そして漆黒が似合うあなたが
優香達が私に教えたかったことは、達郎は私に女を感じないから私に同情で婚約した? ということと、私の外見が子供みたいだから比嘉江さん達に変態に売られるよ、らしい。
せっかくなんだからもっと分かりやすく、私を馬鹿にした言葉や私を罵倒したりすればいいのに。とりあえず誰かに聞かれたら、私は悪気が無いの、で誤魔化せるようにとの配慮なのだろうか。
そのためにおめかしして来たの?
ホテルに私が彼女達を誘うはずだと思い込んでいたり、ナオキ君たちと親交が無くって良かったと煽ってみたり、意味わかんないんですけど。
あ、そうだ。
悪口って自己紹介ってナオキ君が。
「あ、納得」
「そう、納得――!!」
「なずな?」
綾乃と優香はようやく私が、全くもって傷ついていない、と言う事に気が付いたようである。私が奥歯を噛みしめてしまったのは、私のお気に入りのワンピースを台無しにされた気がしたからだけだもの。
「ええ納得したわ。あなた方の思い込みで行くと、というか、あなた方だったら、知り合いの親族が経営しているお店に我がもの顔で乗り込めるのね。だから、私があなた方をホテルのフレンチに連れて行くはずなんて思えたのね。で、それでその格好? 信じられない。大丈夫? それってとっても恥ずかしい行為よ?」
綾乃は私から言い返しされると思っていなかったのか、真っ赤に顔を歪めた。
そしていつだって「虐められた私」を演出できる優香へと、私は視線を向ける。
私から消えてなくなったワンピースと同じものを着ている人。
私をどうしても自分以下にしておきたいらしい人。
「優香。私は上から83、56、85で、アンダーは65よ。だから胸はCカップね。あなた方と比べれば小さいかもしれませんけどね、子供体形では無いと思う」
私はスノーボールクッキーの小皿を自分のトレイから持ち上げ、優香と綾乃の間に少々乱暴な仕草で置いた。
「どうぞ差し上げるわ。私はこれからも比嘉江さん達と付き合いますから、ご心配されるあなた方こそ、今後は私と縁を切って下さいな。では」
私は立ち上がり、息を飲んだ。
息を飲んだのは私だけでなく、綾乃も優香も、だった。
立ち上がった私から自然な流れでトレイを奪い、なおかつ私の腰に腕を回して来た男は、この二週間会えなかったマサオ君なのである。
そして彼は、優香達が揶揄していた、ヤクザ、そのものに見えた。
まず、普段はぼさぼさの髪を整え、後ろに流している。
それから、服装!!
優香の式の二次会の時のドレススーツの時も素敵だったけど、仕立ての良い黒に近い灰色のスーツに、ベージュ色のトレンチコートを羽織った姿は重厚で威圧感さえも彼から滲み出ているようである。
まるで銀幕時代のハードボイルド俳優のようなのに、ヤクザ、としか私の脳みそが唱えないのは、嵌りすぎてて怖いくらいに格好いいからであろう。
ただし、初対面でこの姿だったら、私は彼を気安くマサオ君なんて呼んでいないと思う。
ナオキ君が彼を時々魔王なんて呼んでいたけど、冗談じゃなくて本当に魔王だった。それも、勇者に絶対倒されそうもない、魔王様だ。
彼は声を失った私に視線をちらっと動かして、すぐに視線を逸らす。
笑っている。
もう!!
私はマサオ君の胸を軽く叩く。
彼は私に再び顔を向け、私の耳元に囁き声を落とした。
「時間が欲しいと言ったが、あれは撤回する。俺は今すぐに君を連れ去りたい」
がくん。
私の足が、腰が、力を失った。
バリトンに近い低くて滑らかな良い声は、なんて凶悪だ。
マサオ君が私の腰に腕を回してくれたのは、私が腰砕けになると分かっていたからなの?
「あれ、どうしたの。なずなちゃん」
「あの、もう少し声を抑えて離れて下さい。良い声過ぎます、お兄さん」
ぶふっ。
私から顔を背けたマサオ君が今度こそしっかり吹き出したが、マサオ君以外に刀禰さんやマサオ君が話し合っていたらしきスーツの人達まで吹き出していた。
私はもう一度マサオ君の胸を叩く。
「ひどい」
「悪い。可愛くて。本当はね、俺は君から距離を取るつもりだった。なのに、君が黄金律の体形だって知ってしまった。これはもう手離せないね」
ええと、黄金律の、体形?
マサオ君が出現する前に私が話しちゃってたことは、ええと。
「わああ。忘れて。全部忘れて。後、聞いていても聞かない振りが大人でしょう」
「ハハハ。ごめんごめん。でもね、どうしても我慢できなくて。いいかな」
マサオ君は私を手放すと、私が座っていたテーブルの向かいへと体を屈めた。
瞬間的に彼は恐ろしい雰囲気を纏い、急に別人に見えた。




