倫理観はあるか?ないか?
畑の依頼が終わって、一旦セメリさんとシキギさんが過ごしている家に着く
蜜巳さんと品子さんに合流するためだ
「お疲れ様勇者様、せっかくだし風呂にでも入るか?」
「いえ、俺たちは宿の風呂に入るつもりですから」
「お父さん、風呂はさすがにやりすぎだろ」
「ええ?そうか?」
そう会話をしながら、セメリさん達自宅入り口の扉を開くと
何か歌が聞こえて来た
セメリさんの父親はまだ外で後片付けなどの作業をするらしい
「あーるーぷーすーいちまんしゃーく」
「うん…………覚えるのうまいね」
「上手上手!」
「うん、できて嬉しい!」
アルプス一万尺を教えていたみたい
シキギさんは頑張って覚えたらしく、ゆっくりと蜜巳さんとやっていた
何とも微笑ましい光景でしばらく眺めてたいところではあるが、時間が時間なのでお開きにしないと
「ただいまー」
「おかえりー!」
「おかえり………なさい」
「おかえりなさい」
そう言った後に、俺の顔を見た品子さんは…………
「え?!千斗!?どうしたのその顔!?」
「え?なんかおかしい?」
「なんか、元気が無いよ!なんかあったの!?」
「えっと……」
「千斗さん…………大丈夫ですか?
あと………シキギさんと遊んでいる時に…………千斗さんの大きな声が聞えた………気がしましたが……」
俺の顔を見て一瞬で察しされてしまった
それに、俺の絶叫が蜜巳さんに聞こえてしまったらしい
どうしよう、さっき聞いたセメリさんとシキギさんに何があったのかを今ここで言うべきか……いや
「えっと、何があったかは宿に戻ってから話す
あと、畑作業中に俺が絶叫した声が聞こえたと思うけど、あれは俺のせいです
驚かせてすいません」
そう言いながら腰を90度に曲げて礼をした
「えっと…………それも後で話すのと……………関係ある事なの?」
「ああ、そうだ」
「じゃあ、宿に戻ったら聞くことにするね!」
「……それでお願いします」
正直に言うなら、話したくない
大事な事だから話さなきゃいけないけど、聞く方も覚悟は必要だったし話す方も結構覚悟が必要になる
たとえるなら、医者がご家族に「覚悟の必要な事」を言わなきゃいけないような気持ち、そんな感じなんだろうか?
「にしても、どうやらセメリと千斗
仲良くなったみたいでよかった!」
「ああ、仲が悪かったという訳ではなく
勘違いが解けたって感じだ」
「………あー」
なんだかばつが悪そうな顔をしていたセメリさんが一歩前に出た
「さっきは言えなかったけど、石を投げてご……」
「ストップ!それはね、必要ないから言わなくても……」
「ごめんなさい!」
「あっ」
食い入るように謝罪キャンセルをしようとしていたけど、更に食い入るように謝られてしまった
俺もおなじことをされたから、こっちも申し訳ない気持ちになるのはちょっと分かる
「うーん、そんなに謝りたかったならしょうがないね」
「そういえば、タスメさんは?」
「大人たちと…………今回の依頼料について相談をしているよ…………………」
ってなると少しばかり時間がかかりそうだな、それだったら
「なあ、品子さん、蜜巳さん」
「ん?」
「どうした………の?」
「宿で話すことに関することだけど、ちょっと一旦離れた所ででセメリさんとシキギさんと会話してもいいかな?」
「え?」「え?」
「急にどうしたソラアミセント?」
「勇者さん?ここじゃダメなんですか?」
「……出来れば、一旦離れたい」
「私はいいよ!後で聞けるって言うなら!」
「私も…………後でしっかりと聞かせていただきます」
「俺は別にかわまねえけど、シキギは?」
「…………いいよ?おはなし、しよ?」
「本当にありがとうございます」
そういって、ちょっと女子2人に聞こえない所がないか聞いて
2階の1つの寝室へと案内された
部屋に入ってみると、2人がよく遊んでいると思われるオモチャが置いてあって
そしてベットが2つ並べられている、セメリさんとシキギさんのベットであるのが一目瞭然に見える
1つの家に2つの家庭……そんな即席な形で作っていたイメージがあったけど
一年ほど経過しているからか、結構住み心地はいいのかもしれない
「んで、何の話だ?」
シキギさんとセメリさんはそれぞれのベットに座って話しかけてきた
俺は座って目線を合わせておく
「えっと、まずだけど
辛いことを聞いてもいいか?」
「かわまねえ」
「う……うん」
「1年前、去年の事だけど
俺達じゃない前の勇者の話をしてもいいか?」
「…………」
セメリさんは無言でシキギさんの顔を伺うように見ていた
シキギさんは……
「……いいよ」
何とか肯定を聞けた
「その……セメリさんからあの前勇者どもに殺されたと聞いたけど
シキギさんはトラウマとかを今でも抱えていたりとかは……」
「トラウマ?
