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元婚約者が浮気相手と結婚式を挙げた日に私は王子様と出会った  作者: 蔵前
第一部 最終章 世界の終わりとはじまりと

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心を落ち着けて聞いて欲しい

 待合室で待つ時間は、ひたすらに長く感じた。

 受付を済ませてすぐにナオキ君が来てくれて、それも、泣いてしまった私を診察室に呼ばれるまで肩を抱いて慰めてくれていたという優しさだ。

 私は茶々の身体の心配だけでなく、彼に会えた嬉しさまでも込み上げて、もの凄く感情がぐちゃぐちゃにもなっていた。


 子供のようにしてナオキ君に抱きついて泣きたいくらいに、だ。


 ありがたいことに私が完全に崩壊する前に診察室に呼ばれた。そこで私は壊れたように叫び出した茶々の姿に唖然とするばかりで、落ち込んでいた気持ちが吹っ飛ぶことになった。お願い、じっとして。そしてそんなに騒がないで。ほら、先生があなたの心臓の音が確認できないじゃない。


「すごく慣れてますね。あなたの腕にしがみ付いている。こんなにモルモットが人に頼るのも珍しいんですよ」


 新庄医師は全然診察させてくれない茶々にうんざりするどころか、ピーピー泣いて私に縋っている茶々に優しい目で、私には優しい事この上ないことを言ってくれた。さすがナオキ君が進めてくれたお医者様だわ!!


「そ、そうなんですか。二時間のお散歩の時はこの子が怖がらないように、私は寝転がっているんです。この子はそれで私の匂いを嗅いだり、私の体にくっついて眠りったり。う、うう。こんなに可愛い子なんです。し、死んだりしませんよね。こんなに元気なのに死んだりしませんよね」


すると、新庄先生は急にくるっと後ろを向いた。まさか。茶々。再び絶望に染まる視界の中で、医師の動きが見えた。彼はペットキャリーの中の茶々の糞を顕微鏡に入れていたのだ。覗くんじゃなくて、ボタンを押すとモニターに映し出されるタイプの顕微鏡に。


「見てください。変に動く虫もいないでしょう? 寄生虫も無し。細菌感染もない。これは食べ過ぎで腸内環境が崩れただけの下痢です。さすが、比賀江さん家出身の子だ」


「え? 食べ過ぎ?」


「はい。食べ過ぎです。モルモットは吐けないので、こうやってうぐうぐって吐く動作をしているだけなんです。でも、これは吐けない生き物にはとっても辛い状態なんですよね。餌は控えて下さいね」


 重たい病気では無かった?

 食べ過ぎで、下痢、しただけ?


「でも、でも、この子は血が出ているのよ! 死んじゃったらどうするの! 茶々は私達よりもずっと血は少ないんですよ! 出血死しちゃうかもしれないじゃないですか」


 ナオキ君はぎゅうっと両目を閉じ、診察台の茶々を押さえながらも騒ぐ私を慰めるためなのか、待合室の時のように肩を抱いてくれた。


「ナオキ君」


 彼は目を開けると、私をじっと見つめ返した。

 物凄く真剣な目だ。


「ごめん、なずなさん。俺が言わなくていいって、新庄先生にサインを送っちゃったんだ。君にこれ以上の罰は必要ない」


「まあ!」


 彼の真剣な目は、茶々の病気は全部私のせいでも、私を責めたくはないと言っているも同じだった。

 私は大事な茶々をこんなに苦しめた飼い主なんだから、お医者にもナオキ君にも叱られたいくらいなのだ。

 罰を受けたいのだ。


「いいの。私が悪いのだから。全部、茶々に起こった事を教えてください」


 ナオキ君は新庄医師に対してこくりと頷き、新庄医師は私に微笑んだ。


「肛門の粘膜が切れちゃっただけですよ。あなたもうんこしすぎると血が出てしまう時があるでしょう」


 え?


「今回は整腸剤と軟膏を出しておきますが、次はオトナイン軟膏でいいですよ。人畜無害って書いてあるでしょう。あれで充分です」


 え?


 医者は手早く注射器に薬を注入すると、さっと茶々を押さえつけるや、茶々の背中にブスっと刺した。

 診察室は茶々の断末魔の声で壊れそうになった。

 私の鼓膜が守られたのは、ナオキ君が私の両耳を押さえてくれたからだろう。

 そして彼は私の両耳から手を外すと、私の耳に囁いて来たのだ。


「大丈夫。これはモルモット飼いの必ず通る道なんだ。俺もね、何匹も、ああ、ウンコしすぎでお尻が切れちゃった子をここに連れて来たよ」


 私の手元の茶々は今度は抗議のぷーいぷいを医者に向かって叫び出した。

 私はそんな茶々を抱きあげたが、自然に笑い声も自分から漏れていた。


「もう。この子は。本当に凶悪な生き物なのね。ふふ。ナオキ君、お昼は食べた? お礼に奢るわよ。えと、パスタで良ければ私が茹でるけど。あ、ピザを頼んだっていいわ。どうかな?」


 モルモットに恥ずかしい思いをさせられた先輩らしいナオキ君は、私の申し出にすごく嬉しそうにして笑って、パスタが良いと言ってくれた。


「なずなさんの手料理なんて夢みたいだ!」

 まあ!


「俺はなずなさんが大好きなんだ!」

 まあああ!

 って、ちょっと待って、それは、男性として? お得意様として?

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