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元婚約者が浮気相手と結婚式を挙げた日に私は王子様と出会った  作者: 蔵前
第二部第六章 対策会議に全員集合!

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なりすましの足跡

 ちえは「エイレルに行こう」と私を誘って来た。

 それだけならば不審のふの字も無いが、久しぶり、なんて余計な文字もあるのだ。彼女が指定した大型スーパーエイレルは、三年前に出来たばかり。それぞれで利用した事はあるだろうが、二人一緒では一度も無い。


 私は急に不安になった。

 私の部屋に見ず知らずの男達が押し入ろうとしていたみたいに、ちえもそんな襲撃とか遭っているの? と、不安な妄想がもやもや吹き出す。


「ちょっとちえの家に行ってくる!!」


 私は声を上げると上着を掴んで、親の制止も聞かずに玄関を飛び出していた。

 しかしそんな私こそ玄関出てすぐに捕まえられる。

 ナオキ君に。


「待って。俺も行く」

「車回すよ。小回りの良い奴持って来れば良かったな」


 マサオ君はブツブツ言いながら私達を乗せて来た車へと歩いて行った。

 比嘉江兄弟は私を止める気など無く、一緒に来てくれるつもりしかないのね。


 彼らの阿吽の呼吸に、慌てるばかりの私は少々落ち着いた。

 いえ、ナオキ君もマサオ君も慌てていたかも。

 マサオ君は私の両親に暇を告げることも無く車に乗り込んじゃったし、ナオキ君は大きすぎる獣をぬいぐるみみたいに抱えている。


 彼は私の視線の先に気が付くと、ニヤリと微笑んだ。


「ゴン太も連れて行こう」


「ゴン太は置いてってくれ。お願いだから」


 父も直ぐそばに来ていて、父はナオキ君に両手を差し出している。

 父は娘よりもゴン太か!!

 ナオキ君はふっと笑うと、抱いていたゴン太を父へと差し出す。


「では、ゴン太はお父さんに。なずなさんは俺が守ります」


「あ、君はそのために」

 え?


「さあ行こう!!お母さん、また戻ってきますから。行ってきます!!」


 ナオキ君は私の腕を掴み、私を引っ張る。

 そして私は両親の引き止めに会う事もなく、すんなりと出発していた。


 さあ、マサオ君が運転するロールスロイスファントムでちえの家に行くのだ。




 十数分後、私こそ比嘉江兄弟に対して土下座することとなった。

 上条家の広々とした応接間にて。


 ちえに何かあるはずなど無かったのだ。

 上条家の本家のお嬢様でもある彼女は、マサオ君家ほどもないが大きな家で三世代同居しているのだ。内訳は祖父母両親ちえ達兄妹に出戻った叔母親子である。


 つまり、誰かしら家にいる。

 それに上条家の愛犬である真っ黒なラブラドルレトリバーが、家の敷地内をワンワンワンワンと楽しそうに走り回っているのである。

 ちなみにこれが可能なのは、工学部出のちえの兄が敷地内にワイヤーロープを張り巡らし、そこに滑車付きのスリングをつけることによって「敷地内どこでも散歩」ができるように仕立てたからだ。


「ちょっと、静かに!!日出郎!!」


 うん、今もワンワンしてるね。

 自宅にいた彼女に危機などあろうはずがない。


「なずな。顔を上げて。私こそごめん。本物のなずなか確認したかっただけなの。ほら、玉こんにゃく食べようよ」


 上条家の広々とした由緒ある座敷の、それも螺鈿細工のある大きくて高級な座卓に、ちえは鍋敷きを敷いただけで熱々のアルミ鍋を豪快に置いた。彼女は良い所のお嬢様らしくおっとりしているが、昔はこのあたり一帯を治めていた家の娘らしく豪胆な所がある。


「取り皿持ってこようか?」


「割りばし刺してある。どうぞ、ええと」


「ナオキ君でいいですよ。ちえさん」

「俺もマサオ君でいいです。それで、どうしてあんなメールを?」


「だって、なずなのなりすましからのメールだと怖いでしょ。本物だったらなずな本人が通話にするか来るかするでしょ。で、ニセモノだったらエイレルに行くでしょ。兄がそっち行ってくれてる」


 ちえには五歳離れた兄がいる。そして私はちえと親友であるが、ちえの兄と面識が実はない。ちえが言うには、彼は妹想い過ぎて、妹に嫌がられないように妹の友人に己の姿を一切見せない、という話らしい。


「上条、あ、もしかして北高の(あきら)か?」


「あ、マサオ君はやっぱり兄をご存じでしたか」


「ああ、あいつは――」


「兄さん。やんちゃ時代の話はいいから、それよりもなりすましメール!!」


 私はちょっと聞きたい気がした。だってなんだかヤンキー漫画っぽい。

 マサオ君の高校時代は、そんな漫画みたいな高校同士の抗争とかあったの?

 とか知りたい。

 だけどと、我慢する。ナオキ君の言う通りに、ちえがなりすましメールに神経を尖らせていた理由を私は聞かねばならない。


「それって。私のなりすましメールなんかがあったってこと?」


「なずなのふりしたブログはあった。それにノッコとハルミがひっかかったから、綾乃と優香の言いざまに二人は乗っかったみたいね」


「知らなかった」


「私も今まで知らなかったんだけどね」


 私は頭を上げてちえを見やれば、彼女は大きく肩を竦める。

 ただし、彼女の視線はマサオ君へと一瞬動いた気がする。

 私は再び、今度はマサオ君にだけを見つめる。

 彼は、名誉は挽回しなければ、と呟いた。


「なずなはノッコ達の謝罪を受け入れなかったでしょ。それで私にとりなしてくれって二人から連絡があったの。このままじゃなずなに制裁されるって脅えて」


 私の首はまたちえへと動いた。

 首の骨が折れそうな勢いで。


「え?」


「ワンピース事件から鹿渡芹亜(かどせりあ)を洗ったら、君に成りすましたブログを発見した。公認会計士の父を持ち、裁判所で働く恋多き25歳。不倫デートでのあれやこれやを、婚約者とのものとして発信している」


 私の首は再びマサオ君へだ。

 首の骨が折れたらどうしてくれる。

 マサオ君は自分のスマホを取り出し、私に差し出した。


「既にそのブログは削除されているから安心して。これはそのコピーだね」

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