それって怖い思いをして
思い出したりとかして震えて動けなくなること?」
「ああ、その通りなんだけど……」
「そこまでは、大丈夫
すっごく悲しかったけど…………でもセメリも私も大人になったら死んじゃうことが多いと思うし
…………でも、あれは本当に怖かった」
本当に「死んだこと」に関してのショックはこの世界の死生観的にトラウマを抱えているわけではないらしい
この世界が生き返れるならセメリさんにもシキギさんも「大丈夫」と考えているのかもしれない
「……あのさ、ソラアミセント」
「どうしたんですか??」
「……正直、ヒューラルの外
なんならグラーフィアそのものがどうゆう状況か全くわからねえんだけど
お前たちじゃない前の勇者どもってまだこの世界にいるのか?」
「分からない、王様とかから何も聞かされてないから
俺は、全員魔王城に行って全滅した……って思っている
そうだとしたら持って行ったはずのアミルクリスタルが地上にある理由がよく分からないけど」
「あのさ……生きているとしたら、この世界にまだいると思うか?」
「この世界にまだいる」か……
基本的に異世界作品って完結してない話の方が多いからどのぐらいの割合かは分からないけど
目的を達成したら元の世界に帰宅するのもあるし、異世界に残ってずっと暮らすというのもある
異世界転生作品だったらほぼ戻れないから永住パターンしか見たことないし
俺は魔王を討伐した後は絶対に帰る予定しか考えてない
もしかしての可能性だけど、その前勇者があまりにもの結果を出したから返された可能性だってある
「元の世界に帰るための手立てを探す」なんて話していたけど、実はすでに知っているけど帰られて欲しくないから知っているって可能性だって少しばかりありそうだし……それだけ王城の人達はこの世界を救いたいと考えていたんだろう
「分からない、何人いたか分からないにしてもそんなにいたなら
地上に残ったり逃げたりとかそういった奴もいたかもしれないし
何かあって帰れる状態になっていたとしてもこの世界に残るって可能性もあるかもしれない」
「じゃあさ、もしあのクソどもが残っているんだったら……
敵を取ってくれないか?俺と、シキギの
無我夢中で石を投げていたし、殺したのがクソどもの誰かは分からねえけど
全員悪だったから、殺して欲しい」
「お願いします」
「……」
敵討ち……もし、平和主義な主人公だったらなんて思うのだろうか?
「そう言ったことは言わないで欲しい」なんて言うのかもしれない
説得で何とかなるとか考えているかもしれない
けど、俺はこの世界にとって救いに来た主人公だとしても
……子供を殺すことをするような奴に、容赦なんでしたくないし
この異世界でも元の世界でも生きていてほしくない
復讐展開を見た時は、俺は基本的に成功して欲しい気持ちがある
何も知らない自称主人公によくある綺麗事で説得される展開は大っ嫌いだ
頭を下げているセメリさんと懇願するように見つめているシキギさんを見て
「……出会った時には、確実に仕留めるようにする
ここまで、人々が怖がっているなら
前勇者の討伐を考えている人が結構いると思う
俺も聞いていて胸糞悪かったし、約束をする」
俺は、その約束を取り付けることにした
実際に出来るかどうかは別としてもだ
2人の気が少しでも晴れるなら……って考えているけど、本当は自分の気がすまない所もある
でも「生きていてほしくない」と思っていながら
誰かを「殺す」ことはしたくない
何てエゴな考えなんだろう
「……ありがとう」
「ありがとう、勇者さん」
……殺す殺さないに関しては後で考えたい
長い時間ヒューラルに過ごしているけど、前勇者の気配は何もなかった
人々が俺ら勇者と前勇者と比べられることをよく言っていたけど「○○にいた」と言う話は聞かない
この後は品子さんと蜜巳さんにこの聞いた話を共有するし
明日はギルドマスターと領主様からもっと詳しい話を聞きたい
伝えるにしても本当に殺すかどうかについて……というか前勇者の事に関しては後で考えて
目先の湖の原因をどうにかしなくては
2人からの感謝の言葉を聞いて2人の寝室を出て3人で階段を下りていく
リビングに戻るとタスメさんも親たちもいた
俺と3人だけになって心配そうな顔になっていたけど、少し元気になったセメリさんとシキギさんの顔を見て安心したようだ
そして、タスメさんが料金を確認してみると
「なるほどッスね」
「どうした?」
「いや、これに関しては後で話すッス」
何か思ったらしいけど、後でか……
でも俺が知ったことよりかは先になりそうだ
「本日はありがとうございました」
「どういたしまして!」
「どういたし…………まして」
「お疲れ様です」
「お疲れッス」
「……さようなら、いや、またな」
「また、きてね」
「そうだな、またね」
「またね」か、ギルド仕事の合間にまた行きたいな
そう言いながら、家から離れていく
夕日が沈みそうになっている空の色
宿に戻っていく
「そういえばタスメさん」
「どうしたッスか?」
「何を見て『なるほど』って言ったんですか?」
「あーそれッスけど」
そう言いながら、タスメさんは数枚の銅貨をだした
何だろう?
