愛情表現の激しい兄弟と隠したがりの兄妹の違いから見えた事
マサオ君の告白、というか、彼自身の自己評価にはびっくりした。
俺の美点は金があることだけ?
「兄さんは金が無くても俺の一番の尊敬する人だ!!」
ナオキ君が立ち上がり、私もちえもマサオ君も、知ってた、と思った。
それはナオキ君が大声で叫んだ台詞の内容でなく、マサオ君が自己否定すればナオキ君が大声で反証するだろうってこと。
ナオキ君は本当に怒り心頭のようで、色白の肌を真っ赤に染め、プルプル小刻みに震えながらさらに怒り声をあげた。
「いつだって兄さんは最高だった。虐められて学校に行けなくなった俺に、ずっと兄さんは寄り添ってくれた。東京で大学生していたくせに、毎週のように帰って来てくれたじゃないか」
「足代に悩むことは無いからな」
「お金があっても帰ってこない大学生はいっぱいいるよ!!」
「お前の可愛さに東京がアドバンテージで勝てなかっただけだ」
「う」
ナオキ君は怒りとは違う真っ赤に顔を染めた。
私もちえも、マサオ君の気持がわかる。
でも、頑張れってナオキ君を心の中で応援した。
だって、マサオ君が自分のことをお金があるだけの奴としか考えていないなんて、それはとっても悲しいことだ。
「でも、でも、兄さんが寄り添ってくれたから、小学校時代の記憶は、虐められた記憶よりも、兄さんが遊んでくれた記憶ばっかりなんだよ。兄さんのお陰で俺は勉強が好きになったし、外に出る勇気がでた。それで今の俺じゃないか!!俺は兄さんの作品だ。俺が兄さんの自慢だったら、兄さんは自分を誇ってよ!!」
「那緒」
マサオ君は目頭に片手を当てナオキ君の名前を呟いたが、普段とは違って漢字に聞こえた。まるで父親が息子の名を呼ぶような感じに聞こえたってこと。
けれど、ナオキ君の可愛らしさだけにノックアウトされただけにしか、実は私には見えなかった。マサオ君のナオキ君愛はそれは凄い。ナオキ君のマサオ君への愛も同じぐらい凄いから、本当にこの兄弟は、と思う。
この兄弟の絆の深さを見る度、ひとりっ子の自分の身の上が少し寂しくなる。
弟か妹がいたら良かったな、なんて、今さらに思うのだ。
「ねえ。どうして兄弟なのに互いをけなし合ったりしないの? なんか互いに遠慮、あったりするの?」
せっかくの兄弟愛に水を差したのは、ちえさん、だった。
兄がいる彼女には、私と違う何かが見えたのか。
マサオ君とナオキ君は、少々気まずそうに顔をしかめた。
「ちえ」
「いや、だってね。妹と弟は違うかもだけどさ、私は兄の事をけなしちゃうよ? 色々言うよ? でね、逆に兄が大好きなんて絶対言わない」
「待ち受けをお兄ちゃんにしてたりしたくせに?」
「水差さないで。なずな。でもそういう感じなの。好きだけど好き好き言わないのが普通じゃないの?」
「でも、ナオキ君を可愛いってマサオ君が言うのはわかるでしょ。可愛いもの。でもってナオキ君がマサオ君を凄いって褒めるのもわかる。自分に寄り添ってくれた人をけなしたりなんか、できないよ。あと、二人は普通の時は普通にじゃれ合っているよ。さっきのは、マサオ君がなんか落ち込んでる風だったから、ナオキ君が必死になったんでしょう。私には兄も姉もいないけど、お父さんやお母さんが落ち込んでたら、普段言わないけど褒めたり大好きって言うよ」
「いや、そうだけど」
「千叡子」
少々厳しい声が居間に落ちた。
傍らに大きな犬を連れた顕さんだ。彼はちえの前に胡坐をかいた。もちろん彼の愛犬は、顕さんの足の上にごろんと横たわる。
「日出郎。締まらねえから止めろ」
黒い巨大な毛玉は、彼をどかせようとする顕さんの手がさらに嬉しいと、さらにゆったりと体重をかけて体を伸ばす。顕さんは諦めた様に溜息を吐き、それから再びちえに向かい合った。
