真相そのいちと、優しい王子
彼らは現在の私の状況を呼んだ事情を、私には秘密にしているみたい。
だから私は話して欲しいとナオキ君とマサオ君に望んだ。
ナオキ君は、ごめん、とやっぱり言った。
けれど彼は、車を運転していない今は、ちゃんと私に向き直ってくれた。
それから深々と私に頭を下げたのである。
「ごめん。ほんっとごめん。君が部屋を出なければならなくなったのは、俺のせいだ。俺が余計な事をしたからだ」
「どういう……ええと、まず聞く。だから謝るのはお終いにして話してくれる?」
それでナオキ君は語りだしたが、私は入りを聞いただけで聞くんじゃ無かったと後悔した。なんで話してなんて頼んだかな、私は。
ことの発端は、私にワンピースを返したと言い張ったクリーニング店の従業員が、客の服で気に入ったものがあれば勝手に着てお出掛けてしまう人だったことだ。他人の服を着て彼女が出掛ける先は、浮気相手との逢瀬と聞けば、私は両耳を塞いで大声を上げたくなった。
私の大事なワンピースが、思いっ切り汚された!!
「あ、でも。着ていたのは優香だったわ」
「優香さんとその店員は知り合いだったのかも。良い服を融通し合う仲だったのかもしれない」
「融通。あ、優香は良いものは分かち合うものだって言ってた。そうね、友人と服を貸し借りはあるかもだけど、こんなのは最悪だわ」
「うん。最悪だよね。それでね、あのカドクリーニングは家族経営なんだ。昔から職人気質で家族仲が良くてね、家族が横暴な客から責められたら家族一丸となって立ち向かう。でも、そのお客の言い分が横暴どころか真実でしかなかったと知ったら、守ろうとした分その裏切り行為は許せなくなるよね。すごく真っ当な人達だから、きっと苛烈なぐらい」
ナオキ君は言葉を切ってしばらく黙り込んだあと、再び私にごめんと言って頭を下げた。
「俺は君を裏切ったんだ」
「ナオキ君?」
「君の服を盗んだ鹿渡芹亜は、カドクリーニング店の次男、鹿渡功と結婚するまで、ずっと職を転々としていた人なんだ。それでようやく居場所を見つけた人なんだと思ったら、あの」
「ナオキ君?」
私はワンピースとか急にどうでも良くなった。
ナオキ君が私を裏切ったと言い張るならば、優しい彼は私ではなくそのセリアって人に心が移ってしまったのだと思ったから。
私ってなんて傲慢で嫌な女だったの!!
「あの、だから、なずなさん」
「ナオキじゃ話が進まないから言わせてもらうけどね、こいつは俺の死んだ女房をその盗人に重ねてしまったんだよ。この馬鹿、は、俺の女房とは違うその女に温情を掛けてしまったんだ。なずなちゃんにワンピースを紛失したと正直に話して謝罪すれば、きっと丸く収まるよって、たぶん言ったんだな」
「ごめんなさい!!」
さすがマサオ様。
正しかったようだ。
ナオキ君は両手で顔を覆ってしまった。
傷ついた私の為に怒鳴り込みに行ったのだと思っていたけど、実は泥棒した人を説得に行っていたのね。その人がやり直せるように。
それだけその人に、いえ、マサオ君の奥さんに重ねた?
「俺の女房とは全然違うだろうが。阿呆。っとに。柚葉が職を転々としてたのは、注意欠陥を抱えていたからだ。盗みなんかする奴じゃない。ついでに言えば、人を貶める事なんか思い付きもしない奴だよ」
「ごめんなさい!!」
「全く。お前は浅はかだ。でもね、俺はお前がやった行動は好きだよ。人間なんか誰もが失敗しながらの人生なんだ。やり直しのチャンスを与えるってところは、救いがあって良いと思うよ。ただし、その時点でその女の手元にワンピースが無い。ワンピースは罪の意識から捨てたと誤魔化せばいいものを、自身の浮気がバレることこそ危惧したんだろう。馬鹿は坂道を転げ落ちる思考しかしない。嵌める時にはそこを忘れるな」
マサオさん、言い方!
嵌める時って、怖いんですけど!!
「――うん。この結果は俺のせいだ。まさかなずなさんに謝るどころか、自分の不倫相手をなずなさんに向かわせるとは俺は考えもしなかった。なずなさんが家を出る羽目になったのは、俺が考え無しのせいだった。ほんっと、なずなさん、ごめんなさい!!」
ナオキ君は殆ど床に額をこすりつけるぐらいに、上半身を倒してしまった。




