どこまでも優しい兄弟、ね
私の部屋に押し入ろうとした男達は、ナオキ君が呼んだ警察が連れて行ってくれた。その前に私も立ち合いで現場検証もしたが、彼らの荷物が私の部屋の前に転がっていることで私の中に恐怖が芽生えた。
だって、見ず知らずの男の人が私の部屋に入ろうとしていたのよ。
だから私は自分の部屋に入ることこそ怖くなり、ナオキ君達に促されるまま荷物をまとめて部屋を出ることを了承した。
二人がいて本当に良かった。
彼らがいなければ私は男二人が待つ部屋に一人で帰り、そこで何も知らずにあの男達とかち合った事で、彼等から乱暴を受けていたかもしれないのだ。
思い返した事で再び恐怖を感じて、体がぶるっと震えた。
「ごめんね、なずなちゃん。怖い思いをさせちゃって」
ルームミラーに映ったマサオ君の印象的な瞳が、後部座席に座る私に労わりの視線を向ける。私はルームミラーに映るマサオ君に目線を合わせ、小さなミラー越しでもわかるように微笑んだ。
「いいえ。マサオ君とナオキ君がいてくれて助かりました。私一人じゃきっと」
私は膝に乗せた茶々入りのペットキャリーを支える腕に力を込める。
彼らがいたからこそ、私も茶々も無事なのだわ。
「でもさ、俺のせいかな」
運転席のナオキ君はぽつっと呟いた。
その声の痛々しさに私の方がナオキ君を慰めたくなったが、助手席のマサオ君の方が早かった。ナオキ君の頭をガシッと撫でたのだ。
「俺の玩具を貸してやってんだ。もっとシャキッとしろ」
「いいえ。お兄さん。罰ゲームです」
「どうして。お前は乗りたがっていただろ、カマロ」
「乗りたかったのは兄さんの運転で、です!!パワーある車の運転は怖いです。なずなさんを乗せている今は、特に!!」
「俺はこの車の時は、助手席にも後部座席にも誰も乗せたくない人になるんだよ。走り屋の血が騒ぐ?※」
「兄さんは三十代にもなって何してんですか」
私は今、彼ら兄弟に出会わねば一生縁がなかっただろう、黒塗りクーペ型という高級車の後部座席に納まっているのだ。
そして彼らが私を運ぶ先は、マサオ君の自宅らしい。
「あの、ええと。ご自宅はお店ではなかったのですか?」
「あっちも自宅なんだけど、これから向かうのは母方の祖母の実家だね。建ててもいないのに自宅ばっかり増えていくのも変な話だよね」
「なずなさん。あの店は兄さんの奥さんの実家だったの」
奥さんを亡くした後も彼は奥さんの実家で生活をして、奥さんの実家のお店を続けていたのね。マサオ君がそんな一人ボッチの生活をしていたことを想像して、私の胸はきゅっと締め付けられた。
「店の爬虫類を君の持参金だと思えばいいって、どんだけ爬虫類が好きなのって話だよね。まるで奥さんよりも店の方が欲しかったみたい」
「失礼だな。ナオキは。あの店は爬虫類だけじゃないぞ」
「それは俺は常に聞きたいと思っていた。どうして屋号が爬虫類館なのにモルモットを仕入れるの? それで仕入れる度にどうして俺を呼ぶの?」
「モルモットは不動産繋がりで断れない相手からの持ち込みでね、変な奴に売るなって注文付きなんだ。毎回無駄に保父さんしているお前に任せれば安心かなって、だろ?」
「保父さんどころかあいつらの奴隷だよ」
「ふふ」
私の口からは笑い声が出ていた。
その途端にルームミラーに映るナオキ君とマサオ君の目元がゆるっと笑みを作り、彼らがどれだけ私を心配していたのかが分かった。
私をどれだけ笑わせたかったのかも。
「私を一番に心配してくれてありがとう」
私の口は自然に感謝の言葉を紡いでいた。
※走り屋さん
峠など人里離れた場所でドリフト走行とかしている人達です。
単に車の運転が好きなだけで、集団で暴走したりして人に迷惑をかける暴走族などとは違います、と皆さん言います。
「安心してなずなちゃん。俺が人の迷惑になることをするわけ無いでしょ」
「でも兄さん。峠付近に住む人の迷惑ですよね。騒音とか。時々峠から落ちている人もいますよね」
「ナオキ、覚えとけよ」