「千叡子。お前も俺が好きだって言っていいんだぞ」
「ば、馬鹿な事を急に」
「だってそうだろ? 芹亜は俺とお前が近親相姦してるって噂も流したんだよな。それ以来お前は俺と一緒に人前に出たがらなくなったよな。寂しい兄として言わせてもらえば、いいんだよ。俺の事最高の兄だって言っていいんだよ?」
「い、言うか。馬鹿兄!!」
「俺を待ち受けにしてたんだろ!!」
「顕。ちえちゃん責めるな。俺もナオキも少々他よりもイってるってちゃんと自覚してるから気にするな。お前の大事な妹をシメたりしねえよ」
自覚してんだ。
そして、顕さんが必死なのはマサオ君にちえがシメられると思ったからか。
どんだけ怖い人だったのかとマサオ君を見れば、いつの間にかナオキ君の隣に座り直してニヤニヤしながら二人を眺めていた。ナオキ君は、私と同じ感想を抱いたらしく、隣の兄の隣で正座したみたいに固くなっている。
マサオ氏。
「で、お前等の会話でなんとなく気がついた事あんだが、言っていいか?」
「どうぞ」
「芹亜って、年上の男が好きなんだろうなって話。いや。年上の男に可愛がられている女になりたい貶めたいって奴かな?」
「はい? マサオさん?」
「どういうことですか?」
「マサオ君。急にどこからそんな風に?」
「でも兄さん。あの島根は同じ年でしょ」
全員の視線がマサオ君に集まった。
もちろん注目されることが大好きらしい彼は、ふふんと鼻まで鳴らす。
「考えてみろよ。芹亜がやった事で、お前と妹がぎこちなくなった。お父さんを自慢するなずなちゃんを貶めなり変わろうとしている。それで今回。前の婚約者の時には動かなかったが、俺と出歩くようになってからワンピースを盗んだり、仕事上知った住所に男を突撃させたりと攻撃的だ。芹亜には、年上の男がフラグなんじゃないのか?」
え、でも。と私はマサオ君に向けて手を上げていた。
彼の推理で行ったら、不倫ブログは芹亜では無くなる、のではないの?
そして察しのいい彼は、形の良い口を意地悪そうに歪めた。
「まだ言っていなかったが、あのブログは乗っ取りだ」
「乗っ取り?」
「ああ。君のブログになるように、奔放な誰かのブログのプロフィールやらいろいろをブログ主以外の他人が弄ったものだった。ログインIDやパスさえ知っていれば誰にでもできる。そしてこれはブログ主に近しい者の仕業だ」
「あーそうか」
「だから綾乃が」
私もちえも、すごくしっかりと腑に落ちた。
どうして私の婚約破棄時に綾乃が、タイミングよくあのブログを皆に教える事ができたのか。どうしてあれが私のものだと彼女が友人達に言い切れたのか。
「綾乃はそんなに私を嫌ってたのか」
「我聞達郎となずなちゃんは、どこで知り合ったのかな?」
私は両手で顔を覆う。
私こそ略奪者だったとは!!と。
達郎との出会いは、綾乃が幹事となった飲み会で、だった。
「だからあんなにも優香の結婚式に呼び出したがっていたのね。奪われる者の気持を味合わせるために。でも、達郎を奪った優香には何もしないのね」
「完全なる手下だろ? トニーズカフェでは歪な女の友情を見せてもらったよ。妊婦を労われなんて言った彼女こそ、全く妊婦の彼女を労わっていなかったね。まあ、なずなちゃんに胸の大きな優香をぶつけて落ち込ませたかったんだろうが、なずなちゃんこそ黄金律だったからなあ」
私はトニーズカフェでの綾乃と優香との邂逅を思い出し、そうだったと改めて認めるよりも、そこでの自分の発言の方を思い出してしまった。
まともな女じゃないって罵られた悔しさで放った発言。
自分のスリーサイズを言い放ってしまっていたことを。
「忘れてたのに!!」
「俺は忘れないから安心して忘れてていいよ」
うわああああああああああ。




