↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/8

2. 早くしないと(ゲームが)始まっちゃう!

 ()()()()

 それに気が付いたのは、私シレリアが王立学院に入学するよりずっと前の事だった。

 

 この世界では、貴族の子女は漏れなく王立学院に入学することになっていて、中等部には12歳から、そして高等部には15歳から入学できた。高等部になると、貴族だけでなく特待生と言う形で平民も入学できるようになっている。彼等は毎年人数こそ少ないが、片手に収まる程度は入学していた。そして平民の彼等は、皆優秀で何かしらの特別な能力をもっていた。例えば、機械的な発明や薬品の開発、更には今では扱える者も少なくなってしまった魔力持ち等がいた。

 魔力? そう、魔法が存在しているのだ。王家には王家特有の。我がバーバリンド公爵家には、我家特有の。それぞれの血脈、血統に繋がる魔力が存在し、その多くは貴族の血に残っていた。まあ、それも昔と比べれば随分と薄まってしまったというけど……どうだろう?



 私が生まれたバーバリンド家は、王都から東側に豊かな領地を持っていて、そこは自然にあふれており風光明媚な湖と山々に囲まれていた。


 あれは既に学院の中等部に入学していたフェリウスお兄様が、夏休みで実家であるバーバリンド公爵領の屋敷に帰って来た時だった。屋敷の前に広がる美しい湖に、当時の私は舟遊びを兄に強請ったようで、護衛や侍女たちと一緒に、私専用に造られたボートの処女航海? 海じゃないわね。まあ、初めて自分用に作って貰ったボートに乗り込んだのだった。そこで、何らかの事故が発生して、湖に投げ出されてしまったのだ。泳げない私は、みるみる湖の底に引き込まれて行ったけど……


「シレリアッ!!」


 お兄様の悲痛な叫び声と共に、腕を物凄い力で引っ張られた。ようやく助けられた私に、お兄様は泣きながら水を吐かせ、呼吸を取り戻させ濡れて冷え切った身体を温めてくれたのだった。自分が一緒にいながら、私を危険な目に遭わせてしまったという自責の念は、それ以降お兄様に大きなトラウマになってしまった。


 この水難事故? によって、私は暫く意識を失くしたまま寝込んでしまう事になった。それはそうだ。幾ら季節的には夏とはいえ、雪解け水の注ぐ湖の水は、思うよりも大分冷たかったのだから。


 湖に沈みながら、私は不思議な夢を見ていた。


 その夢の中で、私は森下美奈子という23歳になる女性で、日本という国で生活していた。毎日毎日電車と言う乗り物で、仕事場に通っていた。仕事場の机の上には、パソコンという四角い物体があった。彼女は、その世界で他人と関わり、話し、笑い、食べて、寝て……そしてたまに泣いていた。

 そんな彼女が楽しみにしていたのは、掌に載る光る板。スマホという機械で行う遊び。ゲームだった。

 夢に見ている彼女は、電車に乗るときも部屋にいるときも、寝る間際までそのゲームに没頭していた。とにかく彼女は、そのゲームをしているのが楽しくて、何よりも楽しみで、ゲームの進み具合で一喜一憂していたのだ。私は彼女の記憶や行動をトレースしつづけ、そのゲームを何度も一緒にやったような感覚を覚えた。



『ああ、何度やっても、クラリッサ公爵令嬢のハピエンルートに行かないなぁ』

『やっぱ、一押しはこの側近公爵令息サマでしょう』

『だめだぁ。このヒロインちゃんのゲーム補正強すぎ』


 手元にある機械の小さな光を見ながら、独り言をいう美奈子の感情が、私にしっくりくるのが不思議だった。私はそこで初めて彼女の目線の先にある小さな画面を覗き込んだ。


 そこには、信じられないくらい美しい絵があった。そして、その絵からは鳥の声や、美しい音楽、感情に合わせた音までしている。何よりも絵が会話や場面によって次から次へと変わっている。


 ()()がゲーム? すると大勢の人垣から現れた見覚えのあるこの面影。私によく似た金髪に青い目。


 このヒトって……私の知っているお兄様より、髪も長くなって、少し大人っぽく見えるけど……


 フェリウス・ウォーレン・バーバリンド。ゲームに出てくるターゲットの一人。攻略対象という立ち位置にいる美形公爵令息様だ。それも王国の第一王子様の側近の一人でもある。


 なんで? なんでお兄様の絵姿が?


