後の祭りは日常のあるある
私の両親は私に言いたいことが色々あっただろうが、両親は私を問いただすどころかナオキ君とマサオ君へのおもてなしモードとなった。いや、父は何か言いたそうだけど、ハイテンションとなっている母が私達を家の中に押し込んだ。
玄関先で騒いでいた二組の夫婦へマサオ君が言い放った内容、八年前のなりすまし事件について私こそ聞きたいのに。
八年前にも?
私は何度もあの人に成りすまされていた?
お母さん達は知っていたの?
母は私達を居間に案内すると、ナオキ君達を私に任したまま台所に消えた。
もしかして、私がマサオ君に聞けばよいと?
「なずな。お母さんの手伝いをしておいで」
「お父さん。あの」
「ダイジョブだよ。俺達良い子にしているから」
小学生の様な物言いをして来たナオキ君に、彼の横に座ったマサオ君も私に向けて心配いらないという笑顔を見せる。
私は八年前のなりすましを聞きたいんだけど?
父は仏頂面。
ナオキ君とマサオ君は、ニコニコニコニコニコ。
母に聞けと?
私はやれやれと立ち上がり、母のいる台所に向かった。
台所は、それはもう香ばしい匂いが立ち込めていた。
コーヒーの香りに、嗅いだことないが美味しそうな焼き菓子の香り。
ホットケーキじゃ無いが、近い何かの香ばしい匂い。
「トースターで何を焼いているの?」
「冷凍ワッフル。あの人達のせいでお茶菓子も買いに行けなかったんだから」
「ごめん。私のせいだね」
「違うわ。でも、どうしてあの子はあなたの名前を使うのかしら。あなた、いじめなんて最低な事をしたことは無いわよね」
私は覚えがないと首を横に振る。だが、優香には婚約者を寝取られ、綾乃には散々な目に合わせられ、そして、見ず知らずの人に名前を騙られている。
「知らない間に人を傷つけてたのかしら」
「坂枝芹亜って子に覚えがある?」
私は母が普通に芹亜の名前を言った事に驚いた。
鹿渡ではなく坂枝と言ったからには、母の方が芹亜について詳しく知っているのは間違いない。
「八年前もその人が私になりすましたの?」
「今川舶来店からあなたが万引きしたと連絡があったの。急いでお店に行けば、万引きした子はあなたの名前を騙っているだけの別人だった。お父さんも私も悪質すぎるって思って、お店に警察を呼ぶように言って帰ったの」
「名前はその時に?」
「あ、そうね。その時は顔を見てうちの子じゃないってそれだけだった。名前はどこで聞いたのだったかしら」
チン。
ワッフルが焼けたようだ。
母はオーブントースターから天板を引き出し、ワッフルと言っていた私の認識していたものと違うのをケーキ皿に取り分け始めた。
それで、アイスクリームと冷凍ミックスベリーを冷凍庫から取り出した?
え? 絞るだけ生クリームも?
でもって、アツアツのワッフルにアイスクリームに、うわ、チョコシロップ?
「豪勢ね。でもって、ベルギーワッフルってこんなんだっけ?」
「これはアメリカンワッフルよ。あなたはカップにコーヒー入れて!!」
「はいい」
芹亜の名前を、どこで、あるいは誰から母が聞いたのか。
私は後で母に聞き直そうと頭の隅にメモをしたが、今すぐに居間に持っていかねばならないアメリカンワッフルでいっぱいいっぱいになってしまった。
大事な事だったのに。




