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元婚約者が浮気相手と結婚式を挙げた日に私は王子様と出会った  作者: 蔵前
第一部 最終章 世界の終わりとはじまりと

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私はテンジクネズミと天にむかって叫ぶばかり

「それは間違っているよ!」


 叫び声をあげたナオキ君を、私はまじまじと見返した。

 彼は頬に血を昇らせて怒っているような顔をしていた。


「ダメだよ! 俺はなずなさんに恋をしてる! でも、なずなさんが選ぶべきは兄さんだ! 兄さんは本当に凄いんだ! 俺と付き合ってもきっと兄さんを好きになっちゃう。だから、俺を選んじゃ駄目なんだよ!」


 ナオキ君は小学生みたいに叫び、そして、叫んだあとに我に返った。

 しまった、と真っ赤になってよろめいたところは幼く見えて、中学生、いいえ小学生の男の子、かな。

 そんな彼は、反抗期の高校生がバイクで走りだしてしまうかのように、私の家を飛び出して行ってしまった。


「ナオキ君、たら」


 いま、私の中の恋心のやじろべえが、ガクンとナオキ君の方へと傾いた。

 わたし、可愛いものに弱いみたい。

 それに、好きだって直に言ってくれた人に靡いても良いでしょう!


「あの馬鹿。ああ、パスタを茹る前で良かった。パスタを三人分茹でていたら大変だった。すいません。俺は一度帰ります。弟と話し合わねばなりません」


「あ、あの。私が図々しいから、あの」


 彼は私にふっと笑って見せると、シンクに寄りかかって私をじっと見つめてきた。

 私は、ひゃあ、となる。

 だってマサオ君は、様とつけるべきほどに何かオーラもある人なのだ。

 そんな男性に見つめられてしまったのよ。


 マサオ様の印象的な彫りの深い目元は、日本人特有の二重でもあるが、理知的でなんて涼しい目元だと溜息をついてしまうほど。


「君はあいつの行動を笑って流せばいいんだよ」


「でも。ナオキ君は」


「大丈夫」


 私は彼が大丈夫と言えば何でも大丈夫な気がした。

 ああ、心の中のやじろべえが真っ直ぐに戻っちゃった。


「でも、私の不用意な言葉でナオキ君を傷つけたみたいだし」


「いやいやぜんぜん。俺は嬉しいくらいですよ。俺達に慣れてくれて、俺達の事を好きになってくれている。俺はまだ31だ。女房が死んでまだ二年なんです。気に入った子が出来てもそんなにすぐに行動に起こせない」


「え?」


 彼はシンクに寄りかかったままだが、私の耳元に口を寄せられるくらいには上半身を傾けた。


「俺達はあなたに本気で惚れたのですよ」


「ええ!」


「でもね、あいつは院生になったばかりで就職もまだわかんないし、俺ももう少し時間がいる。だからね、俺達と一緒に歩いてくれませんか?」


「はい?」


「友達から始めてくれませんか? どっちを選んでも、どっちともお断りしてくれてかまいません。ゆっくり選んでくれた方が助かります。だって、あいつが言っていたでしょう。なんか、俺の方を選ぶのがお決まりらしいですよ」


 彼はそこでぷっと吹き出して、そして、あと片付けもしないですいませんと言って、私の部屋から帰って行った。


 可愛いったらありゃしないって、どっちについてのご感想の呟き?

 その台詞とその声だけで、私は腰が抜けました。

 いいえ、私の腰が抜けたのはマサオ君の呟きのせいじゃない。

 腰を抜かした私はずるずるずると下がり、台所の床に座り込んだ。


「うそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 ぷいぷいぷいぷいぷいぷいぷいぷいぷいぷいぷいぷいぷいぷい。



 私と茶々は比賀江兄弟によって混乱させられた世界で叫んでいた。

 私は、二人に愛されている純粋な喜びと、どちらかを選ばなきゃいけなくなった混乱で。

 茶々はナオキ君がほったらかしにした、ちゃぶ台の上のサラダボウルのレタスが食べたいとケージに体当たりする狂乱ぶりで。

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