6. 分岐点はどこにある?
さて、この先どんな手を打とう。
コラボゲームをプレイしていない私は、これから先は全くの初めてストーリーになる。いや、既に随分前から分岐点を変えて来ているはず。
だって……
目の前には、聖女様がいるんだから。
パーティーのホールから退出すると、私達は急いで馬車寄せに向かった。早くバーバリンド家の屋敷に行かないと、どんな邪魔が入るか判らないから。
私と聖女様は、バーバリンド家の馬車に乗った。そして、クラリッサ嬢とフェリウスお兄様は一緒にグランドル家の馬車に乗って貰った。
「余り狭い馬車の中で知らない人に囲まれると、聖女様が怯えてしまわれるでしょう? ですから、まずは私と二人だけにして頂けませんか?」
聖女様からすれば、見たことも無い異世界人に囲まれるなんて怖いはず。そこで、彼女の名前を知っている私と二人だけで、移動時間を過ごしたいとお兄様達に強請った。
お兄様とクラリッサ嬢は、少し驚いたような顔でお互いを見たけれど、確かにそれもそうだと納得してくれた。
私としては、クラリッサ嬢とお兄様の関係も見たかったんだけど。アンシェル殿下の婚約者と殿下の側近なんだから当然知り合いのはずだし、寧ろどんな学友たちよりも親しいんじゃないかと思っていた。でも、二人の間には親し気な気配が全くしない。異性と二人で馬車に乗る、そんな気まずさも躊躇する感じも無い程に、二人は希薄な関係なのかも。
「それでは申し訳ありませんが、クラリッサ嬢、当家までご一緒させて頂きます」
「いいえ、ご遠慮など不要ですわ。狭い馬車ですが、どうぞお乗りくださいませ」
いたって普通の会話を交わして、二人は先に我が家に向かって行った。
うーん。クラリッサ嬢のハピエンルートのお相手は、フェリウスお兄様だと思ったんだけど?
違うの? まあ、少しの時間だけど二人だけだから、何か進展すれば良いのだけど。
「あ、あの---」
聖女様の不安そうな声に、私は我に返った。そうだった、あんまり悠長にしていると碌な事にならないんだ。
「ああ、ごめんなさい。私達も行きましょう。さあ、馬車にお乗りくださいな」
私は聖女様の手を取ると、馬車にエスコートした。
「さあ、バーバリンド公爵家にご招待しますわ」
✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨
「森下……美奈子さん?」
「!?」
馬車で向かい合う聖女様に向かって、私は名前を呼びかけた。私は聖女ゲームにフルネームで登録していたはず。
「なんで、私の名前を知っているの? 貴女は……シレリアさんは何者なの?」
驚いていた聖女様だけど、確かこのゲームの彼女は『しっかり者の長女気質。頑張り屋さんで、素直でけなげな、運営会社一押しの史上最強ヒロイン』との呼び名も高かった。
どこかの男爵令嬢とはえらい違いだ。
「ごめんなさい。自己紹介がまだでしたね。私はシレリア・アーマンダ・バーバリンド。公爵家の長女で、先に行った馬車に乗っているフェリウスお兄様の妹なんです」
「ええ。それはさっきのホールで聞きました」
あら。結構冷静ね? さすが最強ヒロイン。
「そうでした。先程の場所は、王立学院の卒業パーティーの場だったのです。貴女はそこに異世界から召喚されたみたいです。詳しい事は判りませんが、あの大きな魔法陣によってこちらの世界に来たみたいです」
「ま、魔法陣? 異世界?」
怪訝そうな声だ。まあ、確かに魔法の無い世界から来たんだから驚くはずだ。
「はい。そして、この国はハント王国といって、先程のホールで貴女に話し掛けていた赤い髪の男性が、第一王子であるアンシェル殿下です」
「王子……」
考え込むように呟いた聖女様。何か感じる事があるのか? まさか無意識に殿下ルートに行ってるの?
「あの人が王子様……何かチャラ男っぽい……」
ぷっ! 聖女様の独り言が的を射ている。
というか、私の印象と全く同じだ。やっぱり、私のセーブデータの影響を受けているんだろうか。
「うふふ、それはこの場だけにして下さいね。そうだわ、聖女様。美奈子様と呼ばせて頂いても宜しいですか?」
私はついつい笑いを堪えて言った。聖女様って何か言いにくいし、出来ればもう少し親しくなりたい。
「あっ、はい。そうして下さい。私が聖女なんて……信じられませんし」
「それでは、私の事もシレリアとお呼び下さい」
「シレリア様?」
「シレリアで結構ですわ」
「いいえっ! そんなのは無理です。それじゃあ、シレリアさんで。私の事も様付けは止めて下さい」
真っ赤になってそう言う彼女は、流石最強ヒロインだ。ここに男性がいたら、瞬間で恋に落ちちゃう可愛らしさだ。
『あら? もしかして、私じゃなくてお兄様がここにいるべきだったのかしら?』
うん。残念。もしかして間違えちゃった?
「そうですか? それでは、美奈子さんとお呼びしましょう」
私の返事に彼女はニッコリと微笑んだ。可愛いわ。花が舞うとはこういう事かと思うわ。思い出したけど、聖女ゲームをやり始めたのは、キャラが全部好みの絵柄だったからだ。あざと可愛いというよりは、知的可愛い感じの。ああ、もう少しこっちのゲームをプレイしておけば良かったかも。
「私……どうなっちゃうんだろ……」
美奈子さんが、馬車の窓から外を見て呟く。彼女の不安が大きく膨れ上がっているのが判る。
よし! 屋敷に着く前に彼女に伝えておこう。
「あのね、美奈子さん。実は……」
私、日本からの転生者なの。そう伝えようとした。




