空き巣であるよりも気持ち悪い
私の部屋に勝手に押し入ろうとしたのは、マサオ君とナオキ君が戦っていた半グレという暴力系のグループの一員では無かった。
なぜわかったのかは、彼らが私達に事情を話したのではなく、ナオキ君が呼んだ警察が到着するや、我こそ被害者という風に警官達に自分達の事情を訴え始めたからだ。
ナオキ君とマサオ君を悪者にして!!
ナオキ君に蹴り飛ばされた上にマサオ君の手刀を受けた人は、鍵師だという。
彼は雑貨屋を営む個人商店の息子で、依頼があったから来ただけなのだそうだ。
だからこの事態に、彼はとても憤慨していた。
「だから、こいつらを捕まえろって」
「不法侵入をしておいて?」
警察ではなくマサオ君の一言で、鍵師はハッとした顔に変わり、一気に血の気を失った真っ青な顔となった。
マサオ君の声が怖かったからではなく、自分の行為の浅はかさに気が付いたからだと思いたい。そう、ちゃんと反省してほしい。友人からの「彼女から音沙汰がないから彼女の部屋を開けたい」なんて依頼に、ホイホイと受けないで欲しい。
一緒になってオートロックのアパートに侵入なんて、完全に犯罪行為じゃない。
そもそもあなたのご友人は、自分の彼女の部屋を間違えている、のよ。
「そうです。こいつは俺を助けようとしただけです。ねえ、あなたがたがいるなら、部屋を開けても良いでしょう。俺は彼女を助けたいんだ」
この人は一体誰? どうして私を自分の彼女だと言い張るの?
彼が何者か確かめようとするが、私の目の前は鉄壁の壁だ。
マサオ君とナオキ君は完全に私の壁となって目の前聳え立っており、彼らの背中は私を何があっても守ろうと言っている。だけど、私は目の前の出来事を自分こそ確認したいの。私は彼等の壁から外れようと横に動こうと、――動けない。
そう言えば、彼らはそれぞれの右腕と左腕を私に回している。
「ナオキ君、マサオ君」
「俺達に全部任せて」
「そう。だあいじょうぶだよ、なずなさん」
二人の騎士みたいなところに、あの日もそうだったと思い出して胸が温かくなるばかり。……なのだけど、私は急に気が付いた。
も、もしかして、ナオキ君達こそ勘違いしてる?
私が昔に付き合っていた男性に押しかけられているって。
「あのね、ナオキく」
「そこにいるのか。なずな。あ、ヤクザか。お巡りさん、あいつらこそ捕まえてください。あいつらがなずなを監禁していたんですよ!!」
「あなたにあいつらなんて言われたくない!!」
私こそ頭に血が上った。
マサオ君は確かに確実にヤクザに見えるかもだけど、私の部屋に押し入ろうとした人にナオキ君達を悪く言われたくない。
「もう大丈夫なんだよ、なずな!!俺を信じてくれ」
「いい加減に、……ナオキ君、マサオ君、私を前に出して」
「黄金な君を奴の汚い目に晒したくない」
「右に同じ」
私は右の人に賭けた。
彼のダウンを引っ張って注意を引き、目が合ったならばすかさず、お願いと小声で頼む。すると、ナオキ君は耳まで真っ赤になって、私から顔を大きく背けた。
マサオ君と作っていた壁に隙間ができるぐらい。
私はその壁から顔を出し、私を自分の彼女と言い張る男を睨んだ。
男は一見朴訥そうな顔立ちだが、目鼻立ちはそれなりに整っている。けれど、体つきが脂肪によって厚みがあるように、丸みを帯びている輪郭だ。
そして私は彼の顔から、今までの人生で出会った事があるかを必死に記憶を漁ったが、出て来た答えは「知らない人」それだけだった。
いいえ、彼の今の顔を十代ぐらいに遡らせて考えたことで、たぶん彼は高校生くらいの時は女子に人気があっただろうと想像出来た。想像できたからぞっとした。モテていた高校時代くらいの頃と同じく、女の子は純粋に自分を好きなんだろうと思い込んじゃうのかしらって。
どこかで笑顔で挨拶しただけで、彼女と思われていたらどうしようって。
でも、彼の彼女と私が同じ名前なだけで、だから勘違いしているだけかも。
「あの、いい加減にしてくれませんか? あなたと私は会った事も無いですよね。あなたが入ろうとした部屋は、私の部屋なんですよ」
男は私を見て、目も口も真ん丸にしてしまった。
「あなたは?」
「あなたが勝手に押し入ろうとした部屋の住人です」
「あ、じゃあ。なずなは君のルームシェア相手?」
「私は一人暮らしです。そして私こそなずなです。人違いです」
「そう。人違い。ただし君の名前に成りすました女に騙された間抜け。ついでに妻子持ちだろ、お前」
「な、なにを急に」
「お前が急に何を勝手してんだろって話だろ。浮気相手と会えなくなってラインも出来なくなった。それで聞いていた住所に押しかけたってことだろ。おい鍵師の。お前も知ってんだろうが。こいつの相手が浮気相手だって。だから一緒になって不法侵入したんだよな。女とやれると思ったか?」
男達は居心地悪そうな顔付になると、不貞腐れた様に黙り込む。
なんてこと。
「あなた方はなんて自分本位なの!!大体不倫でしょう。あなたのお相手が不倫を止めたくなっただけってどうして思わないの。どうして無理矢理部屋に乗り込もうなんて思考になるのよ。気持悪い!!」
「う、うるせえよ。あいつが不安がっていたから心配してたんじゃねえか」
「そうだよ。こいつは本気で心配していたんだよ。高校時代に自分を虐めていた女に見つかったって泣いてたって。それ聞いたら心配するだろ」
「あと、あと、あいつが助けてってメールして来たんだよ!!」
ふー。
大きな溜息は、私からじゃ無かった。
マサオ君でも無かった。
自分勝手な行動の理由を叫ぶ男二人に対応中の、警察官二名でも無かった。
ナオキ君だ。
「住所も名前も嘘ばかりの女に入れあげた挙句、人生終わったね、あんたら」
淡々と述べただけのナオキ君のセリフが一番堪えたようだ。
男二人は見るからに気力を失い、がっくりと頭を下げた。