「これはなんなの?」
「勇者達、実を言うッスが
今回の依頼料ッス」
「…………そういうこと…………ですか」
…………決して誰も口に出さない
俺も頭に思いたくないいけど、今まで受け取っていた依頼料を比べてみたら非常に少ない
でも、あの出来事を考えるならこれが精いっぱいという事なんだろう
2人とも、もしかすると湖の様子を知らなかったタスメさんも、俺が依頼前に話した居候の事情を聞いて察しているんだろう
「何があったかは本当に知らないッスけど、手伝っている時に聞いたッス」
「なにをなんだ?」
「居候の形になってから、結構積極的に手伝いに来る人が多いとはシキギさんの父親から聞いたッス
そのおかげで色々と助かっているなんて言っていたッス」
「そうか」
貧乏で払えない、とかそういった事は無いのだろうか?
でも、たくましく暮らしている様子を見ていて
大きく困っているわけではないのかな?
そう思いたい
……ちょっと場の雰囲気が暗くなってしまった、ちょっとの間だけど話を明るくしたいな
「そういえば、品子さん蜜巳さん」
「ん?」
「どうしたの?」
「シキギさんと遊んでいたと聞いたけど、何をしていたんだ?」
「アルプス一万じゃくだよ!」
「アルプス一万“尺”だよ…………しーちゃん」
「あれ?そうだっけ?」
まあ、ちょっとしたうろ覚えからの言い間違いの方は置いといて
「懐かしいな、2人ってできるの?」
「できるよ!」
「見てみ…………ますか?」
「ああ、是非ともみたいな」
「チキュウの遊びッスか、見てみたいッス」
本日は大きなショックを受けた
仲のいい2人が仲のいいことをするのを見て少し癒されたいな……
「じゃあ、いっくよー!」
「うん…………せーのっ!」
「あ、じゃ、ぺ、らら、ヘイ」
「あ、じゃ、ぺ、らら、ヘイ」
…………え?
ん?え?
今何が起きた?
「凄い早いッスね、アルプスイチマンシャクの遊び」
「2人の息が合えば合うほど、こんなにも早くできるんだよ!」
「ちょっとまって!」
「どうし…………ましたか?」
「俺の知っているアルプス一万尺じゃないんだけど!?
そんな3秒ぐらいでできたっけ?」
小さい頃ある番組で「アルプス一万尺の速度を競う」って番組があって9秒~10秒の記録を見ていたけど、2人の速度はあまりにも早かった
まるで早送りでもしているんじゃないかと思うぐらい早すぎる
歌詞も早すぎてなんていったかよく分かんなかったぐらいなんだけど!?
「この世界に来たからかな?こんなにも早くできるようになったの!」
「地球の4倍ぐらいで…………出来るようになりました」
シキギさんとやっていた時は、ゆっくりのんびりとやっていたけど
あれって結構合わせていたんだな……
ってかこの世界に来てからってことは
「アレか、マナによる身体能力の向上が影響しているんだろうかな?」
「たしかに!」
「あー……実は急に早くなってびっくりしていましたが………………それでしたら納得しました」
なんて雑談をしていると、ショックを受けてざわざわしていた気持ちが和らいでいった
……でも、刻一刻と宿は近寄ってきて覚悟が必要になる
…………その覚悟は品子さんも蜜巳さんもしているかもしれない
そうでないなら「覚悟が必要」と事前に言っておくことにするか……




