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元婚約者が浮気相手と結婚式を挙げた日に私は王子様と出会った  作者: 蔵前
第二部 第四章 えええ?

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そして私も敗残兵

 我が家の愛犬、大型犬サイズの雑種のゴン太が犬小屋の後ろに隠れてしまったのは、犬の本能で恐ろしい人間を嗅ぎ分けてしまったからだろう。


 彼は大型犬でも父の過保護ぶりで、夜間や寒い日は家の中という愛玩犬でもある。今日はマサオ君とナオキ君というお客が来るという事で外に繋いでいるだけだ。だから、きっと臆病なだけで、マサオ君に本気で脅えたとは考えたくない。


「兄さんね、ドーベルマンを脅えさせたこともあるよ」


「うそお」


「ほんと。旨そうだな、と念じながら犬を睨むと大抵の犬は脅えるって言ってた」


 ナオキ君の言葉遣いが子供っぽく、相槌を打つ私が馬鹿っぽくなっているのは、多分どころか私達二人ともマサオ君にしっかり脅えているからだろう。


 そんな怖いだけのマサオ君だが、彼は寄りかかっていた車からゆらりと立ち直した。それから、彼を取り囲んでいる中年夫婦達へと一歩踏み出す。すると、私の実家の玄関に貼り付くようにしていた四名も、磁石が反発して動くように、マサオ君を避けて動き出したではないか。すいっと。


 数秒後には、完全に立ち位置が変わった。


 マサオ君一人が我が家の玄関前に立ち、四名の男女はマサオ君に見下されながら私の実家の玄関口を遠巻きに見ている、という位置関係である。


 マサオ君は彼等にふっと笑って見せる。

 それから、私の部屋に押し入ろうとした男とその妻の両親達に、なぞかけの様な台詞を言い放ったのだ。


「八年前にも同じ様な事があったのではないですか? 可愛いなずなさんは、彼女になりたがりの人に時々なりすまされて困っているんですよ」


「八年前だなんて、何をきさまは」


「いいえ、お父さん待って。なりすまし、そうよ、なりすまし!!」


 マサオ君に憤るばかりの男性を止めた女性は、マサオ君の言葉によって何かを思い出したようだ。彼女は自分の夫の耳元に何かを囁く。

 男は妻の言葉にハッとした表情となり、次に慌てた顔となって私の実家を見返して、我が家の苗字を幾度となく呟いた。


「とりうみ、とりうみ、そうだ、鳥海。鳥海なずなでどうして思い出さなかった」


 動揺する夫よりも妻の方が立ち直りが早いのか。

 彼女は先程までの敵意を消して、マサオ君へと一歩近づく。


「あなた。今回のこともなりすまし、なの?」


「ええ。詳しいことは私の顧問弁護士に聞いてください。あなたの娘さんが雇った弁護士事務所でも良いでしょう。私の弁護士から話は行っているはずです」


 マサオ君は名刺を差し出す。

 夫婦はマサオ君から名刺を受け取ると、軽くマサオ君に会釈してから自分達が乗って来ただろう車へと駆けて行った。


「ちょっと、待て。今川さん。いいのか!!」


 今川夫婦を慌てたように呼び掛けた中年男性、彼こそあの押し入り男の父親だろう。確かにあの男の面影がある。そして呼びかけられた今川夫婦の内、妻の方が恐ろしい顔付きで娘婿の父親を睨んだ。


「良いわけ無いわ。あなた方の馬鹿息子がうちの娘を傷つけたことは許さない。それ以上に、娘を傷つけた女ももっと許せないのよ!!」


 言い捨てるや、彼女はすでに夫が乗り込んだ車に乗り込む。

 今川家の車は少々乱暴な運転で我が家の敷地から出て行った。


 今川と言えば、町でギフト商品を取り扱う有名なお店である。

 田舎町で私がリヤドロやマイセンなどの陶器人形を知ることができたのは、今川舶来店のお陰である。仲良しのちえと今川舶来店に行き、紅茶カップに見惚れても高すぎて買えないので、銀色のデコラティブな紅茶スプーンを記念で買ったと思い出す。


 だから、そんな素敵な思い出のある店を経営している人達の車が、車検が大丈夫かと心配するほどの年代落ちのもので驚いた。

 そして、悲しい気持ちとなった。

 田舎はどんどん少子化になって、個人商店は次々閉まってしまっているから。


「待ってくれ。今川さん」


「あなた。今すぐに借金を返す話になったら返せないわ。今川さんを追いかけて宥めなければ」


 あの男の両親も動き出した。

 彼らも彼等の古ぼけた車に乗り込み、勝手に止めていただろう我が家の敷地から出て行った。

 あとに残されたのは、玄関前に立ったままのマサオ君と、マサオ君に乗り捨てられた状態のファントムの中に隠れたままの私とナオキ君だ。


「ほんっと、兄は凄い。何でも全部自分で解決しちゃう」


「落ち込まないの。私だってたった今解決してもらったんだから」


「でもこれで俺が言った事わかるでしょ。兄が一番だ。何もできない俺を選ぶのはおかしいって」


「あら。私こそあなた方に庇われているばかりよ。なのに私を好きだと言ってくれる。それはどうして?」


 私はナオキ君をじっと見つめる。

 ナオキ君は頬を真っ赤にして顔を背け、それからぼそっと呟いた。


「君は優しくて頑張る人だから」


 キュン、と胸が締め付けられた。

 ナオキ君こそ私を喜ばすツボを知っている。

 いえ、無意識だから凄い。


「そ、それは、ナオキ君こそだし」


「いや、俺は」


 ナオキ君は首の骨が折れる勢いで私に振り返り、そして私達は顔を合わせた途端に恥ずかしさで同時に顔を背ける。


 それで気が付いた。


 たぶんナオキ君は窓越しに、私はほのかに窓に映る影で、車の前でマサオ君と私の父が並んでいるぞという状況に!!


「なずな。まず出て来なさい。お母さんが心配している」


 倒れていたはずの父は元気なようである。

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