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元婚約者が浮気相手と結婚式を挙げた日に私は王子様と出会った  作者: 蔵前
第二部 第一章 その後にならず進行形?

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ここに魔王がいた

 私を庇うように現れたマサオ君。

 彼の格好はいつものぼさぼさの髪の毛に、お店の生き物たちの世話をするための動きやすそうなシャツにパンツ姿でない。


 そんないつもの格好も気安くて素敵だけど。


 今の彼はやくざと揶揄した優香達が正しかったような、仕立ての良いスーツを着込み、髪などオールバックにして額を出している強面姿だ。

 そんな彼が威圧感を持って、優香達を見下ろしているのだ。


 マサオ君の普段を知らない綾乃と優香は、マサオ君が覆い被さるようにして彼女達を見下ろして来た事に、ただただ脅えている。


「嬢ちゃん達よ。なずなにはもう近寄らんでくれるか。俺は短気なんでね。大事な女の持ち物盗むような奴は、女だろうが手が出そうで大変なんだわ」


 はふっ。

 綾乃達から溜息に似た息が吐きだされたのは、単に恐怖からであった。

 私だって怖かった。

 とっても素晴らしい声は、とっても恐ろしい声となるのね。

 でも作り過ぎ!!


 綾乃達どころか私までしっかり脅えさせたマサオ君は、綾乃達の返事など待たずに姿勢を戻し、私に腕を回し直すと歩き出す。もちろん、私だって彼から離れるかと歩く。だって足元がおぼつかなくなってる!!

 そうして店の外に出ると、彼はすぐに私を手放した。


「ごめんね。ちょっと怖かったかな」


「いいえ。大丈夫です。それよりも、持ち物を盗んだって、あの」


「あれ、気が付かなかった? あのワンピはなずなちゃんのものだったでしょう。無くなったって落ち込んでいた、あれ、でしょう」


「うそ。優香は同じデザインのサイズ違いを買ったのだと思ってました。ええ? あれって盗んだの? ああ、それでサイズがパツパツで。でもどうやって? ええ? どうやって!!」


 マサオ君は私に腕を差し出した。

 腕に私の手を絡めろ、という仕草だ。

 誰の目にもヤクザみたいな男性が腕を差し出しているならば、一般人の私が断れるわけはない、というか、古い映画の一場面みたいで素敵だって感動していた。

 だから私は彼の腕に右手を絡めた。


 そして私達はゆっくり歩き始め、トニーズカフェから一番近い信号に辿り着いたそこで彼は立ち止まる。彼は信号を渡るわけではなく、信号を渡った先の風景を眺めるようにして立ち止まっている。


「あなたは全部知っているの?」


 大通りの信号を渡った向いには、個人経営のクリーニング店がある。その店こそ、私の大事なワンピースを紛失した店だった。

 マサオ君がここまで私を連れて歩いたのは、数分前の私の疑問に答えるためだったのだろう。だけど彼の言葉はかえって私を悩ますものだった。


「人間は信じたいものを信じる。輝いている人気者に裏の顔があって、それがろくでも無かったなんて話は大好物だ。それで君こそ、君のワンピースを紛失したクリーニング店の店員の顔を覚えているかな」


「忘れるわけ――」


 言いかけて私は黙り込むしかなかった。

 クリーニング店でのやり取りを思い出したから。

 私のワンピースを受け取った店員と私に渡したと言い張った店員は違う人だった。ワンピースを私に渡したと言い張ったあの人は、自分が私を見間違えるわけ無い、とまで言い切ったのである。

 けれど私は彼女に会った事など無い。彼女の記憶なんて無い。

 だから思ったまま言い返したのだけれど、その途端にクリーニング店のスタッフ全員が一斉に彼女の味方をしたのだ。


「もしかして、私は彼女と会った事があったの?」


「ふむ。そうだな。君は何も知らないの方が復讐になるか」


「復讐って、あの」


「小物がした事など、ポケットの穴から十円玉が転がり落ちた程度のことだ。君にはその程度のことだった。そっちの方が良いなって思った。それに、泥棒に袖を通された服が戻ってきても嫌なだけでしょう」


「そうだけど。どうやってワンピースが優香の手に渡ったのか知りたいわ」


「本当に? 知ったら君はあの女ともう一度話し合わねばいけないよ」


 私は先程までの綾乃と優香との話し合いを思い返す。彼女達はなぜか私を彼女達の下に見ていて、彼女達の思い通りにならない私に腹を立てているようだった。

 それで何度も私が落ち込みそうな物言いをしてきた。

 でも、今回の私は傷つくどころか言い返せたけど。


「そうね。綾乃達にやり返せたけど、気分なんかすっきりしなかったわ。話の通じなさに情けなくてイライラしただけ。ええ、あなたの言う通り、もう一度あの子達に会うのはとっても嫌。うん。あのワンピースは私の悪運全て背負って消えてくれたんだと思って忘れる」


「いいねえ」


 マサオ君はくくっと笑い、私の背中を軽く叩く。

 黒塗りのタクシーがすいっと私達を通り越して、横断歩道を避けた場所に止まる。するとマサオ君は再び私を引っ張り始めた。


「厄落としだ」


「厄落としって」


「せっかくだ。ヤクザと悪女ごっこをしようか。あれよりももっといいドレスを俺が買ってあげる。今日は俺を散財させて遊ばないか?」

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