7. ゲームは楽しんだもの勝ち
「あのね、美奈子さん。実は……」
私、日本からの転生者なの。そう伝えようとした。
ガッタン!!
「きゃあっ」
「な、なにっ?」
いきなり馬車が急停止した。
外から悲鳴が聞こえた。馬のいななきが響いて、馬車が不自然に揺らぐ。
「ど、どうしたのかしら? 何か起きたのかしら?」
私は外を気にしながら、馬車の小窓を開けて見た。ああ、でも残念ながら夕刻を過ぎた今は、黄昏時と言うよりはかなり暗くなっていた。
「一体何が起こっているの? 外も見えないし、どうしたら良いの?」
言い知れぬ不安に背筋がゾクゾクした。
「シレリアッ! 大丈夫か!?」
美奈子さんを抱き締めて、馬車の隅に身を縮めた瞬間、お兄様の声が響いた。馬車の扉がバンっと開き、剣を携えた姿だった。
「お、お兄様! な、何が起こっているのですか!?」
「シレリア、落ち着いてくれ。この先に魔物らしき者が現れた。私達の前を走っていた馬車が、2台襲われた。今、護衛達が騎士らと共に戦っている。君達はこのままここで、待っていてくれ」
なんですと? 魔物?
「お兄様! クラリッサ様は!?」
お兄様とクラリッサ嬢は、一緒の馬車に乗っていたはず。
「ご心配なさらず。私は大丈夫ですわ」
お兄様の後ろから、涼やかな声がした。
「クラリッサ様!」
クラリッサ様は、お兄様の肩越しからスイっと顔を出した。そこにはいつも通りの理知的な美貌の彼女がいた。いたけれど……
「さあ、フェリウス様。お二人の無事は確認できましたわ。私達も加勢に行きましょう」
クラリッサ嬢の手には、剣が握られていたのだ。それは、装飾用でも女性の護身用の小さなものでも無かった。
それに、その姿。
さっき迄パーティーで着ていた、豪華で美しいドレスじゃなかった。確かに上半身は変わっていないけど、ドレスのスカート部分が短くなっている。まるで日本で見たことのある、前が短く後ろが長いアシンメトリーみたいな服になっている。
何ですか、その出立は。その姿は変身した武闘派ヒロインの戦闘服みたいだ。まあ、大分エレガントでセクシーだけど。
「クラリッサ様!?」
馬車のドアから身を乗り出し、クルリと背を向けたクラリッサ様に向かって叫んだ。
「シレリア様。ご心配なさらないで? 私、コレが本当の姿なんですの。さっ、フェリウス様参りましょう!」
そう言って、魔物がいるという方向に走って行った。
クラリッサ嬢のあの姿。あんなの今まで無かった。初めて見た。このルートではクラリッサ嬢は公爵令嬢の賢令嬢という立ち位置だけじゃないのか?
「シレリアさん。魔物って、この世界には魔物がいるの?」
震える声で、美奈子さんが言った。
「……いいえ。この世界には魔物なんていません。今まではいませんでしたけど、でも存在する様になったのかもしれません」
そうだ。美奈子さんという聖女が召喚されたことで、世界観が変わったのかもしれない。これがゲームの強制力というやつかもしれない。何故なら、聖女が召喚されるには理由が必要だから。
魔物が現れたという事は、魔物を退治するための人材達も現れるはず。
どうやら私が思う以上に、複雑なゲームになっているのかもしれない。既にクラリッサ嬢が、見たことも考えた事も無い方向に進化しているし。
だとしたら……この次に現れるのは……
「ご令嬢達、もう外に出て頂いても大丈夫です」
馬車の外から低くて良く通る声で呼び掛けられた。
そして、静かに開けられたドアの外に見えたのは……
腰までの長い銀髪、紫の瞳の細マッチョ様、氷の騎士とか呼ばれていた。近衛騎士団副団長のゼリス様ではないか。
一体、どんなストーリーになっているんだ?
ああ、もはや私一人でゲームの進行して、エンドを変えるなんて不可能じゃね?
ふう。溜息が出た。
「美奈子さん。実は私、日本からの転生者です」
ニッコリ笑顔で話し掛けた。あれっ? そんなに驚いていない?
どんなゲームになるかなんて、判らないけど。
多分、私こそが隠れキャラ。
私の存在が表立ち、直接メインの登場人物と絡むことが、クラリッサ嬢のハピエンルートに欠かせない分岐点なんじゃないかと思った。私がクラリッサ嬢をあの婚約破棄の場面から、退場させることがポイントだったのかも。
だったら、あとはストーリーを進めれば良いのかもしれない。何となくだけど、クラリッサ嬢は大丈夫な感じがする。だって、さっき見たゼリス様の後ろで、クラリッサ嬢にフェリウスお兄様が寄り添うように立っていたのが見えたし。
だとしたら、後は決まってる。
私は、隣にいる美奈子さんに視線を合わせた。
そして内緒話をする様に囁いた。
「でね、私達、一心同体なんですよ?」
さあ、コラボゲームを楽しもうじゃないの!!ねっ。聖女様!
何やらバタバタと始まり、バタバタと終わりにしました。
少しでも楽しんで頂けたらと思います。
ブックマーク、評価もありがとうございました。
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読んで下さってありがとうございました。