 そう思った時に、私の意識は物凄い勢いで上昇した。まるで、竜巻に巻き上げられたかのようだった。



「シレリアッ! シレリアッ!」


 呼ばれていることに気が付いて、目を薄っすらと開けた。

 さっき美奈子と見ていた画面にいた、美しいヒトが私の顔を覗き込んでいる。彼の髪からは、ぽたぽたと冷たい雫が落ちて、私の頬に伝う。


「フェリウ……」


 小さく零れた言葉は、最後まで言い切る事が出来ず、私は私の意識を手放した。


 そうだ。私は、あのボートからの転落事故が原因で、自分が日本に住んでいた森下美奈子であった事を思い出したのだ。



 自分がトラックに撥ねられて亡くなったであろうことも……思い出した。



 そして3日後に目を覚ました私は、自分の大好きだった恋愛ゲームの中に転生したことを自覚した。そうだ。それも推しであったフェリウス・ウォーレン・バーバリンドの妹として。


 彼の唯一の弱点ともいうべきシスコン気質は、私によって植え付けられた事が原因だった。そして、それによって前世を思い出したとは……





 それからの私は、前世の悲願であった『ときめきイケメンパラダイス! 薔薇色王立学院』でこれから起こる婚約破棄劇からの悪役令嬢(本当はそんなことない公爵令嬢)のクラリッサ嬢のハピエンルートの攻略をするのだ!


 まだまだ婚約破棄までには時間がある。そうだ、私が王立高等学院に入学して初めて行われる卒業記念パーティーまでだから。ヒロインちゃんの影も形もまだない。


 今は、ゲームのオープニングの大分前なんだ。時間はたっぷりあるはず。私は今までのゲームスキルを活かして行動するんだ。クラリッサ嬢のハピエンルートに向けて!

 だって、ゲームのオープニングは、卒業記念パーティーの会場からなんだから。










✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨



「シレリア? お前、本当に大丈夫か? ボーッとしている様に見えるが……」


 お兄様。まだこんな端っこにいらしたのですか? 早く中央に行って下さい。ほらほら、あちらの出入り口が開きそうです。アンシェル殿下がいらっしゃいますから。

 私を心配したまま、一向に向こうに行かないお兄様に、若干イラつきながら早くせねばタイミングがずれてしまうとハラハラしてきた。


「しかし、気分が悪そうなシレリアを残しては――」

「いいえ、私は何ともありません。ですから、お兄様は早く中央に行って下さい。アンシェル殿下がいらっしゃいますから」


 今日に限って聞き分けが無い。こういう公の場ではアンシェル殿下の名前を出せば大抵は不承不承でもなんとかなるのに。


「ねっ? お兄様。私は、お兄様がいなくても大丈夫ですから。ご心配は有難いのですが、余りお兄様が近くにいらっしゃると私にパートナーが出来ませんわ。皆さん、お兄様に遠慮して声もかけて下さいませんから」

 とりあえず、今はお兄様を切り離してストーリーのセンターに行って貰わないと。いつになく強い口調でそう言うと、さすがにショックを受けた様な顔をした。

「ごめんなさい。別にパートナーが、()()()()()()訳ではありませんよ? でも、お兄様が殿下の側近である事をお忘れの様でしたから……」


 余りにショックを受けたその顔に、罪悪感を覚えて言い訳をする様にそう伝えた。ああ、もう本当に時間が無いんですけど。


「そうか、シレリアもパートナーを気にする年頃になったのか……」


 いやいやいや! 何か感じる方向が違っている。そこで、妹の成長に感慨を得ているなんて、お爺ちゃんですか? アンタは私のお爺ちゃんですか?

 

 ああっ! もう! 本当に時間が無いのに! ちょっと! この音楽は、オープニングの音楽じゃないの!?


 広間に流れる楽団が、聞き覚えのある明るい音楽を演奏し始めた。


「ええいっ! お兄様! 私達も中央に参りましょう! (ゲームが)始まりますわ!」




 私はお兄様の手を取ると、引っ張るようにしてホール中央に向かった。






『あれっ? こんなオープニングってあったっけ?』

 一瞬、そう頭の中で突っ込んだ。何十回となくやり込んだゲームのオープニングに、こんなシチュあったっけか。でも、それよりも早くホール中央に行かなくちゃ。お兄様の腕を引っ張って速足で歩く。








「アンシェル殿下のご入場!!」




 王族専用の上座の入口が開いて、華やかなファンファーレが鳴り響く。






 さあ、いよいよゲームが始まる。










 


 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。