ハッピーアイテムって考え方はどうかな?
相談会はすでにグダっていた。
ちえの兄の顕さんが殊の外素敵な人で、そんな顕さんがナオキ君にちょっかい掛けて来たところで、弟愛が強すぎるマサオ君の機嫌が悪くなった。
彼は大人だから笑みを浮かべた柔和な表情を保っているわ。
でも、かなり親しく付き合わせて頂いている私には、わかる。
不機嫌。
そこで私はこの会合の議題を出席者に思い出させることにした。
私とちえを悩ます芹亜にどうやってしっぺ返しをするのか、そんな内容を真面目に相談しようとしている馬鹿らしさに急に気がついちゃったけど。
でも、芹亜がやり過ぎている、のも事実。
許せない自分だっている。
「え、ええと。それで皆様にお集まりいただいたのは」
「そうそう。私となずなに嫌がらせを続ける芹亜への報復方法を考えよう、だわ」
「え、ちえ。あなたも嫌がらせが継続中なの?」
ちえは肩を竦め、ずっとかな、と疲れたような声を出す。
「あいつは人が自分より幸せになるのが許せないし、人の良いなって持ち物が自分の物じゃないと我慢できないの。優香に似ているとこあるよね」
「えと、高校時代、優香と芹亜が友人だったみたいなの、知ってた?」
「いや。知らなかった。でもわかる。人のものを欲しがるところが似てる。優香はまず誰かの彼じゃないと好きにならない。奪うのが楽しい、のかな」
「あれに簡単にひっかかる男がいるって事も驚きだけどね。だけど彼女は良い試金石だと思うよ。彼女に転ぶか転ばないかで、浮気する人かしない人かを測れる」
私とちえは、物凄く人でなしな発言をした顕さんを見返す。
彼はニカッと笑い、さらに信じられない台詞も放った。
「優香ちゃんは俺に幸運を運んだ天使でもあるよ」
「お兄ちゃん?」
「ほら。お前が久々に可愛い呼び方もしてくれた。うん、やっぱり彼女は俺のラッキーアイテムかもな」
「顕さん?」
「顕?」
「俺の言い分にびっくりさせちゃったかな? なずなちゃん。それで怖い声出したマサオさんこそ俺の言い分の意味が分かるはず。あなたもあの優香ちゃんに会った事は絶対あるでしょう? 彼女のお陰で起きたラッキーアクシデント、あったでしょ」
「ん」
マサオ君は軽く咳ばらいをする。
ちょっと頬骨の当たりが赤い。
知らない間にマサオ君は優香に誘惑されていた? それで男の人は女性からの誘惑をご褒美とか思っちゃうってこと?
「それよか。兄。優香のこと知ってたの?」
「ちえに紹介してもらった覚えはないけどね、あっちは俺を知っていたよ。俺と実花の大事な時間を邪魔しに来たんだよ。ちえさんのお兄さんですよね、優香で~す。イラっとした俺は、けんもほろろに彼女を追い払った」
顕さんはそこで言葉を切ると、ニカッと悪戯っ子みたいな笑顔をつくる。
企みが成功したと喜ぶ、子供の本気で嬉しそうな顔だ。
「したら、実花がプロポーズにオッケーしてくれたんだ。あなたはよそ見をしない誠実な人なのねって。おっぱい揺らして俺を誘惑しようとしてくれた優香ちゃんよ、どうもありがとう」
そういうことと、私とちえは視線を交わして笑いをかみ殺す。
確かに私も、男性にモテる優香を前にして、マサオ君とナオキ君の態度が変わらなかったことについて、彼等への好感度が増し増しになったわ。
婚約者だった達郎が簡単に優香に転んだ事実があるから尚更に、マサオ君とナオキ君が誠実な人だって感動したのだ。
「兄ぃ。本気で恥ずかしい!!それって普通のプロポーズだけじゃ、実花さんに首を縦に振って貰えなかったってことじゃない」
「なんか~実花は~俺がフラフラして見えてたみたい。俺はこんなに一途なのにね。で、わかったかな。ちえになずなちゃん。優香ちゃんは疎遠にしようがしまいが、君達と縁がある男性のところに勝手に顔を出す。必要なのはお祓いすることじゃなく、上手く利用する事だと俺は思うよ」
