだったんだ、ごめんなさい、僕のせいかな」
どこか自嘲気味に笑うバルカス。
「今更いい、昔の話だ。すべては俺の力不足が招いたことだ」
暗部で活動していたトゥイと、汚れ仕事を任された過去のあるバルカス。
後ろ暗い何かを共有していた二人だったが、トゥイは今になって知らなかった事実を知らされ、少しの罪悪感を抱いた。
一方、ガッタとセミーンは愛用の防具の手入れを行っていた。
商品が並んでいるコーナーとは別の場所で、彼らは自分自身の防具を並べ、魔法防御を強化するための特殊な液体を黙々と塗っている。
特に、分厚い鎧兜で全身を覆うセミーンは、万一に備えて丁寧に液体を塗り込んでいく。
『できる限り防具を強化しておけば、ある程度のヘイトや攻撃は俺が集められる。もっとも、奴さんが俺たちを敵視してくれたら、だがな』
セミーンは魔王の刺客らしき女と遭遇した際、まったく自分たちが戦力としてカウントされていないことを痛感していた。
同時に、洋市の攻撃はしっかり当たっていたことを不思議に思っていた。
『単純に女が油断していた可能性はある。だが、多分それだけじゃねえ』
セミーンは、ゴブリンという魔物による攻撃だったことが、一つのヒントになると考えている。
『ゴブリンの属性については知らねえが、魔物ってことはあの女と近いものを持ってる。そこで属性的に通じ合ってるなら、あとは純粋な力比べだけで勝敗が決まる。だから刃物での攻撃が通ったのか……』
人間種は中立+光属性。
獣人種は火・風属性優位。
そしてシーマンは水属性優位。
『どの基礎属性も、状況を覆すほどのレベルじゃねえな……攻撃の要はヨウイチか……』
異世界転移者の力を借りなければならないこと、自分たちの力量不足が予想されることに、セミーンは心苦しさを感じていた。
しかし、相棒のガッタは少し違ったようだ。
ガッタはセミーンよりも早く防具への塗り作業を終え、セミーンに一声かける。
「作業終わったから、防具が乾くまで武器見てくるわ」
おう、と軽く返事をして、セミーンは闘気を発散しているガッタを見送った。
『あの野郎……次は絶対一本入れてやる!!』
自分の剣が通用しなかったことを、ガッタは腕のせいにせず武器のせいにした。
そして、その判断はおそらく正しかった。
『ノアが言ってた。武器には属性があって、敵によって通りやすい、通りにくいがある。だったらよ、アイツに通りやすい武器に変えればいいだけじゃねえか!闇属性に通りやすいのは光属性、俺は使えないから火力を強めて光に変えてやればいい!』
理論上、魔力を通しやすいミスリルの武器を使えば、火属性の魔力で疑似的に光を産むのは可能。
ガッタは新しい武器を使い、自分を戦力外扱いした魔王の刺客に一泡吹かせてやろうと意気込んだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
ページ下部からの評価(☆)、ブックマーク、ご感想など、いつも大変励みになっております。
これからも『ゴブリンマン』をよろしくお願いいたします。




