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元婚約者が浮気相手と結婚式を挙げた日に私は王子様と出会った  作者: 蔵前
第二部 第二章 幸運な者は悪意を呼ぶ

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王子さまと魔王さま

 オートロックを開ける鍵などない俺は、とりあえず一階の共有廊下に飛び込む。

 さあ、なずなさんの部屋の階までダッシュだ。

 で、次に喧嘩慣れしていない俺がした事は、鍵穴に夢中な奴への跳び蹴り。


 よし、一人撃破!!


「てめえ、何しやがる!!」


 って、二人目が飛び掛かって来た。

 ならばと、俺はとにかく回転だ。


「ひっさつ、回し蹴り!!」

「うぐふぅ」


 大声と大きな動作は相手を怯ませる。

 いじめられっ子だった小学生の俺に兄が伝授してくれたものだが、二十歳越えた男がするものじゃないな。

 ついでに付け焼刃の行動も。


 俺の踵はしっかり相手の鳩尾に入ったが、やってやったぜ、となるよりも数秒前の自分の動きがただただ恥ずかしい。

 だってさ、俺は兄では無いので、敵は俺が与えた痛みにたじろいだだけだ。

 奴らのHPゲージはまだまだ残っている。

 そうだよ、俺はヨワヨワだ。

 理系の院生という、ストリートファイト的な強さなど不要な生活圏で生息している人間だ。そんな俺でしかないならば、俺というヨワヨワな人間こそが出来る事をするべきだ。


 騒乱を起こし、国家権力が到着するまで逃げ惑う。


 そう、人目があれば袋叩きにされても殺されるまではされない、はず。

 この間もなんとか逃げ切れたんだし。


「火事だあああああ」


 俺の大声に半グレ共はびくっと構える。

 その隙は俺は駆け出し、次に火災報知機を叩いて鳴らす。

 その後は、一階に降りてアパートの敷地外へと出るのだ。

 奴らは絶対に俺を追いかける。

 俺は警察が到着するまで奴らを引き付けながらの鬼ごっこだ。


「てめえ、待てやあ」


「待てと言われて待つ奴がいるか!!」


 たった一階降りるだけの一分にも満たない時間だったが、半グレ共が血眼になって俺を追いかけて来るから、俺は生きた心地などしない逃走時間だ。

 そして、目の前には、エントランスホール。


 カタン。


 金属製のオートロックドアが開き、なずなさんが!!


「なずなさん、入るな!!」

「よくやった。お前は出てこい!!」


 兄さん。

 なずなさんを庇うようにして、トレンチコートをはためかせて兄が前に立つ。

 救いの神の出現に、止まりかけた俺の足は再び動く。


 だが、俺は遅すぎた。


 背中の布地が後ろから引っ張られ――仰向けになった。

 倒れゆく俺の視界はスローモーションだ。


 そういうことにしてくれ。


 俺の上を人が飛んだよ。

 そして、床に転がった俺の頭の方向で、鈍い打撲音とくぐもった苦悶の声が。


 スローモーションだよね。


 でないと、兄の動きが人離れ過ぎてるって認めなきゃです。

 あんな瞬間で俺を掴んだ奴の腕を捩じり上げて放り投げ、後ろのもう一人を何とかしちゃったらしいなんて、怖すぎるんですけど。


「ナオキ君!!大丈夫?」


 大きな黒目勝ちの瞳を真ん丸にして、俺に心配ばかりの表情が俺の視界を占領してしまった。俺の世界が彼女だけとなったが、俺に何の異議も無いよ。

 だって、二週間ぶりの、会いたかった大好きな人なのだもの。

 ねえ、なずなさん。


「痛むの?」


「ううん。大丈夫」

「大丈夫じゃねえな」


 兄の恐ろしい声と口調に、なずなさんどころか俺までびくりと震えた。

 ああ、なずなさんが俺達から逃げ出してしまったら兄のせいだ。


「じゃ、じゃあ。救急車を。ナオキ君はやせ我慢何かしちゃだめよ」


 優しいなずなさんは俺の具合を確かめようと右手を伸ばし、俺はもちろんなずなさんの手を両手を掴んだ。ぎゅっとね。やせ我慢はいけないって君が言ったんだ。心の赴くまま行かせてもらおう。


「ナオキ君?」


「君こそが俺の癒しだよって、痛い」


 悪漢を完全に制圧した人に、額を軽く叩かれたのだ。

 そしてその人は、いつもの無害な人の仮面を被った。

 ヤクザスタイルの癖に!!


「なずなさん。こいつは調子こいて口説く余裕があるぐらい大丈夫だ。それよりも、今すぐ急いで荷物をまとめてくれるかな? 君の方が危険になったようだ」


 うん、そうだった。

 なずなさんこそが危険になっちゃったんだ。

 全部俺のせいで…………ごめん。

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