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元婚約者が浮気相手と結婚式を挙げた日に私は王子様と出会った  作者: 蔵前
第二部 第一章 その後にならず進行形?

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カフェインレスだってあるのにね

 綾乃と優香にうんざりした私に、刀禰さんお手製のスノーボールは至福をもたらした。さくっとほろ、甘いだけじゃなくてアーモンドの風味が生きている。


「くっ。美味しい」


「なずな、それ――」


 メニューには無いこんないいものを、私に好意的でない人にあげるわけない。

 私は勝手に手を伸ばした綾乃の指先から小皿を遠ざける。


「どうして。私達全員分で三個サービスしてくれたんでしょう」


「常連の私にサービスしてくれたんだよ。だから、あなた方にあげるかどうかは私が決める事」


「あんたって本当に性格が悪くて意地汚いね。優香は妊婦なんだよ。空腹にさせたら駄目だってわかんない?」


「いいよ、綾乃。なずなが妊婦のことわかるわけないもの」


 優香は綾乃を宥め、しかし、それは私に攻撃するための前振りだった。

 彼女は私に向き合い、だからダメなのよ、と言った。


「ダメ、とは?」


「そこよ。わざとわかんない振りをして。確かに男の人は無邪気なふりをした女の子が好きよ。でもね、それは十代までじゃない? 二十代半ばの女がそんな子供みたいな振りは痛いわよ」


「もしかして、私にそれを教えるためにあなたは体を張っているというの? 婚前交渉を拒んだ私の代りに達郎と寝て、私が着ていたワンピースと同じお店のワンピースをわざわざ買って着て見せる。妊娠六ヶ月なのにきつくない? あと、妊婦は糖尿になりやすいのに甘いものをたっぷりもどうかと思うの」


 私は優香の飲んでいるものへと視線を動かす。

 ミルクピッチャーが空の代りに白いカップの中身は白く濁り、受け皿にスティックシュガーの空き袋が数個ある。ならば、かなりの量の砂糖がコーヒに混ぜこまれているはずだ。

 優香は私の視線に気が付くと、きまり悪そうにつぶやいた。


「仕方が無いじゃないの。ここはジュースも無いし」


「そうよ。ここって指定したのはなずなでしょう。常連でわかっているなら、妊婦が飲めそうなものがあるお店を選びなさいよ。こういう所が、あんたが気が利かないって思われるとこなんだから」


「ここはカフェインレスもあるよ」


「だからって!!」

「いいの。綾乃。なずながちょっと発達かかっている人だってことは私達こそよくわかっているじゃない。普通はみんなで良いものは分かち合うのに、なずなは独り占めばかり。その頑なで拘りが強いのが、発達の証拠。だから達郎君も悩んだのよ。子供にそれって遺伝しちゃうから」


 私は優香がどうやって達郎を揺さぶったのか、その片鱗が見えたと思った。

 そうか、頑なに婚前交渉を拒んだのは私が拘りが強い発達だから、と、達郎に思い込ませたのか。達郎も達郎で、私が発達障害だったからと優香と寝た自分を自分の中で正当化したのね。


 良かった。

 生まれた子供に障害があったら逃げる、そんな男と結婚するところだった。

 達郎を寝取ってくれてありがとうって、今本気で優香に思ったわ。


 気分が良くなった私は再びコーヒーに口を付ける。

 おいしい。

 せっかくのコーヒ。冷める前に飲み切らなければ!!


「なにコーヒーを飲んでいるのよ」


 優香が呆然とした声を出した。

 たぶん私をぺしゃんこにできたと思ったのに、平然とコーヒーを啜っているからだろう。それも至福に浸った顔で。


「だって、刀禰さんが淹れたコーヒーはとっても美味しいのよ。冷めたら勿体無いじゃない。でもがっかりだわ。最高のコーヒーが飲める最高のお店だから教えてあげたのに、あなた方には意味が無かったなんて」


「そっか。あんたはあの人たちとは全く付き合いなんか無かったんだ。比嘉江さん達と本当の知り合いだったら、トゥレドゥ比嘉江ホテルのレストランぐらい顔パスで案内できたはずだもんね」


 綾乃がニヤニヤ顔で納得したと言い放つが、私の頭の中はハテナばかり。

 良いものはみんなで分かち合うのにって、あ。

 二人がおしゃれしているのは、私に会うためどころか、県内でも有名なホテルのフレンチに私に連れて行ってもらえると思ったから? え?


「いや、知り合いでも、え? どうしてあなた方をホテルに連れて行かなきゃなの? え? 私が?」


「いいよ、なずな。私達が心配しているのは、あの比嘉江兄弟と付き合いが本当にあるかないかだけだったから。付き合いが無くて安心だわ」


「そうね、綾乃。ねえ、なずな。知っている? この町で有名な比嘉江さんてね、ちょっと前はヤクザで有名だったそうなのよ」


 私はマサオ君のお店に車が突っ込んでいる映像を思い出した。

 急に私から距離を取ってよそよそしくなった、比嘉江兄弟の行動。


「全部、繋がった気がする。ありがとう」


「じゃあ、二人と縁を切るのね。良かった。私達は心配だったんだよ。ねえ優香」


「うん。大事ななずなが騙されて変なアルバイトさせられたらって思ったら、私は心配で心配で。だって、なずな。あなたは自分を知っている? 体形からして子供みたいじゃないの。変な趣味の人にはそれがいいのかもって、達郎君も言っていたわ。だから心配って」


 優香は、これよ、という風に自分の胸のすぐ下で腕を組んだ。

 彼女の豊満な胸は、下から押し出される格好となって、厭らしく突き出した。

 このままじゃ彼女の胸が繊細な生地を破ってしまいそうなぐらいに。


 私のお気に入りのそのワンピースは、たっぷりの布地を使った優雅なAラインで私を洗練された女性に仕立ててくれた。パツパツにして着るものじゃない!!


 私は素晴らしいワンピースが汚された気がして、ぎゅうと奥歯を噛みしめる。

 そして優香は、私が優香を悔しがってのそれと勘違いしたらしい。

 次に優香が出した声と言葉は、優越に浸りきったものだった。


「ほんと、達郎君て優しいの。なずなが女として今ひとつだから、彼は同情で守りたい気持ちになったんですって」

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