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元婚約者が浮気相手と結婚式を挙げた日に私は王子様と出会った  作者: 蔵前
第二部 第一章 その後にならず進行形?

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トニーズカフェ

 トニーズカフェは古き良き日の喫茶店の様な店構えだ。

 ナオキ君はマサオ君がアングラな人だからと笑うが、ナオキ君こそマサオ君の友人が経営しているこのコーヒ専門店のコーヒーが大好きだ。そもそもナオキ君こそが、テイクアウトで私にトニーズのコーヒーを持って来たのだ。


 焦げ茶色の木枠のガラス戸を開けると、店内に充満している芳しいコーヒーの香りがふわっと鼻腔をくすぐる。

 それだけでもなんだか癒されるのに、バーカウンターには白いシャツに黒いベスト姿が嵌り過ぎる、コーヒーでなく凄いカクテル出しそうなバーテンダーみたいなイケメン店長が立っているのだ。


 マサオ君の友人ならば、やっぱりそれなりなんだろうな。


 切れ長の瞳に豊かな黒髪を後ろに流した涼やかな風貌の刀禰(とね)さんに、私は少々、いいえ毎回見惚れる。イケメンってイケメンを呼ぶのかな。


 さて店内と言えば、カウンターに五席と四人掛けのテーブルが三つある程度のこじんまりしたものだ。客は刀禰さんに商品を注文し、自分で勝手にテイクアウトするか店内のカウンターか四つあるテーブル席のどれかで食す。

 古き良き日の喫茶店メニューもあるのに、配膳は完全に客任せだ。

 このような様式であるのは、刀禰さんはコーヒーに拘りたいだけなのに、客側の要望に応えてメニューもテーブル席も作る羽目になったからだそうだ。


 商売をする気があるのかないのか。

 この点でもマサオ氏と刀禰氏は似ている。


「いらっしゃい。なずなちゃん。いつものモカで良いのかな」


「はい、お願いします。ハラさんで」


「ハハハ。なずなちゃんはすっかりうちに染まっちゃったね」


 私はえへへと笑う。

 実は私、このお店を教えてもらうまで、コーヒー豆なんか拘ったことなどありませんでした。そんな私でしたので、初めての来店時は淹れ方ではなく豆を選択せねばならない注文方式に戸惑い、誰もが知っている豆の名前、モカと唱えただけなのです。


 だけど、モカっておいしいのね。

 香りはチョコレートを感じる深みがあるし、味わいはとってもフルーティなまろやかさで苦みをあまり感じない。

 モカ・ハラー最高。

 今一番のお気に入りコーヒー豆だわ。


「こっちだよ。遅い。約束のチョコパフェもね!!」


 綾乃が席から立ち上がり、当たり前のように私に注文を付けた。

 私は彼女に何も答えず、コーヒーを抽出する刀禰さんの手元を眺める。

 刀禰さんこそ私の身の上をマサオ君から聞いているのか、私が綾乃を無視した素振りに対して口元に笑みを作った。

 でも、あら?


「お店からのサービスだ」


 刀禰さんは私のコーヒだけでなく、スノーボールクッキーを三粒乗った小皿も渡してくれた。もちろん、こだわりの店主手作りのものだ。


「ありがとうございます」


 私は会計を済ますと、カップと小皿が乗った小さなトレイを持って綾乃達が待ち受けるテーブルへ向かう。

 それで、あら?

 綾乃達が座るテーブルの斜め後ろ、観葉植物が目隠しとなっている一番奥のテーブルにスーツ姿の男性達がいた。休日なのに仕事とは大変ね。


 そこで私はマサオ君のことを連想式に考えた。

 彼こそ今は大変なのだ。

 彼のお店に車を突っ込んだ加害者との話し合いとか、きっと色々あるはず。


「チョコパは?」


 綾乃の偉そうな声音によって、私の意識はマサオ君から引き剥がされた。

 そして私は友人でもない彼女に応える必要も無いと、無言のまま彼女達の対面に腰を下ろす。


「あんたって気が利かないよね。わざわざ来た友人を締め出すし」


 高校の時はズバズバ言える綾乃は凄いと思ったけれど、乱暴な物言いと雑な素振りは高校時代だから許されたんだな、と思った。

 そして今目の前にいる綾乃は、普段の仲間で会う時とは違う格好をしていた。


 さばさば系を気取る彼女の普段着は、トレーナーにカーゴパンツ、あるいはチノパンである。なのに今日はベージュ色のハイネックのニットロングワンピースを着ていた。ワンピースは少々ローウエストで、ニットだからか上半身の体の線が出るデザインである。


 これからデートでもあるの?


 だけどニット地は彼女の大きな胸を強調するけど、ブラジャーのアンダーからはみ出た贅肉が段になっている胴回りも露わにしている。

 そこについては気が付いている?

 そここそ気付こうよって……気にし過ぎるのは私だけかな。

 私は友人のままだったら綾乃に言えたかなと考え、きっと友人のままでも言えはしなかったとすぐに思いついた。ならいいか。


 私は綾乃から視線を逸らし、逸らすんじゃ無かったと後悔した。

 どうして? と私は声を上げそうになったのだ。


 優香は、私の消えたワンピースと同じものを着ていた。

 何度も何度も完全に失ったのだからと自分を言い聞かせても、ぜんぜん全く諦められない、あのワンピースと同じものを着ている。

 優香は私に向かって微笑んだが、その笑みは私の婚約者だった達郎の隣で私に向けた笑みを同じだった。


 どう、私の方がお似合いでしょう?


 そんな心の声が聞こえそうな。

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