「縁を切りたい男をわざと紹介したり、か。優香は優香で誰かの恋人か家族じゃないと食指が動かない。だが優香は付き合っていた男との別れ話で揉めたことはない。そうすると、優香と芹亜の関係も見えてくるな。優香と同じく人のものを欲しがる芹亜は、優香が付き合っている男を奪おうとするのかも」
マサオ君は語りながら自分のスマートフォンを操作して画像を呼び出し、私達に見えるように画面を晒した。そこにはとある男性と優香が、高校の制服姿で仲睦まじい様子で写る画像が映し出されていた。
「南校の野球部の島根君と優香ね。甲子園予選のいいとこまで行ってたから、優香がかなり自慢してた。こんな昔のことまで良く調べましたね」
「え、付き合ってたんだ。私は知らなかった」
「そりゃそうよ。付き合っていたのは町内で南高の野球部が持て囃され始めてから敗退するまでのほんのちょっとだけだもの。優香と付き合った途端に負けたって周りに言われていたから、なずなには自慢するタイミング無かっただけじゃない?」
「ちえには彼氏のことを伝えたのに? あの頃から私は優香に友人と思われていなかったんだね」
「違うって。今川舶来店の娘の愛梨と私は友人関係だったのよ。同塾生。それで島根君が最初に付き合っていたのが愛梨。ドーナツ屋で失恋した愛梨を慰めていたら、優香が嫌らしく自慢して来たってだけよ。私はそれで愛梨に絶交されたし、そのすぐ後に芹亜がなずなを騙って万引きするしで、今川舶来店に行き辛くなっちゃわ。好きだったのになあ」
「えと、あの、実はこの島根が私の部屋に侵入しようとしたの」
「え、なんで?」
「あの。いまは芹亜は結婚して鹿渡芹亜になってるんだけど、芹亜はその島根って人と不倫してるみたいなの。それも私の名前を騙って不倫しているのよ」
「それでなずなの部屋に行っちゃったんだ。うわ、最低だし怖かったね。なずなの仕事場近くに住んでいる親戚いるから、しばらくそっちに避難する?」
私は、ちえの心配からの申し出に、それはと目が泳いでしまった。
もうマサオ君の家に同居することになっているから大丈夫。
……言えない。
「大丈夫ですよ。なずなさんは兄の家にこれから住みますから。俺も一緒だから心配はいりませんよ」
ナオキ君。
そして新たな私の真実を聞いたちえは一瞬呆気にとられた表情を顔に作ったが、すぐに、ナオキ君が一緒なら安心ね、と本気で安心した笑顔となる。
「え。男二人の家で心配だ、じゃないんですか?」
なぜ自分で安心するように言っておいて、安心言われて不安になっているんですかナオキ君は。
本当は私と一緒に住みたく無くて、誰かに否定して欲しかった?
それともお笑いみたいに、ツッコミこそ望んでいた?
「――俺はやっぱり男と見られていないのですね」
ナオキ君がしょぼんとしちゃった。
上条家の居間に集う男性陣の中で一番背が高い、という一番大きい人なのに、一番幼く小さく見えてしまうくらいに落ち込んでしまうなんて。
「えっと、ちえが安心したのは、私がちえに相談めいた事をしてたからよ。ついナオキ君に相談してしまうのはなぜかなって。だから…………はふっ」
私は続けて何を言おうとしてたのかも忘れちゃった。
落ち込んで頭を下げてしまっていたナオキ君の耳が、一瞬にしてぶわっと真っ赤に染まってしまったのだ。
耳だけじゃなく、顔も真っ赤に染まっている。
表情なんて一瞬前は落ち込んでいた事も分からないぐらい、誇らしそうに照れている可愛い顔になってる。それでもってナオキ君は、光栄だ、とかすれた声を出した。
彼がそんな風になっちゃったのは、彼が私を本当に好いてくれているから?
嬉しさで私は息の仕方を忘れちゃいそう。




