断罪などする気なんかない
新庄綾乃は高校時代からの友人だった。
高校卒業後も時間が合えば一緒に遊びに行き、誘われたら飲みに行く、そんなつかず離れずの友人関係を続けていたと私は思っていた。
だけど、友情を感じていたのは私だけだったようである。
確かに私がちえに感じる、親友とかそういった親しみは綾乃に対しては薄い。
それに優香の結婚式についてしつこく私の参加を求めて来た事で、私の中にあった綾乃に対する友情の気持は消え去っている。さらに、私の婚約破棄時に不倫ブログをでっち上げて、ノッコとハルミに私への嫌悪感を植え付けていたなどと知れば、今や嫌悪感しかない。
だけど綾乃こそ私にその嫌悪感を抱いていたのかもしれない。
そこでどうしてそこまで嫌われたのかと思い返せば、私と我聞達郎が綾乃の紹介で知り合ったことに由来するみたいだ。
「何を馬鹿な事を言い出しているの? 自分を標準にして物事を考えるって聞いていたけど、なずなってすごく下種なんだね。私が達郎さんを好きだったから、なずなとの結婚をぶち壊した? 逆恨みも甚だしいよ。じゃあどうして優香にはお祝いしてあげてんだよ」
「私が立てたプランの結婚式をキャンセルしないで、花嫁だけ挿げ替えての結婚式をしたんでしょう? 一生に一度なのに可哀想な式だったね。それで、綾乃は式のプランに関わっていた癖に、友人の為に何の口出しもしてあげなかったんだ? 私を必死に式に呼ぼうとするよりも、そっちを何とかしてあげた方が優香には良かったんじゃないの?」
「何よ。優香の式が最低なのは、あたしのせいだっていうの!!何かしたけりゃ優香本人がするべきなんだよ。なんで私のせいにするかな。気分悪っ」
綾乃は吐き捨てたが、席を立つ気配はない。
ここは綾乃が来たがっていたらしいホテルレストランなのだ。
綾乃との話し合いの場として、綾乃が絶対に呼び出しに応ずるだろうと、比嘉江兄弟がランチバイキングチケットを融通してくれたのである。
のこのこ本当に来てしまった綾乃には思う所ばかりだが、やって来た彼女の狙いは、麗しき比嘉江兄弟との出会いを願ってなのかもしれない。
けれど彼女が比嘉江兄弟に会いたいのは、彼等のどちらかの恋人の座を狙っているのではないと思う。たぶん達郎や友人達にしたように、比嘉江兄弟に私の悪口を囁いて私の評判を落とす目的だろう。
私は鞄から書類の入ったフォルダーを取り出すと、それを綾乃へと差し出す。
「なによ。これ」
「とあるブログの乗っ取りの記録の証拠。そのブログはもう消されているけど、魚拓は残っているし、プロバイダーにはデータも残っているんだって。デジタルタトゥーっていうの? ネット上に公開した情報は半永久的に残るから気を付けてね」
「そんなの、私には関係ないし」
「私のブログだってみんなに広めたよね」
私は綾乃を真っ直ぐに見つめる。
綾乃は私から視線を逸らし、手に持った資料へと目線を走らせた。
彼女はもうわかっているはずなのだ。
私が彼女に渡した資料が、もともと優香が公開していた「自分はこんなにモテる」を自慢するブログを、優香の痕跡を消して私のブログにしか思えないものに仕立て上げた証拠だって。それどころか、そんなブログに書き換えたのが誰かわかる、彼女の息の根を止めてしまえる武器だって事も。
私だってこの資料の証拠となる元データを覗いてびっくりしたのだ。
優香の浅はかさと、綾乃の執拗さに。
優香が発信していた時のページのプロフィールにあげていた写真は、今あるようなゴン太の写真じゃない。優香の顔がわからないようにしているけれど、指を開いた手で顔を手で隠しているだけだし、胸の谷間が見える軽装なために彼女を知っている人間にはひと目で彼女だとわかる。さらに、プロフィールページだけじゃなく、そこかしこに彼女だって分かる画像のてんこ盛り。
それなのに綾乃はそれら全部を消して、代りに私にしか思えない画像を貼り付けまくったのだ。綾乃の執着にはホラーよりも怖いって感じた。自称サバサバ系って誰よりも粘着質だからって、ちえが笑って慰めてくれたけど、ストーカー被害者の気持がわかるぐらいに怖かった。
だけど、こんな消されていたブログデータをプロバイダ先に開示させて、ビフォーアフターを確認できるようにしてしまったマサオ君の財力とかの方が実は怖い。私が払いますって啖呵切ったのを突っぱねてくれてありがとう、である。
「で、私に慰謝料とか請求するの?」
「慰謝料を請求できるの? うん。した方が良いのは分かる。いくらかでも返したいもの。でも凄いお金を掛けてくれたマサオ君は、このブログが私のものじゃなく、優香とあなたの仕業で私の名誉棄損になるものに仕立てられていたって事実を、公正証書に残して十万円ぐらいを慰謝料にして手打ちにしたらって言うの」
「公正証書? そんなもの署名しないわよ。それどころか、皆に言ってやるわ。あんたが友人を濡れ衣で追い込む奴だって。あと、そのために有名な比嘉江兄弟二人に体を使っているって。最低」
「マサオ君とナオキ君への名誉棄損は控えた方が良いよ。あと、よく見て良く読んで。濡れ衣なんかじゃないってわかるでしょ」
「一人じゃ何にも出来ないんだね。男に頼って、情けない」
「その男を使うのは綾乃の方が得意でしょ」
「いい加減に」
「優香の結婚式の日。あなたはわざわざ達郎の友人の田端さんを連れて私の部屋まで来たわよね。あの日はナオキ君達がいたから助かったけど、私一人だったら、心細いどころじゃなかったわ」
「被害妄想。彼はあんたの部屋に私を送ってくれただけじゃない」
「そう? 私の部屋に二人の男がやって来たのも?」
「知らないわよ。それがどうして私のせいなのよ」
「その男達がそう言っているからじゃない?」
バシっ。
綾乃はテーブルを叩いて立ち上がり、いい加減にしろ、と怒鳴った。
がやがやしていた周囲がしんと静まる。
そして注目を浴びている綾乃は、人々の視線があるからこそ大声を上げた。
「この、相談女!!」
「そうだん、おんな?」
「そうよ。あんたは男に相談だって頼ったふりして絡んで、誰かの恋人を奪うばっかりの最低女だ。どんだけ人の恋人を奪えば気が済むんだよ。どれだけ他の子達を悲しませてきたの? 私はそれだけは言ってやりたいよ!!」
綾乃の吐いた身に覚えのない「新事実」だったが、私は婚約破棄された時の自分の境遇を思い出して震えた。友人だと思ってた誰も、私の言い分は聞いてくれなかった孤独は、私が知らず知らずでも誰かを傷つけていた結果じゃないかって。




